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007 ボス

 一定階層毎に壁のように立ちはだかるのがボスだ。

 他の階層で出てくるモンスターよりも強かったり、武装がよかったり、様々な強化が施されている存在であり、倒さなければ次の階層に進めない。

 だが、一度でも倒せばスルーすることができるので、毎回戦う必要はない。

 ただ、パーティ内にひとりでもボスを倒していない人がいる場合は、ボスを再度倒す必要がある。


 私が勝手に案内役に任命したパーティは、四階層の探索に慣れている様子から、てっきりボス討伐済みなのかと思っていた。

 でも五階層への階段に進まず、セーフティゾーンでもなんでもない階段前で野営の準備を始めたのでどうやら違うらしい。

 スローペースの探索進行だったので、夜もだいぶ遅い時間に階段に到着したこともあり、彼らはそれなりに疲労しているご様子。

 そのままボス戦というのはやはり危険と判断しての、この場での野営なのだろう。

 ここまで案内してもらったので、私としては先にボス戦をするのもどうかと思うので、彼らに先を譲ろうと思う。

 魔法の武器もない私では倒すのに時間がかかるしね。さすがに朝までかかるということはないだろうけれど、それでもこちらのダンジョンでの初ボス戦ということで念には念を。


 野営の準備を一瞬で整えて、お弁当を食べていると、彼らも食事を摂りながらタブレットを取り出して作戦会議を始めたようだ。

 その中でもひとりがガチガチに緊張した様子で聞いているのを見るに、あの子は初ボス戦なのかな? だからセーフティゾーンに向かわず、ここで野営なのか。


 疑問も解けたので、あとはアニメの続きをみて就寝。

 もう階段はすぐそこだし、ボス戦を終えたらすぐセーフティゾーンなので彼らに置いていかれても特に問題ない。ゆっくり寝よう。




 起きたら彼らはいなかった。リターンズ。

 でももう迷う心配もないので問題ない。朝ごはんを食べて収納空間に野営道具を回収すれば出発準備は完了。

 さあ、ボス戦へいざゆかん!


