10/12
第十話「調和の檻、ヴァイオリン使いリリア」
彼女の名はリリア=トレモロ。オクタヴィアで最も有名なソリストにして、“旋律拘束魔法”の使い手だった。
「私は“調和”を司る者。音の乱れを、正すためにここにいるの」
「正す? 何を?」
「あなたの音。即興という名の暴力を、ね」
彼女のヴァイオリンが弓を走らせる。
《拘束曲:グリッサンド・ケージ》
——音の檻が、俺の体を締め付けた。
「くっ……体が、動かない……!」
「あなたのような“感情に流される演奏者”は、音を乱す災い。その力、オクタヴィアに必要ないわ」
リリアの音には、確かに“調和”があった。だがそれは、整いすぎた音——自由を許さない秩序の旋律だった。
「自由な演奏は、間違いじゃない……! 俺の音は——想いでできてる!」
俺は、胸の中でトランペットを思い描いた。
「《インプロ・コード:スウィング・リベリオン》!!」
拘束を打ち破る即興。変拍子とアドリブの嵐。整った秩序を狂わせる**“反調和のビート”**。
リリアの眉がピクリと動いた。
「あなた……少しは、聴けるようね」