23.兄ちゃん、誘拐された先で……
青翼騎士団員の肩に担がれるまま、僕は来たことない街並みに運ばもれていく。
その途中で聞かれたのは僕が『黒翼騎士団の新人か』、『あの宿屋を流行らせたのはお前か』ということだった。
特に黒翼騎士団の新人ではなく居候だし、宿屋の食事処を流行らせたのはレオたち家族だ。
僕は何もやっていないと伝えると、青翼騎士団の人たちは満足そうな顔をしていた。
逃げるために嘘をつくやつが世の中には多いからと言っていたので、どうやら勘違いされたのだろう。
「あのー、ここはどこですか?」
「ここは貴族街だ。きっと君のようなものが来るところではないな」
普段の街並みよりは煌びやかなお店も多いし、中に入るまでは入り口を門で区切られていた。
平民が入ってこないような作りになっているのだろう。
「えーっと……もう僕入ってますよ?」
「はぁ!?」
僕を担いでいる華美な刺繍が入った男は驚いた顔をしていた。
この世界の騎士はどこか頭が弱いというのか……良く言えば天然、悪く言えば馬鹿なんだろう。
「お前は黙っていればいいんだ!」
「この後たっぷり働いてもらうからな」
「お前たち静かにしろ」
「「はい……」」
隣を歩く威圧的な男二人も、どこかお馬鹿そうだしね。
さっきから僕に声をかけるたびに、担いでいる男に怒られている。
きっと上司と部下みたいな関係性なんだろう。
「ふぁー! 少し寝ていいですか?」
そのまま肩に担がれて揺さぶられる中、僕はだんだんと眠たくなってきた。
「はぁん!?」
また驚いた顔をしていたが、僕は眠気に勝てる気がしない。
だって、僕の体は子どもなんだもん……。
「おい、起きろ!」
「うーん……」
どうやら目的地に着いたのだろう。
その後すぐに起こされた。
目の前には黒翼騎士団の庁舎と似た建物があるが、こっちの方が設備が整っているのか見た目も綺麗だ。
「そういえば、僕って何のために連れて来られたんですか?」
「君にはうちの専業シェフをやってもらう」
「専業主夫ですか……?」
「ああ」
どうやら僕は結婚もしていないのに、『専業主夫』になって欲しいらしい。
そもそも僕みたいな子どもと結婚したら危ないやつだろう。
いや……ゼノさんが時折、冗談でプロポーズをしてきていたな。
そのまま中に入ると、すぐに調理場に連れて行かれた。
「何で俺がクビなんですか!」
「お前より使える専業シェフを雇ったらしい。すまない」
「今頃騎士に戻れって言われても、剣なんて握れません!」
調理場では二十歳前後の男が涙を流していた。
その男の肩を優しく撫でる年老いた男。
明らかに僕が来たことで、涙している男は離婚になったのだろう。
いや……待てよ。
ここには専業主夫が三人もいるってことか?
なら、僕は担いでいる男か子分の男二人のどちらかと結婚するのだろうか。
しかも、年齢層もバラバラで明らかにここの騎士の人はおかしな人ばかりだぞ。
そもそもこの世界は男と結婚するのが当たり前なんだろうか。
あまりにもこの世界の常識がわからず、僕は混乱していた。
「君にはここで働いてもらう」
調理場に着くと、僕は肩から下ろさせる。
本当にこの人は無神経だ。
わざわざ二人の真横に下さなくてもいいのに。
「こいつが新しい専業シェフか!」
涙していた男からの視線が痛い。
これが略奪愛をした時の感覚なんだろうか。
まだ、前世でも恋愛をしたことないのにな……。
「あのー、僕ここで働き――」
「俺と勝負しろ! お前より美味しいもんが作れないならここを出て行ってやる」
わけもわからず勝負を挑まれたようだ。
「いや……僕は遠慮――」
「ははは、その方が実力もわかっていいだろう」
なぜか、勝負することに肯定的な煌びやかな服を着た騎士。
僕の話を聞く前に専業主夫を賭けた料理勝負をすることになってしまった。
なぜ、青翼騎士団の人たちは話を聞かない強引な人ばかりなんだろうか。
すぐに料理勝負をすることになり、早速準備に取りかかる。
青翼騎士団の庁舎には専業主夫がいるため、調理場も整って――。
「何でこんなに汚いんですか!」
「あっ、いや……」
年老いた男は僕の言葉に狼狽える。
料理勝負をする前から、調理場が汚れていた。
調味料は出しっぱなしだし、鍋やフライパンは使ったまま。
まずは料理どころか、専業主夫についての基本を知らないのだろうか。
まぁ、僕も家事ができるだけで専業主夫ではないが……。
「二人もいて片付けられないんですか?」
「うっせー! お前は俺と勝負すればいいんだ!」
全く話が通じない男に僕もイライラしてきた。
専業主夫になる気もなかったから、適当に負けて帰ろうかと思ったが、とことん教え込んだ方が良いのだろう。
気持ちはネチネチと文句を言う小姑作戦だ。
「じゃあ、食材はこれを使ってくれ」
年老いた男が持ってきたのはじゃがいもだ。
黒翼騎士団でも良く使っているお馴染みの食材。
野菜嫌いなジンさんも肉じゃがは好きと言って、皿を抱えて離さないからね。
「こんな簡単な食材か!」
そう言って、対戦相手の男は反対側のコンロに向かった。
「時間はどれくらいですか?」
「えーっと、大体30分を目安で作ってもらえば大丈夫だ」
30分もあれば色々な料理ができるだろう。
だが、その前に――。
「もう、使ったものぐらいはすぐに洗うこと! 油汚れは落ちにくいんだからね!」
早速、スキル『小姑』が発動したようだ。
僕の料理勝負は鍋やフライパンを洗うところから始まった。
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