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第一話「ラストノートと異世界の空」
観客の拍手が止んだあとも、俺の指はまだ震えていた。
——鳴海奏人、27歳。オーケストラの端で光を浴びることなく、それでもトランペットだけは手放さなかった。これは、俺の最後のソロ公演だった。
「……ありがとう」
控室に戻り、古びたケースに楽器を仕舞おうとしたときだった。
ピィィィィィンッ——
耳をつんざく不協和音が響いた瞬間、世界が弾けた。
気づけば、見知らぬ空。深く澄んだ青と、いくつもの浮島が広がる空間の真ん中に、俺は突っ立っていた。
「あれ?ここは?」
「そなたが、伝説の"吹き手"か」
金と銀の羽をもつ少女が、天空から舞い降りる。彼女は言った。
「ここはそなたの世界の言葉で言えば異世界というものだな。この世界は“音”でできておる。だが、調和が崩れつつある。そなたの音で、世界を救ってはくれぬか?」
……異世界? 音で世界を救う? いや、待て、それ以前に。
「俺のトランペット、どこいった!」