4.兄ちゃん、騎士に任せることにした ※一部エルドラン団長視点
「お腹いっぱいになりましたか?」
騎士の三人は相当お腹が減っていたのか、鍋に作ったはずのスープを全て完食していた。
「ああ、うまかったぞ」
「久々に美味しいものを食べました」
「これで命懸けの生活をしなくて済みますね」
エルドラン団長とジンさんは、ちゃんとした料理に対しての感想だが、ゼノさんはやっぱり基準がおかしかった。
普段から何を食べていたのだろうか……。
「片付けをしてきますね」
僕はお皿を運ぼうと、各々食べた食器を持って調理場に向かった。
なのに、なぜか僕の分はエルドラン団長が運んでいる。
その後ろを付いてくるジンさんとゼノさん。
「俺たちが片付けるから、少し休むといい」
「みなさんが片付けてくれるんですか?」
僕の言葉に三人は頷いていた。
それなら食器を全て運んでもらえばよかった。
小さな体では、食器数枚でも重たいからね。
でも、本当に任せても良いのだろうか。
「あんなに部屋が汚れていたのに?」
「うっ……」
三人とも視線を外して、誰一人とも僕と視線を合わせようとしない。
なんか心配になってきた。
「ソウタは少し寝るといいよ!」
「さっきもあくびをしていたからね」
ジンさんとゼノさんも、僕に休むように勧めてきた。
「では、お願いします」
「ああ、俺たちに任せておけ!」
僕は持っていた食器をジンさんとゼノさんに渡す。
少し強引な気もしたが、優しさに甘えることにした。
「ふぁー」
小さなこの体になった影響なのか、それとも単に満腹になったからなのか、普段よりも強い眠気が襲ってきている。
さっきからあくびが止まらない。
僕はテーブルに顔を伏せると、少しの間だけ眠りにつくことにした。
調理場でワイワイしている声が聞こえているけど……まぁ、さすがに皿洗いはできるよね?
♢ ♢ ♢
「なぁ、水ってここで出るんだっけ?」
「エルドラン団長、何を言ってるんですか? 水は井戸から汲んでくるに決まっているじゃないですか」
「おっ……そうなのか?」
いざ、ソウタから洗い物をすると啖呵切ってみたものの、調理場の使い方が俺にはわからなかった。
いつもは部下の誰かが桶に水を溜めておいてくれるから、俺はそれを使うことが多い。
きっとジンみたいに井戸から水を汲んできているのだろう。
そんな力仕事をソウタに任せなくて良かったと今になって思う。
今もぐっすりと心地良さそうに眠っている姿を見ると、ただの元気な子どもにしか見えない。
だけど、ソウタはスープを作る時にどこから水を持ってきたんだ?
実は力持ちの才能でもあるのだろうか。
「ソウタって……孤児ですよね?」
ジンの言葉に俺は首を横に振る。
ジンは元々平民出身の孤児だった騎士だ。
孤児の中で珍しく、一人で生きている子がジンだった。
「いや、ただの孤児ならあんなに美味しい料理は作れないと思うぞ」
ソウタが料理をするって言った時は、正直信じてはいなかった。
だが、食べた瞬間、世界が変わったような気がした。
あれだけの材料で今まで食べた料理の中で、一番と思ったほどだ。
まさか俺のワインを料理に使うなんて……そんなこと考えた奴が過去にこの国にいただろうか。
「私もエルドラン団長と同意見です。まるで奴隷として育てられたけど逃げ出したのか……もしくは……」
「「「貴族の隠し子か……」」」
俺たちの声は重なった。
ソウタをゴミ捨て場で助けた時は、孤児かと思っていた。
ただ、名前を聞いた瞬間に躊躇った姿から、奴隷か貴族の隠し子の可能性が出てきた。
奴隷ならまた奴隷商に売られる。
貴族の隠し子なら公にバレてしまうと、殺害される可能性がある。
ただ、貴族の隠し子なら、使用人もいる可能性があるため、あそこまでの料理はできないはず。
