20.兄ちゃん、お仕事を始める
この世界に来てから数日が経ち、僕の生活もだいぶ変わった。
「お弁当は持っていますか? ちゃんと食べる前は手を洗うんですよ?」
僕は今日も玄関で騎士たちを送り出す。
最近は魔物討伐が増えて、騎士全員が魔物討伐に行っている。
「もちろん洗うに決まってるスッ!」
「ソウタの弁当は俺たちにとったら大事だからな」
相変わらず今日もジンさんとエルドラン団長は元気だ。
お弁当を持たせるようになってから、魔物討伐が前よりもしやすくなったと騎士たちから聞いた。
しっかり食べるようになって、動きやすくなったのだろう。
体もどこか前よりはふっくら……いや、がっしりしている。
「寄り道はしないように帰ってくるんだよ?」
「レオのお店に行くぐらいだから大丈夫ですよ!」
エリオットさんは心配そうに僕の顔を覗く。
ムスッとしていたことが多かったエリオットさんまで、最近は僕を心配してくれることが増えた。
「変な人について行ったらダメだからね?」
「もう、ゼノさんじゃないんだから……」
「私はソウタがいたらそれでいい」
いつも僕にベッタリしているのはゼノさんの方だ。
「もう、早く仕事に行ってください!」
ゼノさんの別れの挨拶は特に長く、ジンさんが引っ張るまでは離れようとしない。
ここ最近、騎士たち全員が僕に過保護になっている気がする。
それだけ僕の料理が食べられなくなることが嫌なんだろう。
街の飲食店にもいくつか行ってみたけど、どことなく味気がなかったり、素材の味を楽しむお店が多かったからね。
「気をつけてねー!」
僕は騎士たちが見えなくなるまで見送ると、早速溜まっている洗濯を行う。
洗濯機がないため、毎日手洗いでやらないとすぐに溜まってしまう。
そこで便利だったのが――。
「木灰が洗濯に良いなんて誰も知らないよね」
夏の自由研究で洗剤の代わりになる物を調べたことがあった。
その中で木炭を使うと綺麗に汚れを落とすことができた。
ただ、白い服は色がついてしまう可能性があったが、黒翼騎士団の洗い物には問題なかった。
「制服も下着も靴下も黒だもんね……」
漬け置きしていた制服を持ち上げる。
黒翼騎士団の身につけているものは、ほとんどが黒色だった。
そのため、色移りを気にすることなく、豪快に洗うことができる。
ただ、騎士たちはそんなことを一度でも思ったことがあるだろうか。
制服が黒だからって汚くないとか言い出したからね。
無理やり服を引き剥がした時は大変だった。
ゼノさんだけは、どこか嬉しそうだったが、やはりあの人は変わっている。
ちなみに木炭はレオの店で一緒に作っている。
酸素の量を調整して作らないと木炭にはならないから、尚更木炭の凄さに気づかなかったのだろう。
「よし、全部洗い終わったね!」
衣服を洗い、干した後はすぐにレオのお店に向かう。
一人で庁舎にいてもつまらないため、あれからレオのお店を手伝っている。
「おはよう!」
「「ソウにい!」」
僕が店の玄関を開けると、すぐにノアとノエルが駆け寄ってくる。
年齢もそこまで変わらないのに、いつのまにか僕は“ソウにい”と呼ばれるようになっていた。
「ちゃんと掃除をしたか?」
「「ピカピカになったよ!」」
そっと二人の頭を撫でると、二人とも顔を僕にスリスリとしてくる。
体の大きさがそこまで変わらない二人にスリスリされると、僕は押しつぶされそうになってしまう。
「おべんとーは?」
僕は掃除のご褒美に持ってきたお弁当を二人に渡す。
竹のようなものでできた容器をお弁当として使っているが、蓋を開けた二人は目を輝かせていた。
「わぁー、ピカピカしてるよ!」
「お星様がいる!」
鶏手羽の甘辛煮に入っているにんじんが気になっているのだろう。
にんじんを星型に切って、アクセントとして一緒に煮てみたが、どうやら二人は気に入ったようだ。
「ソウタは本当に何でもできるな」
遅れて出迎えてくれたレオはムスッとしていた。
「俺のは……」
「もちろんあるよ!」
いや、レオは自分の分がないのかと思ってムスッしていただけのようだ。
レオの分も渡すと、三人は嬉しそうに調理場に戻っていく。
三人を見ていると、本当に弟妹のような感じがする。
実際は僕の方が見た目は幼く見えるんだけどね……。
僕も調理場に向かい、早速準備を始めていく。
「パンの準備は終わっているかな?」
ボウルの中にある白い塊を指でグーッと押す。
痕が戻らないので、しっかり発酵はできているようだ。
「一次発酵はさせたから、後は作るだけになってるぞ?」
「もう立派なパン職人だね!」
パンを作っているのはレオの担当だ。
作り方を教えたら、以前よりも美味しいパンが作れるようになった。
「そっ……そんなに褒めてもパンと木炭しかあげるものはないからな!」
レオは照れた様子でどこかに行ってしまった。
この間、無意識に頭を撫でて褒めたら、その日は使い物にならないぐらいニヤニヤしていた。
一人で頑張っていたレオには嬉しかったのだろう。
「またレオにいはサボりだね」
「もう、ソウにいをみならってほしいね!」
そんなレオに対して、ノアとノエルは怒っていた。
初めて会った頃より、二人とも成長して、今では自分の意見を言うことも増えた。
「じゃあ、パンを丸めて焼いていこうか!」
たくさんあるパン生地を丸めて、30分程度は二次発酵させて焼けば完成だ。
お昼の営業までもう少しだから、その間にも違う準備をしていかないといけない。
「今日のスープは何がいいかな?」
「じゃがいも!」
「にんじん!」
メニューは基本的には同じものを提供している。
パンと一緒にサラダ、そして日替わりのスープだ。
子どもは野菜嫌いだと思ったが、ノアとノエルは野菜スープが好きなんだろう。
だけど、じゃがいもやにんじんも細かくして、濾したりと結構大変だったからな……。
「よし、今日はかぼちゃのスープにしようか!」
「「かぼちゃ?」」
「甘くて食べやすいから美味しいよ」
かぼちゃなら濾さなくても問題ないし、なめらかで口当たりも良くて、子どもたちも好きだろう。
僕はさっそくかぼちゃのスープを作ることにした。
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