3.兄ちゃん、騎士になる
「んー、何もないね……」
「そりゃー、俺たちは誰も調理場を使ってないからな?」
道具だけは揃っているが、使った痕跡のない調理場に材料がなければ、もちろん調味料もない。
「あるのはエルドラン団長のワインとおつまみのチーズ」
「それと干し肉と硬いパンならありますよ」
干し肉と硬いパンは外に仕事に行く時に持って行くものらしい。
「しっかりしたものを作ろうと思ったけど、簡単なスープしか作れない――」
「おいおい、これだけでスープが作れるはずないだろ」
「ビッグスライムにやられた影響があるんじゃないのか?」
「すぐに診療所に行った方が良さそうですね」
なぜか急に三人はあたふたとしているが、僕は至っておかしくない。
調味料がなくても、スープぐらいはこれぐらいの材料があれば作ることができる。
「ほらほら、三人はあっちで待っててください!」
僕は小さな体で三人を調理場から押し出す。
本当に弟妹たちを相手しているような気分だな。
いつもご飯を待ちきれず、僕の周りをうろちょろしてたからね。
「まずは干し肉とパンを切るか」
僕は包丁を取り出して、干し肉とパンを小さめに切っていく。
「ソウタのやつ大丈夫か?」
「剣も持てないのに腕を切り落とすんじゃ……」
「あっ、こっちに来ますよ!」
静かにしていたのが気になり、チラッと見た時にはしっかり椅子に座って待っていた。
「静かに待ってないとご飯を抜き」と言ったのが効果があったようだ。
「結構塩が効いてるね……」
切った干し肉を舐めてみたが、塩味がしっかり効いていた。
ただ、僕の歯では噛み切るのは難しそうだ。
「火はどこで……うわっ!?」
コンロに手をかざした瞬間、赤い石が光り、突然炎が噴き出した。
やはりゲームの世界というべきだろうか。
「大丈夫か!」
「ケガはしていないか?」
「診療所にいく?」
どうやら大きな声を出してびっくりさせてしまったようだ。
僕が振り返ると、なぜかビクッとして急いで席に戻って行った。
ご飯が抜きになると思ったのだろうか……。
僕はフライパンに小さく切ったパンを半分と干し肉を入れて炒めていく。
「水とワインは同じぐらいでいいかな?」
これまたゲームの世界らしく、蛇口も青色の石に触れると水が出てきた。
今度は驚いて声が出ないように、口を手で覆ったから問題ない。
炒めたパンと干し肉に水とワインを入れて煮込んでいる間に、残り半分のパンをカリッとするまで焼いていく。
はじめに入れたパンは、ポータージュのようにトロミをつけるためだ。
今焼いているのはトッピングに入れるクルトンにするつもりでいる。
「しっかりワインは熱しないと、アルコールが残ってたら……あっ、食べるのはあいつらじゃないか」
弟妹たちのために調理していたけど、作っていたのは助けてくれた騎士たちのためだった。
ほどよく煮込んだら、チーズをフライパンで溶かして、ほぼ完成だ。
僕はスープをお皿に注ぎ、クルトンをいくつか入れる。
「あとは、とろーりチーズをかけて完成です」
「すげーうまそうだな」
「本当にソウタが作ったの?」
「今まで女性に作ってもらった手料理の中で一番美味しそうですね……」
突然声がすると思ったら、三人とも僕の後ろで見ていた。
作ることに集中して、後ろにいることに気づかなかった。
チラッと目が合うと、まるで悪いことをしたかのような顔をしていた。
そういえば、待たずに調理場まで来ているからね。
「いや……うまそうな匂いがして」
「お腹と背中がくっついちゃいそうで……」
「すみません……」
三人はすぐに謝ってきた。
邪魔になると思い、椅子に座るように伝えたが、せっかくだから手伝ってもらおう。
「熱々のうちに食べましょう。運んでくださいね!」
僕がニコリと笑うと、三人とも嬉しそうにスープを運んでいく。
「はやくいくぞ!」
「ふぇ!?」
急に僕の体はふわりと浮いた。
エルドラン団長が、僕を脇に抱えて歩き出した。
よほどお腹が空いていたのだろう。
テーブルに着くと、三人とも今にも食べたそうにスープを眺めている。
本当に騎士で合っているのかと思うほど、子ども……いや、待てをされている犬に見える。
「食べないんですか?」
「いや、こういうのは家長か作った人から食べる作法があるからな」
エルドラン団長がまだ食べていないところを見ると、僕が食べるのを待っているようだ。
「それなら、いただきます!」
僕が手を合わせて挨拶をすると、三人とも不思議そうな顔をしていた。
「えーっと、僕の家では作ってくれた人や食べ物にお礼を言う挨拶ようなもので――」
「「「いただきます!」」」
説明が終わる前に三人とも手を合わせて、挨拶をしていた。
それでも僕が食べるのを待ってソワソワとしている。
「お好きなタイミングで食べても大丈夫ですよ? せっかくのチーズも固まって――」
僕の言葉を聞き終える前に、三人はすぐに手をスプーンでスープを掬い口に入れた。
「ソウタ、なんだこれは!?」
「うんっま! 初めてスープが美味しく感じた」
「ああ、これなら毒が入っていてもいいな」
三人とも喜んでくれているようだが、ゼノさんの言葉が気になってしまう。
過去に女性が使った毒入りスープでも飲んだことがあるのだろうか。
「ゼノは昔、酒場の娘に本当に入れられたことがあったからな!」
「おい、勝手なこと言うなよ! あれは宿屋だ!」
僕が聞く前にジンさんが教えてくれた。
あまり深くは聞かない方が良いと思ったが、毒を入れられたのは事実のようだ。
どういう反応をすればいいのかわからなくなり、話を変えることにした。
「そういえば、お礼を伝えてなかったですね。助けていただきありがとうございます」
お礼を伝えると一瞬だけ手を止めて、三人とも頷いていた。
口にスープをいっぱい頬張っているから話せないのだろう。
「少しの間でしたが、お世話になりました」
これだけすれば、助けてもらったお礼にはなっただろう。
汚かった部屋も今は綺麗だからな。
――ガチャ!?
三人は勢いよく立ち上がると、口を急いでモグモグと動かして僕に近寄ってきた。
片膝立ちになり、僕の手をそっと握る。
「ソウタ、もうお前は立派な騎士だ!」
「そうだ! これからは一緒に住めばいい」
「できれば毎日、無理にとは言わないが私のために料理を作ってくれ!」
三人に手を握られているが、これはどういう状況だろうか。
騎士がお礼を伝える動きなのか?
「えーっと、僕は騎士で……一緒に住むことが決まって……ゼノさんの奥さん?」
「ええ、私の奥さんでも――」
「「それはさせねーぞ!」」
エルドラン団長とジンさんがゼノさんの手を引き剥がす。
本当に騎士たちは仲が良いんだね。
家に帰れないなら、住むところもない僕にとっては思いがけないチャンスだろう。
「ふふふ、剣は握れないから、僕はみなさんのご飯係をしますね」
僕の言葉に三人は嬉しそうな顔をしていた。
僕はこのまま黒翼騎士団にお世話になる……いや、お世話をすることになった。
それにしても、大きな弟ができた気分だな……。
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