 今までの階層間の階段に比べて倍以上はある段数を降りていくと、赤い鎖で封鎖された大きな重厚な扉が見えてくる。

 あの赤い鎖で封鎖されているときは、ボス部屋に誰かがいてボス戦中という意味になる。

 どんな手段を用いてもあの扉は開かず、ボス戦が終わるまで待たなければいけない。勝っても負けても。


 今ボス戦を行っているのは、案内役だったあのパーティだろうね。

 いつボス戦を始めたのかはわからないけれど、そう長くはかからないだろう。私と違って長時間かかるような階層でもないし。


 ちなみに、階段を降りてすぐにボス部屋への扉があるので、ここで休めばいいと思うかもしれないが、それは間違い。

 ボス部屋がある階段や扉前で長時間居座った場合、ボスの難易度が劇的に上がる上に階段が封鎖されて強制的にボス戦をさせられるんだよね。

 私はそれを利用してレアドロップ目的で凶悪なボスを何体も倒したりしたけれど、待ち時間が暇で暇でやばかったね。

 今なら見たいアニメや漫画がたくさんあるので苦ではないけれど、逆にあの時と違って強力な魔法の武器がないから倒せないから閉じ込められちゃうよ。

 神域魔法があるから絶対に負けない自信があるだけに、千日手になっちゃうから。


 思い出にちょっとだけ浸っていると、赤い鎖が溶けるように消えてボス戦が終わったようだ。

 これで次の人がボス戦に挑める。


 重厚な扉は非力な美少女である私にはとても重く……なんてないのでちょっと押すだけで簡単に開いていく。

 ボス部屋は広く、中には何もいない。反対側の扉に赤い鎖で封鎖された扉が見えるだけ。


 入ってきた扉を閉めないとボスが出現しないので、開けたときと同じように軽く押して閉める。

 これでボス戦開始。ボス部屋にいる全員がボスを倒していれば反対側の扉の封鎖が解けて終わりだけれど、ボスを倒していない者がひとりでもいれば……。


「懐かしい。あの真っ黒な魔素。ボス戦だねえ」


 私の声がボス部屋に消えてなくなる前に、部屋の中央に集まっていた魔素が人型をとってモンスターを生み出す。

 人型は三メートルくらいの巨漢であり、武器として巨大なハンマーを持ち、防具はない。

 でもあの巨体は脂肪ではなく筋肉の鎧であり、魔法を付与していない武器では傷をつけるのも苦労するほど耐久力が凄まじい。


 ボス用に強化調整されたオーク。それがこの五階層のボスなのだ。




「どっせーい!」


 ボス戦が始まった瞬間に巨体は一切の身動きを封じられ、うめき声しかあげられなくなった。

 もちろんそれは私の神域魔法による結界を、精密にオークの体に沿って展開しているから。


「うおりゃああ!」


 特に顔付近は精密に結界を張らないと大声をあげられてうるさいんだよね。

 階層を深めるとその大声だけでも魔力を乗せてくるから結構厄介な攻撃になるんだけれど、人型であるオークは構造上大声をあげるには口を大きく開く必要がある。

 精密に体に沿って張ってある結界のせいで、口を開けることなど不可能な状態ではうめき声がせいぜい。

 まあそのうめき声も割とうるさいんだけれど。


「ふんがー!」


 そんな身動き一つとれないオークをどうやって倒すか。

 答えは簡単で、人型である以上、モンスターであっても血が流れており、失血量が一定量を超えれば失血死する。

 つまりは、傷つけて血を流させればいいのだ。

 ……いいんだけれど、まあこれが大変大変。


 ただのオークだったら、魔法の武器でなくても傷をつけるくらいはできるんだけれど、こいつはボス用に強化されているので普通の刃物ではなかなか傷をつけることすらできない。

 私の予算で用意できる武器では、こちらのお店で魔法の武器を求めることはできなかった。めっちゃ高かったんだよね……。

 なので、ご用意したのはこちら。


 頑丈さを売りにした幅広のナイフを数本と、大きな木槌。


 オークの巨体に沿って展開している結界の一部を解除して、ナイフの刃を半分くらい固定する。

 釘打ちよろしく、ナイフの柄を木槌でぶっ叩く。


 するとどうだろう。魔法の武器でもないただただ頑丈なナイフがほんのちょっぴり皮膚を傷つけたではないか。

 あとはもうこの繰り返し。


 ひたすらに動けないオークに向かって、木槌を振り下ろし続ける私。疲れたら水分補給して休んで、振り下ろす。

 長年の旅で鍛え上げられた体力のおかげで、力はなくても木槌を振り下ろすくらいならなんとかなる。

 でもこのオーク。まじで頑丈なのが取り柄なだけあり、用意しておいたナイフが何本もお釈迦になった。もうほんと嫌になるくらい硬い。魔法の武器ほしいよー!


 がっつり刃部分が埋め込まれたら、今度は用意しておいたバールのようなものを駆使して引き抜く。

 一本くらい刃部分全部を埋め込んだくらいでは大した出血にもならないので、傷口に結界を展開してさらにナイフを埋め込む作業を続けていく。


 たっぷりと時間をかけて動脈らしき部分まで埋没したナイフを引き抜けば、やっと噴水のように血が吹き出してきた。

 血が私に付着する前に結界を閉じたので私に被害はない。危ない危ない。


「はー……。疲れた。はよ死ね」


 ただ、オークの巨体を支える血液量は人間の比ではないので、噴水のように吹き出していた血であっても、なかなか失血死はしない。

 ここからは待ってるだけでいいので楽ではあるけれど、結界の中は真っ赤である。

 オークのうめき声も激しくなり、結界を破ろうと頑張っているようだけれど、無駄無駄。私の神域魔法を破りたいなら神にでもなりなさいな。




 たっぷり時間をかけて失血死したオークが残したのはお肉と魔石。

 このお肉が美味しいんだよね。普通のオーク肉のとんかつはジューシーでそれでいて油っこくなくてとても美味しかった。

 関東第二ダンジョンでは第七階層で普通のオークが出現するのだけれど、ボスのオークのお肉の方が美味しいらしいので楽しみだ。持ち込みで作ってくれるところ探さないとね。


 赤い鎖で封鎖されていた扉から鎖が消えていたので進んでいく。

 割と長めの回廊を通り抜けると、そこはボス部屋並に広い空間。ここがセーフティゾーンらしい。

 その証拠に、広い空間の各所に野営道具が設置されていて、何パーティかの探索者が拠点にしているのがわかる。


 私の前にボス戦をしていた案内役の探索者パーティも場所取りをして野営道具を設置しおえているようで、装備や道具の整備をしている最中だった。

 私のボス戦はかなり時間がかかっていたし、時間的に朝だったはずなので探索に行っているとばかり思っていたのだけれど、ずいぶんのんびりしているような。あ、もうお昼の時間じゃん。

 なるほど、お昼ご飯を食べてから出発するのね。


 ……とか思っていたけれど、どこにお店を出そうかなとウロウロしている間に彼らは六階層へ出発してしまっていた。

 ご飯食べ終わってたのね。

 ま、まあいいか。持ってきたお弁当とかもあんまり量があるわけでもないし。


 ……でも、これで私以外誰もいなくなっちゃったわけで。

 誰もいなければお客さんがいないわけで。


 あっれー? おっかしいなー?



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