8/42
第八話「不協の予兆」
次の島へと向かう途中、奇妙な沈黙が辺りを包んだ。
「音が……消えてる?」
空間から“音”そのものが消えている。風の音も、羽ばたきも、鼓動さえも——聞こえない。
「これは……《無律結界》じゃ!」
フィリナの叫びとともに、空を割って影が現れた。
黒いマント、銀の仮面、無音の剣。
「お前たちは……“無律協会”!」
名乗りもせず、剣士は襲いかかってくる。斬撃のたびに、音が奪われる。
「奏人、演奏できぬぞ!」
「なら……演奏前に終わらせる!」
俺は、トランペットを構えずに、息を吐いた。
「フィリナ、ルゥ! リズム刻んでくれ!」
地面からビート。空から風音。俺の中でそれが重なり、音なき世界に“脳内演奏”が鳴り響く。
「《インプロ・コード:ミュート・ジャム》!!」
口に当てることなく、俺は音を「思い出し」「再現」し、「打ち出した」。
高音の衝撃波が、無音の剣を吹き飛ばす。
音が——戻った。