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008 セーフティゾーン

 セーフティゾーンとはいっても、ダンジョン内であることには変わりなく、何の準備もなしにものを床に物を置いた場合、一定時間でダンジョンに吸収されてしまう。

 なので、ダンジョン用の特殊なシートを間に挟む必要があるし、比較的治安のいい日本といえど、ここはダンジョンの中。治外法権の自己責任が常識の場所。

 シートの上に荷物を置いておいたらなくなっていた、という自体になっても警察は動いてくれないし、当然ダンジョン協会なんかも動いてくれない。

 それでも私以外誰もいなくなったセーフティゾーンには、各探索者パーティの荷物や野営道具が設置してある。


 その荷物の周りに小型の防犯カメラや、警備用の諸々が設置されていて、防犯関連のアレコレは色々と考えられているのがわかる。

 ただ、探索者が本気になれば、それらの警備用品はあまり意味がないもののような気がするけれど。


 一応、関東第二ダンジョンの五階層までこれる探索者は限られているらしく、パーティ数の変動はあまりなく、パーティメンバーが多少変わったりする程度なのでほとんどが顔見知りという安心感もあるそうな。

 まあ、今回新しいメンバーいたみたいだけれどね! あ、私も新入りだったわ!




 適当な場所にダンジョン内設置用シートを敷いて陣取り、収納空間から折りたたみ式の長机を取り出す。ダンジョン街にあった激安の伝統で買ってきた『お弁当』の幟を机に結界で固定して手書きのお品書きを机に貼れば、お店は完成。

 関東第二ダンジョン五階層、セーフティゾーン内万屋『神域屋』の始まりである! なお! お客さんはまだ誰もいない! いつ帰ってくるの!?


 ……アニメみよ。




「あれ? おい、あれみろよ」

「あん? なんだよ、もう疲れて……。なんだあれ?」

「弁当って旗? 旗があるな」

「幟だろあれ」

「あー」


 タブレットに流れるアニメを一時停止して、顔をあげてみると六階層から戻ってきたパーティが私のお店を見て何やら話しているようだ。

 今何時だろ。ああもう夕方か。アニメ見てたらあっという間だったね。さあお店屋さんの開店だ。


「しゃーせー。お弁当ありますよー。飲み物もありますよー」


 すでに隠蔽を解いてあるので、私の姿は誰にでもみえるし声も聞こえるのでさっそく宣伝目的で呼び込みの声をあげてみる。わくわく!


「弁当……。まじで? まじで弁当売ってる?」

「いやここ、五階層だぞ?」

「ああ、でもないとは言えないし……」


 看板美少女の私の呼び込みを困惑したような顔をして、ひそひそとパーティ内で相談し始める探索者たち。

 なんだろう? まだ値段すらみてないだろうに、何が問題なのだろう?

 というか、近寄ってすらこないぞ? なんで?


 不思議に思っていると、意を決したのかヒソヒソやっていた探索者のひとりが近寄ってきた。困惑顔のままで。

 なんやねん。なんで困惑しとんねん。あの記事、コメントでは値段以外好評だったよね? 


「あー、すまない」

「はい、いらっしゃいませー」

「お、おう。弁当、売ってるんかい?」

「飲み物もありますよー」

「お、おう……。たかっ!」


 お客さん一号の探索者さんは渋いおっさんで、探索帰りなのでそれなりに汚れている。まあ、汗臭すぎて鼻が曲がるほどじゃないし、この程度は許容範囲でしょう。

 それより、手書きのお品書きをみた感想はやっぱりボッタクリ価格への驚きだったね。

 高いよね。わかるよ。わかるわかる。


「あー……。すまない。まあ確かにこんな場所で売ってる弁当ならこんなもんか……。いや、むしろ輸送料とか考えたら安いくらいか?」


 お品書きをみながらブツブツ言っているおっさんだけれど、買うのかな? 買わないのかな? どっちなんだい!


「すまないが、現金のみ、だよな?」

「Dカード払いはできませんねー」

「ネット繋がらんしな。まあそこは仕方ない。ちょっと待っててくれ、財布取ってくるわ」

「はーい」


 しばらく悩んでいたおっさんだったけれど、どうやら買ってくれるみたい。探索に財布は必要ないから荷物のところに置きっぱなしだったのかな? 不用心じゃない?


「まじで弁当売ってるのか」

「ホットがモットーのところのやつ? 飲み物は茶だけ?」

「金もっと持ってくればよかったな」

「らっしゃっせー」


 財布を取りに行ったおっさんは、パーティのメンバーにも話したのかみんなでぞろぞろやってきてくれた。

 しかもみんな買っていってくれる気満々のご様子。やったね! 初行商成功の予感!


