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転生したら悪役にされがちな騎士団の“おかん”になってました~この騎士たち、どこか弟に似てて放っておけない~  作者: k-ing☆書籍発売中


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19.兄ちゃん、野菜づくし大成功 ※一部エリオット視点

 テーブルの上には炊き立て玄米が入った土鍋と、中央には山のように積み上げられたかき揚げと肉じゃがが置かれている。

 ご飯をよそうために、土鍋の蓋を開けるとふわっと鼻先をくすぐる香ばしい匂いが漂ってきた。

粒はふっくらと膨らみ、初めて玄米を土鍋で炊いてみたが、美味しくできたようだ。

 しゃもじを入れると、ほんのりとおこげが張りついている。

 お茶碗がないため、少し不恰好だが、平たい皿にご飯を盛り付けて配っていく。


「今日はかき揚げ天丼にできるように、天丼のタレも用意しました」


 少しすき焼きのタレを薄めたような味にはなったが、丼として食べたい人にはちょうど良いだろう。


「エリオットさんは天つゆの方がいいですよね」


 それに、さっぱりした味を好むエリオットさんには、さらに薄めた天丼のタレにすりおろした玉ねぎを加えて煮たものを渡した。

 出汁がない分うま味は控えめだが、玉ねぎの自然な甘味とうま味でさっぱりと食べられるはず。

 ついでに大根おろしを添えたら完璧だ。


「ああ、迷惑をかけたね」


 少し恥ずかしそうに笑ったエリオットさんは、元気になったような気がする。


「じゃあ、手を合わせて」

「いただきます」


 大きな声が部屋の中に広がっていく。

 昨日の唐揚げ戦争から学び、かき揚げは山になったかき揚げタワーがいくつも置いてある。

 まるでテレビで見た強豪運動部の食事風景だな。


「天丼うめえな!」

「肉じゃがなら、腹いっぱいになりそうスッ!」


 天丼を勢いよくかき込むエルドラン団長や野菜ではお腹が膨れないと言っていたジンさんも、肉じゃがなら満足しそうだ。


「さっぱりしながらも、ボリュームがあるのはいいですね」


 エリオットさんも興味津々に天つゆを眺めながら、かき揚げを食べていた。

 今度は野菜天盛りとか作ったら、喜んで食べてくれそうだな。


「はぁー、こんなに心温まるスープは初めてだ」


 ゼノさんは今にも溶けてしまいそうな表情で、味噌汁を飲んでいた。

 どうやら和食はこの世界でも受け入れられたようだ。

 それにパンばかりでご飯を食べる食文化がなかったので、興味がそそられたのだろう。

 やっぱりみんなで食べるご飯は美味しいね。


 みんなのようにはたくさんは食べられないが、エルドラン団長の揚げたかき揚げは美味しかった。

 それに夜食に食べられるように残った玄米を小さな塩おむすびにしたら、それもまた取り合いになっていた。



 ♢ ♢ ♢



「おい、エリオット! 今日の態度はなんだ?」

「ちょっとソウタのことが引っかかっていたんです」


 食事を終えた後、私はエルドラン団長に呼び出された。

 その手にはさっき他の騎士たちから勝ち取ったであろう塩おむすびが握られていた。

 この人もソウタに影響された人の一人だ。


「ソソソッソウタがどうしたんだ?」

「いや、ソウタが作る料理を調べていたんだが、ジャポーネに似たような料理があるらしい」


 私は帰ってきてからすぐに貴族の身分を使って、図書館に行っていた。

 そこでジャポーネについて調べたが、その中に今日買った土鍋や米などのことが書かれていた。


「ジャポーネの生まれか……」


 ソウタはジャポーネから誘拐された子じゃないのか。

 それが脳裏に浮かんだ。


「んっ? 別にジャポーネの生まれでも問題ないんじゃないのか?」


 エルドラン団長はジャポーネのやつらを知らないのだろうか。


「ジャポーネには隠密機関『忍者』が存在している。やつらは潜入した国の機密情報を盗んで……」


