13.兄ちゃん、代わりに謝る
「おい、ソウタは気にしなくても――」
僕は戻ってきたエルドラン団長の足を強く踏む。
「なっ!?」
その姿に店主だけではなく、街の人やエリオットさんも驚いている。
もちろんエルドラン団長ですら驚いた顔をしていた。
「うちの騎士たちがご迷惑をおかけしてすみません!」
「いや、そんなことをしたら――」
弟妹が何か悪いことをしたら、謝るのは兄である僕の仕事だった。
状況がわからない時でも、まずは相手に誠意を伝えてから解決しないといけない。
今の店主を見ていると、話を聞けるような状況ではないからね。
もちろんこちらが悪くないとわかれば、戦うつもりでいる。
「エルドラン団長は、こんな見た目でもお茶目でとても心優しい人なんです。ただ、顔がすごく怖いのでご迷惑をおかけしてますが、とにかくいい人なんです。こっちのエリオットさんも、ムスッとはしてますが……他の騎士とは違って……野菜が好きです! あとは、二人とも掃除が全くできない人でして――」
「「おいおい!」」
僕が必死に弁解しようとするが、エルドラン団長とエリオットさんは、僕の口を押さえる。
「放してください! 今日の夕食抜きにしますよ!」
「なっ!?」
「くっ……今日の野菜づくしを楽しみにしていたんだ……」
二人はその場で手を放した。
ゴミ捨て場に捨てられて、何もわからない僕を助けてくれたのは黒翼騎士団たち。
「弟を守るのはお兄ちゃんである僕の役目です! 黒翼騎士団が勘違いされてるのは嫌なんですよ!」
「くくく、お兄ちゃんって……」
ゲームの悪役とは聞いているけど、実際に接しているのに勘違いされるのは僕も納得がいかない。
なぜか笑われているが、まだまだ伝わっていないのだろう。
「ほら、こんなに図体は大きいですが、掃除もご飯も作れないんですよ!」
「わかったわかった! もう可哀想だから、それぐらいにしてやってくれ!」
どうやら肉屋の店主もわかってくれたようだ。
僕が振り返ると、恥ずかしそうに顔を赤く染めているエルドラン団長とエリオットさんがいた。
「風邪でも引いたんですか?」
「いや、ソウタの気持ちは嬉しいんだけどな」
「嬉しいけど……恥ずかしいです」
みんなの視線が集まっているから、二人とも見られて恥ずかしかったんだね。
ここはやっぱりお兄ちゃんの出番だな。
せっかくだから挨拶でもしておこう。
「うちの騎士たちをよろしくお願いします」
僕は周囲の人たちにぺこぺこ頭を下げた。
「ソウタってどっか抜けてないか?」
「エルドラン団長も人のこと言えないですよ」
コソコソと二人は話をしていた。
そして、まだまだ問題は山積みだ。
「騎士団のお金はどこからもらっているんですか?」
騎士の中でも頭が良さそうなエリオットさんに聞いてみることにした。
「基本的には国から支給されています。ただ、黒翼騎士団は、騎士団の中でも財源が少ない方なので……」
まさか貧乏騎士団だとは思いもしなかった。
「なら無駄遣いはダメですね」
ひょっとしてお金が足りないから、色々な仕事を引き受けて悪役になってしまったのだろうか。
生活するにはお金は必要だからね。
「だけど、経済を回すにはお金は使わないといけないですからね。特に国から支給されているのは、国民のみなさんが働いた税金だから、使って還元しないと!」
僕の言葉を聞いていたエルドラン団長は懐からお金を取り出した。
「これで昨日の分も足りるか? 先に払っておくべきだったな」
頭を掻きながら、申し訳なさそうに店主にお金を渡した。
「くくく、面白いことを聞けたから、おまけしておくよ」
肉屋の店主は渡されたお金を数枚もらい、エルドラン団長に返した。
まさかおまけしてもらえるとは思わなかった。
これでエルドラン団長の顔の怖さは半減しただろうか。
「エルドラン団長、おまけしてもらったんだから、お礼はちゃんと伝えないといけないですよ?」
「あっ……ああ。ありがとう」
その場でエルドラン団長は頭を下げた。
「ははは、黒翼騎士団は見た目と違って良いやつなのはわかった。こちらこそいつも街の見回りをしてくれて助かってる」
肉屋の店主は手を差し出すと、エルドラン団長は驚きながらも熱く握手をしていた。
これで肉屋の店主とは、わだかまりはなくなるだろう。
「次は野菜店に行きますよ!」
昨日の食材の量を考えると、まだまだ謝るお店はたくさんあるからね。
誠意を持って接すれば、黒翼騎士団の良さを知ってくれるだろう。
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