「またせたな。唐揚げ弁当と茶をくれ」

「ありゃりゃっしたー。こちらでーす。ゴミはご自分で処分してくださーい」

「あいよ。ありがとうな……。あったけえんだが……。茶はぬるいな」

「そういうもんでーす」

「そ、そうか……」


 ゴミの処分については、ダンジョンの床に放置しておけば勝手に吸収されるので特に問題ないかな。虫が湧くにもその虫がいないし。

 温かいのは作りたてを収納空間にそのまま入れておいたからだね。いちいち冷ますのも面倒だし、温かいのは温かいままだよ! 常温で販売されてたやつをお茶は箱買いだしね!


「え、温かいの? まじじゃん! え、じゃあなんでお茶ぬるいの?」

「仕様でーす」

「し、仕様なのか……」

「やっぱアイテムボックス持ちかあ……。それもカスタマイズできるレベル……」

「あ、俺、鮭弁当とお茶で」

「まいどー」


 高い高いとは言いつつ全員がお弁当とお茶を購入していってくれた。

 購入物を渡すときも収納空間から出しているので、私の収納空間をアイテムボックスだと勘違いもしていたね。お弁当が温かいままだったのを、アイテムボックスのレベルをあげて時間関係のカスタマイズを可能にしているとも勘違いしているのはますます好都合かな? どうかな? イマイチわかんないや!

 でも、滑り出しは上々といったところかな。

 勧誘されたりもするかとも思ったけれど、そういったことはなかったのは面倒がなくてよかった。

 でもあのおっさんたちはみんな困惑してたし、そのせいもあるのかな?


「あ、あの」

「はい、らっしゃーい」

「北国工業さんたちが食べてるお弁当ってこちらで購入できるんですか?」

「北国工業? あの人達が食べてるお弁当はうちで売ってるやつですねー」

「あ、そうなんですね。あの人達が北国工業の企業系探索者なんで、北国工業さんって呼ばれてるんです。あ、うちは企業系じゃないんですけど、風の知らせっていうパーティで六階層をメインにしてます」

「はあ、それで買いますか?」

「あ、はい! えっと……。た、高い……。Dカード払いは、できませんよね。ちょっとお財布とってきます」

「はーい」


 おっさんたちにお弁当を売って少ししたら別の探索者のパーティも帰ってきていたらしく、そのうちのひとりが確認にきたみたい。

 というか、あのおっさん達って企業系探索者なんだね。

 企業系探索者は、そのまま企業に雇われてる探索者のことで、個人でやってる探索者とは違って、色々バックアップがあったり、固定給があったり、企業によって様々。大きな違いとしては大怪我などをしたり、死亡したりした際に保障があることかな。あとはノルマがあったり、回収したダンジョン資源の買取先の違いだったりかな。


「おいおい、ほんとに弁当売ってるのかよ。いやたっか! 店の十倍じゃん!」

「当たり前でしょ! ここどこだと思ってるのよ。お店で買える値段で売る意味がないでしょ!」

「あー。いやまあそれもそうか。富士山の自販機みたいなもんか」

「私、親子丼にしようかな。あとお茶ください」

「俺は焼肉弁当とお茶ひとつ」

「まいどー」


 先程話に来た風の知らせの人がパーティメンバーと一緒に来てくれて、やっぱり高いとこぼしながらもみんなお弁当とお茶のセットで買っていってくれた。

 まあお祭り価格のぼったくりなのは承知の上だからね。そこに商機を見出しているのだから仕方ない。

 いやなら買わなきゃいいし、自力で持ってくればいいのだ。


「なあ、君。弁当は残りどのくらいあるんだ? もしよかったらもっと売って欲しいんだが」

「あ、風の! 待て待て待て! 姉ちゃんも待ってくれ!」

「北国さん、こういうのは早いもの勝ちでしょう?」

「順番としてはうちのほうが先に買ってるだろう!」

「でも交渉はしてなかったでしょう?」

「まあ、待ってくれ。うちは企業系だからどうしてもだなあ」


 風の知らせの人が何やらもっと買いたいみたいだったけれど、北国工業のおっさんが待ったをかけてきたせいで何やら揉めだしている。

 私としては売れればいいけれど、どうせならまだ帰ってきていないパーティにも宣伝目的で売りつけたいんだよね。


「あー。今回はお試し行商なのでー。お弁当はひとり一個まででーす。お茶もでーす」

「え、まじかあ」

「そうかあ……。あ、でもお試しなのか? ってことは次もあったりするのか?」

「次来るならいつになりそう?」

「もしよかったらうちで護衛するぜ? ついでに余ってるところに荷物入れてくれると助かるんだけど」

「待て待てずるいぞ! うちの上にも話し通せるから護衛はうちを雇わないか?」


 なんか面倒な展開になってきたなあ……。


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― 新着の感想 ―
ちょっと計算してみたけど弁当だと100倍価格にしても割に合わないかな 薬草収集がウマすぎて往復考えたら単価安い商品は商売にならない これは薬生収集のナーフ待ったなしかw
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