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5.兄ちゃん、騎士に料理を教える

「エルドラン団長? これはどういうことですか?」

「いや……あのー」


 僕と視線が合うとすぐに逸らす。

 立っている僕と目線が同じなのは、エルドラン団長が僕の目の前で正座して座っているからだ。

 今なら目線の高さが同じのため、いくらでも目を合わせることができる。


「ははは、エルドラン団長が怒られてるぞ」

「ジンさんも人のこと笑って――」

「いません!」


 ジンさんに目を向けると、彼は真剣な目つきで僕を見つめている。

 だが、反省しているというよりは、どこか怒られることを楽しそうにしている気がする。


 なぜ、こんなことになっているかと言うと……。


「みなさん、こんなに食べられるんですか? 買いすぎはダメだってわかるでしょ!」


 目が覚めた時にはテーブルの上には様々な野菜と肉、調味料が置いてあった。

 つい弟妹たちにお菓子は一個までと言っていたのを思い出してしまった。

 騎士と弟妹とは別だし――。


「きっと食べるぞ?」

「おう、ソウタの飯ならいくらでもいける」

「ソウタの料理は安心して食べられるからな」


 怒っている僕とは反対に、エルドラン団長とジンさんはケロッとしていた。

 むしろ二人ともニヤニヤとしている。

 僕が起きた時に驚かせようとしていたのかもしれない。

 幸いなことに、この世界には冷蔵庫のように保管できるところはある。

 ただ、冷凍庫はないため、長期の保管には向いていない。


「それにお金がもったいないです」

「いや、それは問題ぞ」


 どうやら騎士団にはたくさんのお金があるようだ。


「はぁー、ゼノさんは一緒に行かなかったんですか?」

「私ですか? 私はソウタさんの寝顔を見ていました」

「「なんだと!?」」


 僕が驚く前にエルドラン団長とジンさんが驚いている。

 起きた時に僕がジンさんの膝の上で寝ていたのはそういうことか。


「そうやって、媚を売るつもりか」

「頭の良いやつの考えることは違うな」


 エルドラン団長とジンさんがゼノさんを睨んでいた。

 僕に媚を売っても何もないけどな……。

 料理の要望を聞いたりはできるけど、この世界に何の食材と調味料があるのかわからない。


「材料の保管はできるけど……あっ、そういえば他の騎士の方はいつ頃帰ってきますか?」

「あー、あと一時間ぐらいで戻ってくるぞ」

「一時間後!?」


 そんなに寝ていたのかと外を見てみると、日は暮れており、薄暗くなっていた。


「騎士って全員で何人いますか?」

「黒翼騎士団は総員十二人の少数精鋭――」

「今すぐに夕飯の準備をしないと!」


 目の前にいるエルドラン団長みたいな騎士が十二人もいれば、すぐに準備しないと間に合わないだろう。

 それに大食いの大人だからね。

 一日の疲れも取れるほどの料理を準備しないと!


