11.兄ちゃん、朝も大忙しです
「みなさん、準備できましたよー!」
大きな声で騎士たちに伝えると、勢いよく近づいてくる足音が聞こえてきた。
「おい、俺が先だぞ!」
「ジンさん、ここは後輩に譲るべきですよ!」
「先輩、後輩関係ねーよ! それにエルドラン団長が一番先頭じゃないか!」
「チッ!」
昨日はあれだけ運ぶのを嫌がっていたはずなのに、押し合いするほど集まってきた。
それに一番初めに着いたのは、さっき少し落ち込んでいたエルドラン団長だった。
「今日は何を作ったんすか?」
「温かい野菜スープとお弁当を作りました」
野菜スープと聞いて、他の騎士は嫌そうにしていたが、エルドラン団長の様子は違っていた。
「俺にもお弁当があるのか!?」
「あんな顔されたら、作らないわけにはいかないですからね」
エルドラン団長は、まさか自分の分があると思わなかったのだろう。
「布にしっかり包んでくださいね」
トルティーヤは通気性がほどよくある布で包むことで、乾燥も防げるし、ラップなどと違ってベタッとしない。
「わかった!」
エルドラン団長は嬉しそうにテーブルに食事を運んでいく。
弟妹の遠足でお母さんと一緒にトルティーヤを作ったのが懐かしい。
我が家では遠足の時に、トルティーヤやサンドイッチを持たせることが多かった。
可愛いキャラクター弁当を作った時は、可愛いから食べられないって一口も食べずに帰ってきたことがあるからだ。
野菜もたくさん食べられるし、みんなと違うお弁当の方が人気者のように声をかけられて嬉しいからね。
「今日は野菜がたくさんですね」
「エリオットさんは野菜好きですもんね」
あまり表情が変わらない副団長のエリオットさんは、どこか優しそうな顔をしていた。
全員にお弁当とスープを渡すと、僕もテーブルに移動する。
「あれ? まだ食べてなかったんですか?」
朝の準備は時間がかかるため、先に食べるように伝えていた。
だが、誰一人も食べることなく、椅子に座って待っていた。
それにあれだけ二日酔いしていても、真っ黒な騎士団服を着ていると、ピシッと決まっておりカッコいい。
「冷めちゃってますよね。すみません」
「いや、食事はみんなで食べた方がうまいからな」
一番初めに取りに来たエルドラン団長がそういうなら仕方ない。
僕たちは手を合わせた。
「「「「「いただきます!」」」」」
声を合わせて挨拶をすると、すぐに野菜スープを食べていく。
「あー、体に沁みる」
「野菜のスープだけど、結構しっかり食べられるな」
あれだけ野菜スープと聞いて落ち込んでいたのに、思ったよりも好印象のようだ。
二日酔いの体にもスープが沁み込んでいくようで、しっかり食べられるし、胃に優しく栄養もあるからね。
「ソウタ、おかわりはあるのか?」
「俺もおかわりしたいスッ!」
先に食べ終わったのはエルドラン団長とジンさんだった。
お互いに競い合っているのかと思うほどの食べっぷりだ。
それにエルドラン団長はお弁当だって言ったトルティーヤもすでに食べていた。
「鍋に残っている分は食べても――」
――ガタッ!
二人は急いで調理場に駆け込んでいく。
それに続くように他の騎士たちもかき込む。
そこまで急がなくても、たくさん作ってあるのにね……。
「ゼノさんは起きてくださいね!」
「うん……」
それよりもまた寝落ちしそうなゼノさんが気になる。
スープを口に入れては、ボーッとしていた。
長めの髪がカールしているのは、寝癖だとは思わなかった。
それにしっかり結んでいるのは寝癖を隠すためなんだろう。
寝坊助の妹の髪を結んであげていたのを思い出す。
「また眠たくなってきたな……」
「今日は外に魔物退治に行くって聞いていますからね!」
このままボーッとしていたら、魔物に襲われないか心配になっちゃう。
「ソウタ、もうスープがなくなっちまった!」
「うぇ!?」
あれだけ鍋いっぱいあった野菜スープも完食したようだ。
本当に手のかかる騎士たちだね。
僕は再び、簡単に食べられそうな物を作ることにした。
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