第六喰:「跳ねて、踊って、食べ損ねて」
夕暮れ・河川敷。
静かな風。鉄橋の下で、何かが爆ぜた。
続けざまに、もう一発。
それは、餓男が跳ねた音だった。
スプーンを手に、飛び回る。
口元を吊り上げ、目を見開き、喉の奥で笑いながら。
「ピクルス人格! 酸味で包囲!」
「次、パフェ人格! 砂糖で殴る!!」
「オレのターン! 辛口人格で煮込めえぇぇぇッ!!」
それを、遠くから見ていた少女がいた。
「……格好良いなぁ」
ネリは柵の向こうから、目を細めてそう言った。
隣にいたマユコは、明らかに引き気味だった。
「いやいやいやいや……顔が怖いって!!
なにあの表情、十人分の精神状態を1秒で再生してる顔だよ!? ひとりウロボロス!? カオスか!?」
「でも動き、綺麗だったでしょ?」
「いや、着地で地面えぐれてたよ。あれ、なんか喰ってたよね? 地面とか、なんかの残骸とか……」
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■バトルシーン:《ネオン爆裂師》デコト・サイリューム戦
相手は《光の派手派手異能》を使う男、サイリューム。
放つ技すべてが極彩色。エフェクト過剰。爆音。フラッシュ。
だが、それだけ。
「喰えるかよこんなもん……」
餓男のスプーンが虚空を斬る。だが、何も“味”がしない。
「ピカピカするだけじゃ腹は満たせない。
せめて栄養か、情念か、スープでも入れてこい。」
「は? てめぇ何様だよ!? これが美学なんだよッ!」
「味のない美学なんて冷めた油と同じだ。燃えねぇし、残るだけ」
餓男が百面相のまま突撃する。
「人格!『派手を殺す質素飯』!」
「白飯人格! 出ろォ!!」
《(……あ、オレ基本セリフないんすけど)》
「黙って喰え!!」
光の爆風を抜けて、餓男の拳が一撃。
サイリュームのライト演出が空中で弾け、地に落ちる。
「っ……クソがッ……!」
男はそのまま逃走。残ったのは、色とりどりの“空の味”。
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■河川敷・夜
餓男は地面に座り込み、
静かに、空を見上げながら呟いた。
「……薄かったな」
サイリュームの戦い。
味覚に刺さらない。記憶にも残らない。
派手で、空っぽで、“噛み応えのない料理”だった。
「今日も……薄い味しか、食べられなかった」
スプーンを土に突き立てる。
胃は動いているのに、脳が満たされない。
「誰か……いないか」
その声は、風に流れていく。
「誰かいないか。誰かいないか。」
ああ、お腹が空いた。