9.兄ちゃん、目覚まし時計になる
「はぁー、よく寝……お弁当を作らなきゃ!」
弟妹たちや両親のお弁当を毎日作っている僕は急いで体を起こす。
だが、そこには知らない家財ばかり。
ベッドすら僕が寝ているものと全く違う。
「そうか……僕、死んだのか……」
もう家族に会えないと気づいたら、悲しさが襲ってくる。
お弁当を作る習慣ですら、体は違っても覚えていた。
「せっかくだから、お弁当でも作ってみるか」
外に出かける時は、硬いパンや干し肉を食べると聞いていたため、お弁当があった方が良さそうだ。
いつのまにか寝ていた僕は知らない部屋から出て、調理場に向かおうとしたが、違和感を覚えた。
「何の匂いかな……?」
ツンと鼻の奥を刺すような匂いと、どこか油っぽい匂いが混ざっている。
昨日来た時よりは臭くはないが、近いものを感じた。
僕はその匂いの原因を探るように近づいていく。
「やっぱり……」
あれだけ綺麗にしたのに、翌朝になったら再びゴミ屋敷となっていた。
それにテーブルやイスがひっくり返っていたりと、まるで強盗が入った後のようだ。
まぁ、ひっくり返っているのはそれだけではない。
「ジンさん! ゼノさん!」
床に転がって寝ているジンさんやゼノさんに声をかける。
「ぐがあああああ!」
ただ、ジンさんのいびきがうるさいため、声が届かない。
体を擦ってみるが、小さな体の僕では押し返されてしまう。
他の騎士も同様に眠っており、全く反応がない。
「はぁー」
弟妹たちでもここまで寝ていることはない。
弟に似ていると思ったが、よっぽど弟たちの方が可愛いね……。
僕は調理場に戻ると、ある物を取りに行く。
――カンカンカンカン!
「起きろオオオオオオオ!」
お玉がフライパンの底を打ちつけ、耳の奥を刺すような金属音が跳ね返る。
「うるさっ……」
「もう少し寝かせろよ……」
目を覚ます人もいれば、半分以上は寝ているし、二度寝をしようとする者も少なくない。
その中でもゼノさんは僕と目が合うと、ニコリと微笑んでいる。
きっと世の女性は整った顔に微笑まれると、キュンとするやつだろう。
だが、目がトロンとしているから、まだ寝ぼけていそうだな。
まずはこの眠っている騎士たちをどうにかしないといけない。
僕はジェスチャーで耳を塞いでもらうように伝える。
ゼノさんは理解したのか、こくりと頷き近づいてきた。
「ソウタも一緒に寝る?」
自分の耳を塞ぐように伝えたはずなのに、ゼノさんは僕を抱きかかえて、そのまま寝ようとしていた。
あれは頷いたのではなく、こくりと寝かけていたのだろう。
もう一度伝え直そうかと思ったが、ゼノさんも部屋を汚した一員だから、気にしないことにした。
僕は再び鍋の底にお玉をくっつける。
――カンカン! キィイイィッ…!
鍋の底を数回叩くと同時に、手元が滑ってしまい、まるで黒板を爪で引っかいたような音がする。
どこからか「やめろおお……!」という誰かの悲鳴が聞こえる。
ああ、こうやれば起きるのか……。
僕はニヤリと笑って繰り返す。
――キィイイィッ…! キィイイィッ…!
鍋の底を叩くより、擦り付けた方が効率的なことに気づいた。
「ぐが……ぬあああああ!」
「やめてくれええええ!」
いびきを掻いていた、エルドラン団長やジンさんですら、飛び起きるほどの不快な音が部屋に響く。
「朝からうるさいです」
別の部屋からカチッとした格好で起きてきた人がいた。
「えーっと……」
「副団長のエリオットです」
「ご挨拶が遅れました。昨日からお世話になっているソウタです。よろしくお願いします」
僕が頭を下げると、エリオットさんは驚いた顔をしていた。
「まだ小さいのにしっかりして……奴隷だからか……」
何か呟いているが、騎士たちが叫んでいるため聞き取りにくい。
奴隷って言葉が聞こえたような気がしたが、この世界には奴隷が存在しているのだろうか。
「エリオットさん、よかったら掃除を手伝ってくれませんか?」
黒翼騎士団の中では、一番真面目そうな見た目をしているから、彼なら掃除を手伝ってくれ――。
「いや、私は掃除が苦手なので無理です」
ああ、掃除ができないのは黒翼騎士団では当たり前だったのか……。
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