第二話「音を視る者」
「待て待て待て。異世界? 吹き手? 世界が音でできてる?どうなってるんだ! 俺は日本に帰れるのか?」
俺は叫びながら空を見上げた。浮かぶ島、漂う光、どこからか流れてくる旋律。現実味なんて欠片もない。でも、現実だった。
「落ち着け、奏人……とりあえず、息を整えろ」
深呼吸三回目でようやく思考が戻ってきた俺の前に、あの羽の生えた少女が静かに舞い降りた。
「わらわの名はフィリナ。風の律者じゃ。そなたが“鳴海奏人”、この世界に呼ばれし伝説の“吹き手”であろう?」
「律者? 伝説の吹き手? 俺、ただのトランペット奏者なんだけど」
「されど、そなたの“音”は異界の深奥にまで届いた。トランペットなる金管の神具、久しくこの世界では見られぬものでの」
神具。笑える。
だけど、その言葉を聞いた瞬間、俺の背中で何かが震えた。振り返ると、そこには見覚えのある黒いケース。俺のトランペットだ。奇跡のように無傷で転がっている。
「……お前、もしかして……」
おそるおそる開ける。中から金色に輝くベルが覗き、確かに俺の愛器がそこにあった。だが、次の瞬間——
「よう、奏人。久しいな」
トランペットが喋った。
「ひゃあっ!?」(←これはフィリナの悲鳴)
「!?!?!?」(←俺)
混乱の中、落ち着いた声が響く。
「お前の“最後の一音”が、俺に魂を宿したらしい。ま、よろしく頼むぜ——奏人」
目の前でぴかぴか光る俺のトランペットが、なぜか少し得意げに笑っているように見えた。