そう思うと、生まれた時から教育された奴隷の可能性が高い。
しかも、あれだけの家事ができ、幼い見た目なら相当酷い仕打ちを受けて教育させられたのだろう。
「エルドラン団長、お皿が割れますよ!」
「ああ、ソウタに怒られるところだったな」
あまりにも力を入れすぎて、ゼノに言われるまで、皿が割れそうになっていることに気づかなかった。
この帝国では、いまだに奴隷制度なんていう、ふざけた制度も残っている。
だから、町の孤児を守るのも俺たちの仕事だ。
「俺たちであの子を守ってあげないといけないな」
「エルドラン団長の顔を見て、泣かない子どもって珍しいですもんね」
俺の顔を見て泣かない子どもはこの世には存在しない。
そう思っていたのに、ソウタは俺の顔見て笑っていたからな。
助けている孤児なんて、俺の金を受け取ろうとしないぐらいだ。
きっと俺より奴隷商人のほうが優しいと思っていそうだな。
「まさかエルドラン団長を率先して手伝わせるとか、ソウタは大物になるな」
ジンの言う通り、俺に掃除を手伝わせるなんて、普通じゃありえない。
きっとあいつは将来有望な大人になるだろう。
それまでは俺たち黒翼騎士団が保護してやらねばいけない。
決して、うまい料理が食べたいっていう理由だけじゃないからな。
「大人でも逃げ出すぐらいだから、私もいつも助かっています」
ゼノに関しては、俺がいれば女性が寄ってこないからな。
だから、俺は生涯独身なんだ……。
それは昔から分かってはいるものの、中々受け止められない現実もある。
「エルドラン団長、片付けが終わったら買い物に行きませんか?」
「買い物?」
突然、ジンは買い物に誘ってきた。
特に買いたいものはないが、今後の遠征に必要なものでもあるのか?
「ソウタが調味料と材料がないから困ってたじゃないですか!」
ソウタはあるものだけで料理を作っていたが、材料がたくさんあればもっと美味しいものが食べられるかもしれない。
そう思うと、夕飯が待ち遠しくなる。
「ははは、ジンが珍しく頭が回っているな」
「飯のためなら、俺も利口になりますよ」
俺はジンと共に買い物に行くことにした。
たくさんの材料に嬉しそうにするソウタの姿が目に浮かぶ。
どこか小動物みたいで、ちょこまかと動く姿が可愛らしい。
ソウタはそうやってのびのびと生きる方が合っているだろう。
「私は仲間が帰ってくるかもしれないから、ソウタと待っています」
そろそろ魔物の討伐に向かったやつも帰ってくるだろう。
団員たちもお腹を空かせて帰ってくるなら、尚更材料はたくさん必要になる。
「留守番はゼノに任せる。しっかりソウタの様子を見ておくんだぞ」
それに顔面が魔物よりも怖い集団に囲まれたら、ソウタもビビってお漏らししそうだな。
「言われなくても観察しておきますよ」
観察と言っていたが、ゼノはまだソウタを怪しんでいるのか?
元貴族のゼノは色々あって、人間不信になりつつあるからな。
有名令嬢たちから、たくさんの求愛をされてきたから……人間不信になるのも仕方ない。
「二人とも早く片付けないと、ソウタに怒られますよ」
俺は急いで桶を持って、水を汲みに行こうとすると、ゼノは調理場にある窪みに手を触れた。
「「なっ……なんだそれは!?」」
急に出っ張ったところから水が溢れ出てきた。
俺とジンは平民の出身だ。
魔導シンクの使い方が、あんなに簡単だとは思いもしなかった。
ソウタが起きたら、俺が使い方を教えてあげよう。
あいつなら、びっくりした顔で喜びそうだな。
俺はソウタの嬉しそうな顔を想像しながら、お皿を洗うことにした。
ちなみに手が滑って一枚お皿を割ってしまったが、そっとバレないように隠しておいた。
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