005 行商
楽してお金儲けをする方法を探しながら、週に一回のペースでダンジョンで採取をして納品しつつ、サブカルチャーにどっぷり浸かる生活を続ける。
100年分のサブカルチャーはちょっとやそっとじゃ消費しきれないぞ! なんて困ったことなんだ! いいぞもっとやれ!
よく見るようになったネット掲示板でも、週一回現れる謎の座敷童ちゃんの話題は結構な頻度で出てくる。
なんでも、どうしても顔が確認できないのが不思議だとか、どうやって消えているのか、何のスキルなのかと頻繁に意見が交わされている。
中でも少々注意しなければいけないかもしれないと思ったのが、企業のスカウトが座敷童ちゃんを狙っているという話だった。薬草類を主に研究している企業が大量納品を続けている探索者に目をつけるのは当然のことだろう。
その関連で企業で雇用する企業系探索者としてスカウトしようとしているんじゃないかという話だった。あくまでも見かけた人やその話を聞いた人の推測だったのだけれど、まあ概ねそんなところだろうね。
とはいえ、精算が終わったらすぐに神域魔法で隠蔽しちゃってるのでスカウトとは話したことすらない。
いや、支部内では受付嬢としか話したことないかも? 支部外でも店員さんしか話してない……? あれ? 私ボッチ? うーん……まあ別に正直どうでもいいね!
日本に戻ってきて一ヶ月以上が経過した頃、面白いネットニュースを発掘した。
ずいぶん前の話のようで、なかなか探すのに苦労したのだけれど、なんとダンジョン内での行商の話だった。
とあるアイテムボックス持ちの探索者が、自分たちのパーティ以外の荷物もアイテムボックスに詰め込んで、ダンジョン内にある安全地帯であるセーフティゾーンで販売したそうだ。
値段はもちろんお祭り価格のぼったくり。それでもセーフティゾーンまで数日はかかる距離があるので、大人気ですぐに売り切れたそうだ。
元々アイテムボックスは非常にレアスキルであり、さらにはアイテムボックス内の容量はLvをあげなければ満足な容量にはならない。
私の空間魔法の収納空間は魔力を割り当てればなんとでもなるけれど、アイテムボックスはそうではない。
行商を行った探索者もアイテムボックスに行商用のスペースを確保できるようになるまでに結構な時間がかかったようで、思いついてもなかなか実行できなかったようだ。
深い階層では何日もかけて向かい、その階層でさらに何日も探索をして大量の資源を持ち帰るのだ。
必要なものも大量にあるだろうし、パーティで探索しているのだし、その分荷物も多くなる。空きスペースを作るのも大変だったのだろうね。
ちなみに、あちらもこちらも特定階層にワープしたりする施設も道具もなく、潜るのも戻るのも自力となる。
何日もダンジョン内で生活しなければいけないので、特に食料と水は大事だ。私のようにモンスターをガンスルーできるような探索者はまずいないので、戦闘は必須であり、疲労や怪我なども対策しなければいけない。
セーフティゾーンまで行くのにも数日かかるわけで、その間はモンスターの跋扈する危険地帯で野営しなければいけない。
当然ながらテントだけで野営ができるわけもなく、防犯用品など様々な道具が販売されているが、それらは当然荷物になる。でもそういった道具を使わなければ安全性を確保するのは難しい。
警戒するにも限度があるからね。
あちらのダンジョンでも最大六人がダンジョン探索をする際の基準とされていて、こちらもそれは変わらない様子。
六人以上がまとまって行動を取っていると、周囲のモンスターを凶暴化させる現象が発生するんだよね。数の暴力で協力させたりしないぞ、というダンジョンの強い意志を感じるよね。私は単身でボコしてたけれど。
さて、こんないい方法があるなら世のアイテムボックス持ちはみんなダンジョンで行商すればいいんじゃないかと思うかもしれないが、そんなに甘くない。
基本的にぼったくり価格が成立する場所に行くまでが大変だし、アイテムボックスが元々レアなスキルでそんなにいない。
さらには探索者になるより企業に雇われる方が多いのだ。そっちの方がバックアップも手厚いし、何よりお給料がいい。
無理して行商するより儲かるのだ。
では私もそうすればいいんじゃないかと思うだろうが、私が企業に雇われる? いや無理無理。絶対無理だよ、そんな。
一応前世では社会人でしたよ? でも社会人やってた時間より聖女やってた時間の方が長いから。今更どこかの雇われなんて窮屈すぎて無理なのである。
それに私にはさいつよな神域魔法があるからね。どこかに雇われてバックアップしてもらう必要はない。
そんなことしないでもひとりでダンジョンなんて散歩できちゃうし。
しかし、この行商でぼったくるという方法、私のためにあるような超絶素敵な方法じゃないですこと? 収納空間はカスタマイズ済みで時間停止しているし、容量も東京ドームが単位になりそうなレベル。
神域魔法でモンスターもスルーできるし、結界もあるからぼったくり価格に怒った探索者に襲われても大丈夫。
考えれば考えるほど完璧すぎる。わてくしすごすぎますわ!
ダンジョン内での行商作戦へ向けて、まず行ったことは商品集め。
ダンジョン内で特に売れ筋になるのは食料。他にも飲料も大事。ただし、普通の飲み物ではない用途の水はあんまり売れない可能性が高い。
なぜなら、魔石を燃料にした水発生装置がちょい大きめの水筒サイズで売っているのだ。
でもこれ、魔法で水を生成しているのでまず、不味い。さらにはお腹を壊す。その上数分で消滅するので脱水症状を起こす。
飲料としてはまず使えない道具なのだ。同様に水魔法も同じで、というかこっちのがもっとやばい。水魔法で使えるのは攻撃性のある水なので、飲むのが非常に大変なのだ。そして不味くてお腹壊して脱水症状を引き起こす。だめすぎるよね。
それでも飲料以外の使用用途では使い方次第なので、探索者のほとんどはこの水筒を持っている。
こういった魔法の技術が盛り込まれた道具を、魔道具と総称するけれど、個別にはきちんと名前がついているのであしからず。どうでもいいけれどね!