 明らかに子どもとは思えぬ行動に、奴隷ではなく、何者かの手先ではないのかと思った。

 それに町の人への対応の仕方、税金の仕組みやお金の考え方と、とにかくしっかりとしている。


「エリオット、もう少し人を信用してみたらどうだ? ソウタはお前の兄でもないし、仲間だろ?」


 エルドラン団長の言葉に私はあの時のことを思い出してしまう。

 確かにソウタは兄とは違う。

 でも、また私の居場所がなくなってしまうって思うと、疑ってはいられない。


「エルドラン団長がそんなんだから、いつまで経っても黒翼騎士団は『翼が折れた騎士団』って言われるんです!」


 私はエルドラン団長に強く言い返す。

 せめて黒翼騎士団長に威厳があれば……いや、エルドラン団長に当たっても仕方ない。

 エルドラン団長は騎士団の中でも、トップクラスの強さなのは私も知っている。

 あの選択をしたのは、私が人を疑うこともせずに、愚かだったからだ。


「すみません。頭を冷やしてきます」


 私は頭を冷やすためにベランダに出た。



 外に出ると誰かが声を押し殺しながら泣いているような声が聞こえてきた。


「うっ……会いたいよ……」


 チラッと覗くとそこには、忍者のソウタが小さく丸まりながら泣いていた。

 まるで何もできなかった幼い時の私を見ているようだ。

 いや……彼は私よりもしっかりしているか。


――キシッ!


 ソウタを観察していると、足元の板が緩んでいることを気づかなかった。


「ぐすん……エルドラン団長、お腹が空いたんですか……」


 すぐにソウタは涙を拭くと振り返る。


「あっ……エリオットさんだったんですね?」


 どうやら私を腹を空かせたエルドラン団長と間違えたようだ。

 さすがに夕食もたくさん食べ、塩おむすびを持っていたらお腹が空くことはないだろう。


「邪魔してすみません」


 すぐに去ろうとしたが、ソウタはすぐに私の腕を掴んだ。

 まさか忍者だと知ったことがバレた――。


「何か嫌なことがありましたか?」

「ふぇ!?」


 忍者のことについて責められると思ったが違った。

 私に嫌なことなんて……。


「エリオットさん、一人で悩んでいる時の弟と同じ顔をしていたので、ずっと気になってました」


 エルドラン団長は弟扱いしても許されるだろう。

 だが、私は歴とした騎士で貴族。

 忍者に私の考えがわかるはずがない。


「って言っても僕はもう弟には会えないんですけどね……。話を聞くことしかできないですけど、何かあったら教えてくださいね」


 そっと私の手を握り、何とも言えない顔で笑うソウタを見て、私は浅はかな人間だったと思い知らされる。

 本当に心配しているソウタの顔を見ると、ジャポーネの忍者だと思ったのがバカらしい。

 そもそも忍者ならあんなに美味しいご飯や私たちの面倒は見ないか……。


 この騎士団にいる人は、過去に色々あり、世の中から捨てられたような奴らだ。

 そんな人をエルドラン団長は引き取っている。

 明日の朝になったら、エルドラン団長に謝らないといけないな。


――ガタッ!


「おい、ソウタに気に入られようとしたって無駄スッ! 野菜ばかりの食事になったらたまったもんじゃない!」

「ソウタは今すぐ私と結婚しましょう」

「だから、ソウタはみんなのもんだ!」


 二人はどこかで見ていたのだろう。

 ジンとゼノがやってきた。

 ジンは相変わらず食い意地が張っているし、ゼノは……意味不明だ。

 女性にこりごりしたのはわかるが、子どもに手を出してはいけない。


「ふふふ、元気な人たちばかりで毎日が飽きないですね」


 優しく二人を見つめるソウタの顔は、まるで私たちを見ているエルドラン団長と似ていた。

 せめて、今回だけは私も彼を信じてみよう。

 家族に裏切られた(・・・・・)私が彼のことを信じたら、どこか変わるような気がした。


お読み頂き、ありがとうございます。

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