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3話

 落ちる水滴の音で、リシャールは目を覚ました。


「ここは……」


 何度か瞬きを繰り返し、洞窟のような場所に自分がいることを認識する。

リシャールは腰の剣へ手を伸ばそうとして、腕が全く動かないことに気が付いた。縛られている、と頭が正確に状況を理解する。


「おお、起きたか」


 粗野な声が耳につく。顔を動かすと、見張り番をしていたらしき男が奥へ声を掛ける。


「おーい、騎士の兄ちゃん起きたぜ!」


 その声に反応し出てきたのは、いかにも暴漢といった風の男たちだった。

 全部で三人。金でしか動かなさそうだ、とリシャールは思った。間違っても騎士の端くれではないだろう。その手には棍棒などの武器が見える。


「あの転移魔術を仕掛けたのは、君たちか」

「へへ。随分余裕そうだな、兄ちゃん。今の自分の状況は分かっているのかい?」


 リーダーらしき男が下衆な笑みを浮かべる。

 今、リシャールの手元に剣はない。体は縄でしっかり縛られており、簡単に解けそうにはない状況だ。


「ふむ、これは少し困った状態だね」

「おお? 随分と余裕だな兄ちゃんよぉ。これからどういう目に合うか、分かってるんだろうな?」

「どんな目に合っても俺の心は折れないさ。卒業式の日に好きな子に告白したが華麗にスルーされた時に比べれば、些事だ」

「なにそのちょっと可哀想なやつ。じゃなくて!」


 リーダー格の男は同情の表情を見せるが、頭をふるふると振り、再びにやにやと治安の悪い笑みを浮かべた。


「その余裕がいつまで持つか、見ものだな」

「ふ、君たち、俺が何回身代わりにされたと思っている? クロエ、俺の好きな子に『美人騎士であるリシャールの方が捕まった方が良いから』と放り出された数は両手を超える!」

「お頭ぁ! 俺こいつのこと本格的に可哀想になってきやした!」

「ええい黙ってろ! 俺もだけど!!」


 リーダー格の男は子分らしき男の頭をはたくと、リシャールを鋭い目つきで睨む。

 そんなやり取りを目にしながら、リシャールは周囲へ素早く視線を向けていた。

 リシャールがいる場所は、どこかの洞窟を改造した場所のようだ。風が入ってきている辺り、出口はそう遠くはなさそうだ。しかし転移の魔術を掛けられたとなると、外がどうなっているか分からない状況で無闇に動くのは得策ではないだろう。


「さて、君たちの目的は話してくれるかどうか聞きたいのだが」


 するとリーダー格の男はにやりと笑った。


「ようやく自分の状況が分かってきたか。へっ。あんたは今から奴隷になるんだよ」

「奴隷……?」

「そう。どっかのお貴族様があんたにご執心でね! あんたを捕まえたらたんまりと金をくれるって話だぁ!」


 げらげらと男たちは下品な笑い声をあげる。


「あんたは今から、花嫁になるんだよ!!」

「……」

「……」

「……」

「……」

「すまない、今花嫁って言ったか?」

「いやあの、俺もちょっと思ったんだけどな? 依頼主は花嫁って言うんだわ。俺も花婿じゃなくて? って思ったけど、今のご時世そういうとこ突っ込むのもあれかなって」

「一理あるな。よし分かった。——花嫁だと……!?」

「くはは! そうだ! 恨むんなら自分の美貌を恨むんだなぁ!!」


 ふいに、洞窟に足音が響いた。

 ヒールの音だと分かった。男たちはその足音に聞き覚えがあったのだろう。「来たぜ」と振り返った丁度その時、新たな人物が現れる。


「あなたは……メルディ様……!?」


 そこにいたのは、貴族令嬢のメルディだった。

 今日の見回りの際も出会った少女だ。リシャールに付きまとう人物は多いが、その中でも彼女は一際熱心だった記憶がリシャールにはある。


「依頼主様よ、ちゃーんと捕まえてきたぜ」

「まさか……あなたが俺を……!?」

「ふふ、今日も言ったじゃないですか、リシャール様。運命天命結婚しかないと!」


 メルディはその場で一回転すると、びしぃっと華麗にリシャールを指さしポーズを決める。


「リシャール様! あなたと私は赤い糸で結ばれた間柄! 美しいあなたには、是非、是非に!」

「……!」

「ウェディングドレスを着ていただきたい!」

「ちょっとやだな……」


 リシャールは本音を漏らした。男たちもちょっと同情的な目でリシャールを見た。


「ふふ、抵抗なさっても無駄よ。忌々しいあなたのペアの女性は今頃魔獣にやられているところ。転移魔術を使ったからここがどこかも分からないあなたは、助けを呼ぶことも出来ない……」

「……」

「あなたは今からあたしのものよ、リシャール様!」


 ふ、と。リシャールは笑みを零した。


「随分と面白いことをおっしゃる。メルディ様」

「——なんですって」

「我々が、あなたたちの罠に気付いていなかったとでも?」


 メルディが目を見開いた。男たちにも動揺が走る。


「俺たちが森の中へ来るよう誘導した少女、彼女がまず罠だということは、すぐに気付きました」

「な」

「クロエが彼女に犬について尋ねた時、少女は見た目の特徴しか言いませんでした」

「!」

「飼い主ならば、ペットの名前を教えるはずでは? 雌雄についてもなく、ましてや種族名しか答えなかった。それはつまり、ケルベロスを見たことしかなく、細かなことは言えなかったから」


 リシャールは男たちへ視線を向ける。


「そこの者たちの正体も分かっていますよ」

「なんだと」


 リシャールは薄い笑みを口元に浮かべた。


「その体格、そして金目当ての犯行……お前たちはここ最近王都を騒がせている、全裸で盗みを働く奴らだな」


 沈黙が落ちる。そして、


「いや……違うけど……」

「さすがに全裸はしない……」

「普通に駄目でしょそれ……」


 リシャールはふっと息を吐きだした。


「事前に罠だと気が付いた騎士団が、何も手を打たずにここまで来ると?」

「さらっとなかったことにした」

「くっ……さすがリシャール様の推理……!」

「今こいつおもくそ外してたよお嬢さん」


 ふいに。

 吹く風の種類が変わった。

 リシャールは肩の力を抜く。捕まり慣れていたとはいえ、気は這っていたらしい。


「それから、クロエについてだが」


 足音が響く。

 男たちが慌てる様子を見せる。それが知らない足音だったからだろう。


「彼女を甘く見ない方が良い」

「か、数の有利はこちらの方が上よ! それにあなたを人質にすれば——」

「メルディ様。お忘れのようですが、俺は騎士団№2と言われています。それはつまり、上がいるということ」


 メルディの目が見開かれる。


「そんな、まさか」

「そうだ。騎士団には強い者が他にもいる。一見そうは見えないところが、玉に傷だがね」


 瞬間、男の一人が吹っ飛んだ。

 メルディが悲鳴をあげ座り込む。すかさず二撃目が他の男を吹っ飛ばし、リーダー格の男だけが残った。


「全く。待ちくたびれたよ。騎士団№1の実力者——」


 その者が、顔を上げる。


बहुत बहुत धन्यवाद

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