12.兄ちゃん、異世界で初めてのお買いに行く
「ソウタは一緒の方がいいよね?」
「おい、早くいくぞ!」
玄関で僕に抱きついているゼノさんをジンさんは必死に引き剥がしていく。
ゼノさんの髪の毛を整えている時に、エルドラン団長と買い物に行くことを話したら、僕は捕まえられたかのように放してくれなかった。
終いには僕を一緒に連れていくと、ずっと言っている。
「ゼノも諦めろよ。今度連れていけばいいだろ? なぁ、ソウタ?」
「いや……僕は行くつもり――」
できれば僕は外に行きたくない。
あの大きな丸い塊よりも危ない魔物がゴロゴロいるらしいからね。
「俺たちの戦うところも見てみてよ!」
「黒翼騎士団は強いんだからな!」
それにジンさんだけではなく、他の騎士たちも僕に戦っている姿を見せたいらしい。
弟もよく「兄ちゃん見てて!」って言っていたな。
ここは「行く」って言わないと、ずっと玄関に居座りそうだ……。
「では……今度見学させてください」
「うっし!」
「楽しみにしてるぞ!」
僕の言葉に騎士たちは嬉しそうにしていた。
「では、いってらっしゃい!」
「行ってきます! ほら、ゼノも歩けよ!」
最終的にはゼノさんのお尻をジンさんが蹴って連れていく。
「よし、街の見守りとお買い物よろしくお願いします」
「ええ、行きましょうか」
みんなを見送った僕たちは早速街に行くことにした。
街の見回りはエルドラン団長とエリオットさんが、今日の担当らしい。
だけど、エリオットさんもどこか浮かない顔をしていた。
団長と副団長が街の見回りをするなら、街や人たちも安心だろうに。
街に来るまではそう思っていたが、悪役になってしまう騎士団は伊達ではなかった。
「なぁ、またあいつらが来たぞ!」
「お前、聞こえるだろ!」
「別に問題ない! 騎士なんて平民のことを守る気もないからいらねーしな」
「あいつらは貴族の翼で、俺らに取ったら金食い虫だからな」
聞こえてくる声は騎士団を悪く言うような言葉ばかり。
エルドラン団長とエリオットさんは気にすることなく、僕を間に挟んで隠しながら歩いていく。
ゼノさんが僕を外に連れて行こうとしていたり、エルドラン団長が自分で食材を買いに行こうとしていた理由がやっとわかった。
すでに僕が思っていたよりも、黒翼騎士団は平民にとったら悪役になっているようだ。
騎士自体が貴族を守る立場ではあるが、黒翼騎士団が警備しているってことは、騎士の中でも平民に近い立場で仕事をしているのかもしれない。
それなのにこの扱いにされている理由が何かあるのだろうか。
「ははは、ソウタも驚いているな。騎士は平民から嫌われ者だからな。特に黒翼騎士団は――」
「エルドラン団長!」
「ああ、ソウタにはまだ早いな」
少し気まずそうに笑うエルドラン団長の顔を見て、胸が締め付けられる。
まだ一日しか関わっていないが、エルドラン団長が優しいのは僕も知っている。
それに二人とも気を遣って、僕に何も言わないようにしているのだろう。
見た目はまだまだ小さい子どもだもんね。
「あっ、お肉を追加で買ってもいいですか?」
お肉屋さんだと思われるところに、僕は走って近づいていく。
「小僧、おつかいにきたのか? 何の肉が欲しいんだ?」
店の前には色々な種類の肉が置いてある。
豚肉のように脂身が多いものや、昨日唐揚げに使った鶏肉、赤みがしっかりしたお肉まで様々だ。
「んーっと、このお肉がいいですね」
「おお、オーク肉は脂身が多くて美味しいからおすすめだぞ!」
どうやらオークと呼ばれる豚の品種がいるのだろう。
優しい店主は少し多めに入れてくれると言っていた。
お金を支払うために、僕はエルドラン団長とエリオットさんを呼んだ。
「ソウタ、欲しいのはあったのか?」
少し離れていたところにいたエルドラン団長とエリオットさんが駆けつけてきた。
「オーク肉っていう――」
「チッ! 騎士の見習いだったのか。ほら、小僧早く肉を持って立ち去ってくれ!」
エルドラン団長が視界に入ると、店主の態度は変わった。
感じたこともない視線に、僕はどうすればいいのか戸惑ってしまう。
「ソウタいくぞ!」
エルドラン団長は気まずそうに僕の手を引っ張っていく。
だが、僕はその手を振り払い肉屋の店主の元に戻る。
「おじさん、このお肉はいくらですか?」
「なんだ、また戻ってきたのか?」
「お金はちゃんと払わないといけないですからね」
僕の言葉に店主は驚きながらも、大声で笑い出した。
「ははは、騎士様に金はもらえないぜ。だって、俺らが金を受け取ったら殺されちまうからな?」
店主の声に周囲からの視線が集まる。
どうやら店主の言ってることは間違いないようだ。
「どういうことですか?」
「そんなことも知らなくて、騎士の見習いをやっているのか? 騎士は俺らを守るって言いながら、好き勝手しているからな!」
肉屋の店主の言葉に僕は今まで街の人たちから、向けられていた視線がどういうものだったのかやっと理解した。
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