転生したら悪役にされがちな騎士団の“おかん”になってました～この騎士たち、どこか弟に似てて放っておけない～

７．兄ちゃん、唐揚げ戦争を眺める

「おい、エルドラン団長が壊れたぞ？」

「ジンさんとゼノさんも、あいつに逆らえなさそうだし……」

「でも、この匂いを嗅いでたら……」

「「「仕方ないか！」」」

　騎士たちはコソコソと調理場の外から中を覗いている。

　手伝っている三人の騎士も嫌がると思っていたが、「食べられない方が無理」と言っていた。

　それだけ気に入ってもらえるのは嬉しいが、上下関係は大丈夫なんだろうか。

　僕はエルドラン団長が揚げた唐揚げや根菜の煮物、オニオンスープをお皿に盛り付けていく。

「みなさん、テーブルまで運んでもらってもいいですか？」

「えっ……俺たちが？」

「騎士はそんなこと――」

「「イエッサアアァァァ！」」

　ジンさんとゼノさんの大きな声が調理場に響く。

　二人ともよだれが出そうになっており、今すぐにでも食べたそうにしているもんね。

「あんなジンさんとゼノさんを見たくなかった……」

「俺たちの憧れの騎士が……」

　やっぱり二人に手伝わせるのは辞めた方が良さそうだ。

　まぁ、一番辞めさせるべきなのは――。

「ふんふふふーん♪」

　エルドラン団長だが、顔に似合わず楽しそうに揚げ物をしていた。

　料理って誰かのための笑顔を思い浮かべると楽しくなるからね。

　僕も毎日みんなが喜んでくれたから楽しかった。

　ああ、家族に会いたいな……。

「おい、お前ら。手伝わねーとソウタの飯は抜きだぞ」

「ああ、死んでもいいと思うほどのご飯が食べられないって可哀想だね」

　その言葉を聞いた騎士たちは渋々ながらも料理を運んでいく。

　ジンさんとゼノさんと目が合うと、二人はニコッと笑っていた。

　次男と三男が下の子たちにお手伝いさせる時も、同じようなことを言っていたな。

　全ての料理を運び終えると、僕もテーブルに向かう。

「ソウタの席はここだぞ！」

「お誕生日席ですか？」

　テーブルにずらっと並べられた料理たち。

　僕はその中でも一番縁に置かれた椅子に座ることにした。

「おいおい、あそこってエルドラン団長がよく座る場所じゃないか？」

「エルドラン団長があそこに座れって言うなら仕方ないよな」

　普段はエルドラン団長が座っている場所に僕が座っているらしい。

　確かにここだと部屋の全体を見渡せるから、何かあった時にすぐに対応ができるのだろう。

　騎士たちの話をなんとなく聞いていたが、僕はあるところが目に入って気になっていた。

　騎士たちはさっき帰ってきたばかりなのに、もう部屋の片隅が汚れている。

　ああ、また掃除をしないといけないな。

「おい、まだ食べたらダメなんか？」

「お前ら先に食べたら黒翼騎士団から除名だぞ」

　エルドラン団長の言葉に部屋がピリッとする。

　まさかご飯前に騎士団から除名するって言葉が出ると思わないからね。

「ほら、ソウタ早く！」

「もう待ちきれないよ！」

　エルドラン団長、ジンさん、ゼノさんはすでに手を合わせて、僕の方を見ている。

　早くしないと、誰かが除名されるのは僕も嫌だからね。

　三人のマネをするように、他の騎士も手を合わせる。

「いただきます！」

「「「いただきます！」」」

　三人の声が聞こえた瞬間、我先に唐揚げに手を伸ばす三人。

「おい、ここは団長に譲るべきだ！」

「可愛い後輩に食べさせてあげる気持ちはないんですか？」

「そんなものはねーよ！」

「先にいただきますね」

「「おい、ゼノ！」」

　すぐに戦場となった光景に、他の騎士は呆然としていた。

　もちろん僕も驚いて、次はプレートで作ろうかと考えているほどだ。

「奥深い味わいで美味しいですね。ダイコンってここまで柔らかくなるんですね」

　どこか騎士としては細身で眼鏡をかけた男が、煮物を興味深そうに食べていた。

「さっぱりした味の方が好みですか？」

「あー、私は脂っこい肉が苦手なので、野菜の方が好きだね。でも、ここまで食べやすいのは初めてだな……」

　鶏の脂で味に深みが増しているから、味付けもしっかりしている。

　それを見ていた他の騎士も唐揚げより煮物を食べていく。

　表情からして、野菜が苦手な人もいるようだ。

　ひょっとしたら……。

「エリオットめ！　俺より先に食べやがって！」

「そうだぞ！」

「二人とも好き嫌いはダメですからね？」

「「「「「「ギクッ！？」」」」」」

　エルドラン団長とジンさんも野菜は好みではないのだろう。

　ただ、二人に注意したはずなのに、他の騎士まで反応していた。

「野菜は味がないし、硬いやつが多いからな」

「食べた気もしないし、すぐに腹が減って困る」

　エルドラン団長は味気のなさに、ジンさんはボリュームが少ないのが気になるようだ。

　サラダならドレッシングとかで、味付けをすればだいぶ印象は変わるし、芋類も混ぜればお腹は膨れるだろう。

「ふふふ、明日は野菜祭りになりそうですね」

「おっ……俺は肉がいいぞ！　唐揚げ最高だ！」

「俺も唐揚げがいいスッ！」

　僕が笑うと、二人はあたふたとしているが、もう僕の中では明日は野菜をたくさん使った料理を作ると決まった。

「好き嫌いばかりしていたら大きくなれないですからね！」

　弟妹たちも文句は言っていても、しっかり食べていたから大丈夫だろう。

　ここは兄ちゃんの出番だからな！

「くくく、エルドラン団長がさらに大きくなるって……」

「ジンさんとか、ただ暑苦しいだけじゃん」

「「てめぇら……」」

　その後も騎士たちは唐揚げの取り合いをしていた。

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