 三人に食材を調理場まで運んでもらい、早速夕食の準備に取り掛かる。


「お肉と野菜がしっかり食べられた方がいいよね」


 まずは鶏肉のようなものを一口サイズに切っていくことにした。


「大きな肉だな……」


 だが、ここにも問題があった。

 日本よりも鶏肉自体が大きいため、切っていくのも一人だと大変だ。

 サイズ的にはもも肉や胸肉として売っている一枚が、鶏丸ごとの大きさをしている。


「あっ……よかったらお手伝いしてくれませんか?」


 俺は近くにいた三人に声をかけた。

 なぜが、調理場の外から中を覗くように三人とも見ていたのだ。

 作っている最中は近寄ってこないようにって言ったからだろう。

 その姿が弟妹たちを思い出させる。


「騎士団長の俺にかかったらこんなもの――」

「ストップ!!」


 早速、包丁を持たせたエルドラン団長は、そのまま鶏肉に向かって振り下ろした。

 ええ、剣でもないのに、包丁を振り下ろすって……。

 それに――。


「手はネコちゃんです!」

「ネコちゃん?」


 そのまま指を伸ばして、押さえた状態で鶏肉を切ろうとしていたからね。

 皮が付いている鶏肉は滑りやすい。

 騎士団長の手がケガでもして、剣が握れなくなったらとんでもない。

 責任を取れって言われても、何もない僕では命で償わなければいけないかもしれない。


「指を曲げて、支えるようにして切っていくんです」


 少し小さくなった鶏肉なら、僕でも簡単に切れる。

 そのままリズム良く切っていくと、三人とも目をパチパチとさせていた。


「やっぱりソウタは騎士に向いているな」

「あの腕の捌きは短剣使いにも良さそうですね」

「私が手取り足取り教えますよ」


 本当に僕を騎士にさせるつもりだろうか。

 鶏肉を捌けても、生き物を捌くことはできないからね。

 騎士なら対人もあるだろうから、僕には絶対無理だ。


「僕は騎士にはなりません」

「はっ!? 出ていくのか!?」

「ソウタはここから出さないぞ! 美味しい飯を食わせろ!」


 エルドラン団長とジンさんは調理場の出入り口を大きな体で塞いでいた。

 ジンさんに限っては本音が漏れ出ている。


「ソウタ、今すぐに結婚しよう。それがイイ!」


 ゼノさんも思考がおかしいし、みんな夕方だから頭が疲れているのだろう。

 尚更、栄養がつく料理を作らないといけないな。


「ほら、三人ともお手伝いの続……ん? これは何だ?」


 シンクの下に何か光るものを見つけた。

 ゆっくり手を伸ばすと、お皿が二枚に割れていた。


 僕が振り返ると、大柄な男が一人、その場から立ち去ろうしていた。

 ジンさんとゼノさんは、そんな大柄な男――エルドラン団長をジーッと見つめている。


「エルドラン団長……?」

「ギクッ!?」


 彼はわからないように証拠隠滅して、逃げようとしていたのだろう。

 全く……やることが五歳の弟と同じじゃないか!


 エルドラン団長は調理場から逃走していく。


「あっ、待て!」


 僕はすぐに追いかける。

 お皿を落として割ったことはどうでもいい。

 隠したことも二の次だ。


「逃げるやつはご飯抜きに……すっとととと!」


 僕は急に止まったエルドラン団長に突撃する。


「すまない! 飯抜きなのちょっと――」

「クスッ!」


 困った表情をするエルドラン団長につい吹き出してしまう。

 本当に怒られた時の弟にそっくりだな。


「エルドラン団長、手を見せてください」

「あっ……ああ」


 エルドラン団長は恐る恐る手を差し出す。

 見た目は完全にヤクザなのに、僕に手を見せるだけでビクビクしてるのが、さらに笑いを誘ってくる。

 でも、今は笑っている場合ではない。


「割れたお皿でケガはしてませんか? 騎士の手は大事だし、体の中に入ると危ないですからね」

「へっ!?」


 怒られると思っていたのだろう。

 あっけに取られた表情をしている。

 実際によほどのことがない限りは、体にお皿の破縁が入ることはないだろう。

 ただ、騎士にとって商売道具でもあるし、僕は死にたくないからね。

 割れた皿が体に入ったから、僕は死にましたって死にきれないだろう。


「んー、手は切れていなさそうですね」

「おっ……おう!」


 どうやら心配していたことは起きていないようだ。

 エルドラン団長の顔を見上げると、少し嬉しそうな顔をしていた。

 よほどご飯が食べられることが嬉しかったのか。

 まぁ、顔はものすごく怖いけどね……。


「よし、問題がないとわかれば――」

「おい、ソウタどうする気だ?」


 急に僕が引っ張るので、エルドラン団長はビクッとしている。

 別に悪いことはさせない。

 ただ、あれを作るときは大人がいないと危ないからな。


お読み頂き、ありがとうございます。

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マッチョ売りの令嬢、今日も筋肉を売っています。〜筋トレのために男装してたら、王子の護衛にされました〜

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