一応ネットニュースの他にもダンジョン内で行商をしている人がいるか探してみたが、モンスターがあまり脅威にならない低階層ならともかく、移動にも日数がかかり、モンスターが脅威となるそれなりに深い階層ではいないようだ。
まあそうでなければネットニュースや他のところで話題になっているだろう。
実際に便利だったり、ありがたかったりと、ぼったくり価格以外は非常に好意的な意見のコメントが記事についていたし。
とはいえ、あちらでもダンジョン内行商なんて聞いたことがないし、私もしたことはない。
念の為のお試しということで、購入した商品はそれほど多くはない。
お弁当をホットがモットーな店で複数種類を複数個ずつ購入して、スーパーで箱の飲料を数箱買った程度にしておいた。
このくらいならもし売れなくても自分でのんびり消費できる。時間停止は偉大だね。
他にも装備や道具のメンテナンス道具だったり、予備の野営道具など、色んな商品に需要があるみたいだったけれど、今回はお試しだから特になし。
あの行商の記事もだいぶ前の話で、今はもっと需要のある商品が違う可能性もあるしね。
薬草類を納品して稼いでいおいた資金のおかげで、特に問題もなく商品集めは無事終了!
あとは関東第二ダンジョンのセーフティゾーンがある場所まで行くのに数日かかることから、野営道具一式を購入しておく。でも私には神域魔法があるから防犯道具なんかは必要ないので、あんまり出費せずに済んだ。さすがは神域魔法! やったね!
他にもダンジョン内で数日は過ごすことになるので、ネットカフェにずっといたので必要がなかったため買っていなかった、タブレットやスマホなんかを暇つぶし用に購入して色々とダウンロードと設定を済ませておいた。
ダンジョン内の通信環境は入り口付近までしかないので、セーフティゾーンまでいけば確実にネットを維持できない。事前に大量にダウンロードしておけば平気だし、モバイルバッテリーだけじゃなく、スマホやタブレットのバッテリーも魔石などの研究で長時間、低発熱を実現している。
まあそうでなくとも、大型のバッテリーを収納空間に入れておけば問題ないのだけれどね。一応最新式の魔石バッテリーも買っておいたよ。使うかねえ?
ダンジョン内でネット環境を維持できない理由としては、ダンジョン内の人工物は特殊な素材を間に挟んでいない場合は、ダンジョンの床や壁から吸収されてしまうから。
そのほかにも、モンスターは基本的な習性として、人間をぶち殺すことを優先する。次の優先対象が人工物なので、人間がいなければケーブルや中継機が親の敵のように狙われちゃうのだ。
同じように魔境に飲み込まれた地域は人工物が徹底的に破壊されていて、すぐに自然豊かな土地になっている。
魔境の周囲を覆っている壁はもちろん人工物判定なので、毎日襲撃されているはずなので、防衛にかかるリソースも膨大なはず。魔境に割くリソースがとんでもないことになっているのはこういった理由だね。
そりゃあ、未来のはずなのに未来っぽい未来になっていないはずである。
お試し行商の用意もだいたいできたので、さっそく関東第二ダンジョンのセーフティゾーンがある五階層へ向かうことにする。
ネットで調べた限りでは片道二泊か三泊くらいの道のりらしい。
地図は二階層までの分しか見つからなかったので、それ以降は手探りになる。
それでも私はモンスターをスルーできるので、他の探索者より楽ちんな道のりになるはずである。
いつもどおりにダンジョンに入り、ダウンロードしておいた地図通りに進んでいく。
といっても一階層はもう慣れたもの。薬草類を採取するために通った道をてくてく歩いて、他の探索者たちがわちゃわちゃと死闘を繰り広げている横をスイスイ進んでいく。
私にも魔法の武器があればあの程度のモンスターなど一撃なんだけれどねえ。ないものねだりは仕方がない。それに今はストレス発散したいほどストレス溜まってないしね。
サブカルチャーはやっぱり偉大だよ。
いつも薬草類を採取している森を抜けると、またもや大きな草原が見えてくる。
この辺からはモンスターではない動物は出現しなくなり、全て魔石をドロップするモンスターになる。
非常に好戦的で人間殺すマンがモンスターだ。瀕死になっても道連れに殺してやるという気概溢れるやつらばかりなので、この辺からは防具もなしに戦闘している人たちは大怪我では済まなくなってくる。
そういった情報も十分に出回っているので、軽装でもしっかりと急所をカバーする防具をつけた人たちが多い。
重装で固めているような人たちはこの辺をメイン狩場にしているような人たちではなく、二階層へ向けてなるべく戦闘せずに移動しているようだ。
とはいえ、モンスターは襲いかかってくる。それでも軽くいなしてさくさく進んでいる様子をみるに手慣れている感じがする。
こちらでもモンスターを倒すと、身体能力が少しずつ伸びていくのは変わらないのは調べてある。ただし、ゲームのレベルアップのように一気に強くなったりはしないので下積みが大事だ。
まあそれでも身体能力の強化も微々たるものなので、装備や道具、スキルに魔法を強化するのは必須なんだけれどね。
周囲を観察しつつ、観光気分で散歩のようにてくてく歩いていると、三時間もかからず二階層への階段へと到着することができた。
通常は五時間程度はかかるという話だったので、やっぱり私の神域魔法はさいつよであるのは確定的に明らかなのだ。