第六話「ビートの旅人、ドラムの少女」
浮島を後にして、俺とフィリナは風の翼で次の島へと向かった。
「この先にある《グルーヴァ島》には、熟練の打奏士が住んでおるらしい」
「打楽器……ドラムか」
「うむ。その者は、土音を使う“リズムの守り手”じゃ」
俺は楽しみにしていた。新しい楽器、新しい音、新しい出会い——すべてが音楽のような冒険だ。
しかし、島に着いた瞬間、空気が違った。
「こ……これはリズム?」
ドクン、ドクンと、大地が鼓動するように鳴っている。遠くから、力強いビートが響いてきた。
「近づこう」
俺とフィリナは音のする方へと足を進める。すると、森の中にぽつんと現れたステージのような広場。その真ん中で、ひとりの少女がドラムを叩いていた。
「誰だ」
目が合った。少女の背後で、巨大な太鼓が揺れている。
「旅の者だ。音を求めてここまで来た」
「なら、叩け。あたしとセッションするか、退くか、選べ」
挑発的な瞳。でも、そのドラムは真っ直ぐだった。
「乗った」
俺はラッパを構えた。
——3、4。
重く、力強いビート。少女が叩くのはリズム魔法。地面から脈打つ土の鼓動が俺の足を震わせる。
「面白いじゃねぇか……!」
俺は音を重ねた。4ビートジャズ風の即興。軽快で、しかし芯のあるメロディが大地のリズムに乗る。
「な……こいつ、合わせてきた!?」
少女の目が驚きに変わった。
トランペットとドラム。高音と低音、旋律とリズムがぶつかり、溶け、やがて一つの曲になる。
音の戦いではない。これは、音の会話だ。
最後の音が空に消えたとき、少女は深く息を吐いた。
「名前は?」
「鳴海奏人。トランペット奏者だ」
「……ルゥ。土の奏者。ついてくるなら、しっかりリズム刻めよ」