16.兄ちゃん、ふわふわフレンチトーストを作る
「まず、お客さんにいきなり突っかかるのはダメでしょ?」
「なんだと?」
少年は眉間にシワを寄せていた。
でも、ちゃんと教えないといけないことは、はっきり言わないと。
「そもそも、掃除も行き届いてはいないし、お客さんを迎える準備もできていないよね」
「うっ……」
「そんな状態で出てくる料理が美味しいって、本気で思ってるの?」
「「ギクッ!?」」
少年に注意をしたはずが、なぜかエリオットさんまで気まずそうな顔をしていた。
今まで汚い部屋の中で生活していたもんね。
「もちろん汚くても美味しいお店はあるけど、それは珍しいこと。まずはお客さんにどうやって気持ちよく過ごしてもらうのかってところから考えてないと……食べる以前の問題です!」
僕は少年に詰め寄ると、なぜか目をうるうるとさせていた。
あっ……これはやばいやつじゃ……。
「だって俺、掃除したことないもん……」
「へっ!?」
聞こえた言葉に僕は呆然とする。
この世界の人たちは掃除をする習慣がないのだろうか。
「料理も見よう見まねで――」
「見よう見まねで作ったのに、あそこまでパンが作れるの!?」
「うん……」
母親が病気で働けないと聞いてはいたけど、ほとんど見よう見まねでやっているとは思わなかった。
それならあの料理は納得できる。
むしろちゃんとパンになっているし、この世界で食べたパンの中では美味しいほうだ。
「そっか……強く言ってごめんね。よく頑張ってるね」
僕は少年の頭を優しく撫でた。
きっとこの子は怒られるのではなく、優しくされたいのだろう。
今もお母さんのために頑張っているんだもんね。
「くっ……別に頑張ってない」
今にでも泣きそうだが、少年の後ろには弟妹たちが心配そうにこっちを見つめていた。
兄なりに心配かけないようにしているのだろう。
料理を始めたばかりの昔の僕に似ていた。
あの時はお父さんは出張で、お母さんが高熱を出していたっけ。
お母さんに迷惑をかけないように、弟妹たちに初めてご飯を作ったことを思い出す。
「おい、牛乳と卵を買って……何があったんだ?」
どうやらエルドラン団長は本当に牛乳と卵を買ってきたようだ。
街の中を歩いている時に牛乳と卵は見かけなかったため、売っていないと思っていた。
思ったよりも食文化は発達していなくても、食材はいろいろとある世界らしい。
「牛乳と卵は町外れに売っていますよ」
僕の気持ちを読んだのかエリオットさんが教えてくれた。
牛や鶏を飼うのは、町の中では難しいもんね。
ただ、この世界の鶏はかなり大きかったが、そんな大きな鶏が近くにいるなら見てみたい。
「僕が作るから調理場を借りるね」
「うん」
僕は調理場を借りて、パサパサなパンを有効活用する料理を作ることにした。
「庁舎の調理場とはだいぶ違うね……」
いざ、料理をしようと思ったら、コンロやシンクが庁舎の物とは違っていた。
「うちで使ってるのは魔道具だからな」
どうやら普通の家庭では、手をかざしただけでは水や火は出ないらしい。
本当に大変な中、少年は一人でやっていたのだろう。
「さっきはごめ――」
「謝るのはやめろ! 俺たちのために何か作ってくれるんだろ?」
少年は僕の口を押さえた。
僕は小さく頷くと、嬉しそうに笑っていた。
「水は井戸から汲んでくるし、火はいつでも準備できるぞ!」
わからないことは少年に手伝ってもらう方が良さそうだな。
「まずは食中毒にならないように牛乳を温めます」
僕はエルドラン団長が買ってきた牛乳を温めようとしたら、エルドラン団長は申し訳なさそうな顔でこっちを見ていた。
「ソウタ、すまない」
「どうしたんですか?」
「今は牛乳が少ないらしくて、羊乳しか手に入らなかった」
どうやら牛乳だと思っていたものは羊乳らしい。
使ったことはないが、牛乳とさほど変化はないだろう。
「きっと美味しいものができると思うので大丈夫ですよ」
せっかく楽しみにしてくれているのに、ここでできないとは言えない。
味は後で調整するから問題はないだろう。
殺菌のために羊乳を沸騰しない温度まで温めていく。
表面がふつふつしてきたタイミングで、火から離せば低温殺菌できているだろう。
「卵をしっかり洗ってきたぞ」
「ありがとうございます」
エルドラン団長には、水でしっかり卵を洗うように伝えた。
「牛乳や羊乳、卵は殺菌していないと病気の原因になるので、火を通さないとダメなんです。ただ、今回作るのは火を通してない状態で使いたいので――」
「ソウタ、それはどういうことですか? 火を通していない状態で使いたいのに、羊乳を温めていましたよね?」
「これは低温殺菌と言って、病気の原因を倒すんです」
エリオットさんは真剣に僕の話を聞いていた。
一方、少年やエルドラン団長は首を傾げていたため、難しくてわからないのだろう。
「羊乳を混ぜながら冷やしている時に、卵を入れていきます。卵は羊乳の温度が高いと固まるので、人肌ぐらいの時に入れるといいですよ」
卵を入れたら、あとは砂糖で味付けをしたら完成だ。
少しだけ味見をすると、羊乳は風味が強かった。
なので、少しだけ塩を入れておくことにした。
「あとはパンを薄めに……まだ完成じゃないですからね!」
少年とエルドラン団長はジーッと僕の方を見つめていた。
まさかフレンチトースト液を食べようとしていたのだろうか。
パンを薄めに切って、できたばかりのフレンチトースト液に浸して準備完了。
「よし、その間に掃除をしましょうか!」
「「「えー」」」
パンを浸している間に掃除をすることにしたが、やはり掃除は嫌いなんだろう。
だが、そんな中、近づいてくる影があった。
「ノアもそうじしたらたべれる?」
「ノエルもそうじする」
僕よりも少し小さめな男の子と女の子が寄ってきた。
ずっと隠れていた少年の弟妹だろう。
弟の方がノアで妹がノエルらしい。
「一緒に掃除しようか。あの大きなお兄ちゃんたちはいらないらしいからね」
「「「なっ!?」」」
「掃除をしない人にはフレンチトーストは食べさせないからね?」
僕の言葉に三人は急いで、掃除に向かった。
それを見た弟妹は声をあげて笑っていた。
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