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002 帰還

 異世界ラーンルリアの死の大地に神域騎士団を置き去りにして、私は日本に戻ってきた。

 いやこれには深いわけがあるんですよ! わたしわるくない! ほんとう! だって女神様すっごく急だったんだもの! 死の大地に結界を張ってたと思ったら後光が眩しすぎる女神様の前だもの。そんなのどうしろと。進捗度をパーセンテージで小数点二位くらいまで可視化しておいてほしかったよ! あれで依頼達成とかわかるわけないじゃん!

 私だってできればお別れの挨拶とかして、換金できそうな宝石とか金目のものを大量にもってきたかったよ。荷物には国宝級のアイテムとか色々あったし、きっともってこれればすごく便利だったのに……。


 まあもってこれなかったのは仕方がない。いつまでもくよくよしてるようじゃ聖女なんてやってられないからね。

 帰ってきた場所は女神様も配慮してくれたのか、誰もいない深夜の公園だった。

 街灯があったし、自販機の光とかもあったからそこまで真っ暗でもなく、さりとて異世界ラーンルリアにはない光景に私の目頭もじんわり熱くなるってもんですよ。

 でも速攻で神域魔法で隠蔽を施しておいたのはいうまでもない。わてくし、はいえるふですから。日本にそんな種族いない。捕まってモルモットになるのも解剖されるのも勘弁!


 日本に戻ってきても深夜の公園。

 ワクワクと自販機を眺めて……日本円なんて持ってないことを思い出して悲しくなったりしたけれど大丈夫。緊急時のための換金用の宝石とか持ってるしね。きっとなんとかなるなる。

 前世の記憶では世界でトップクラスに治安のいい日本だったけれど、異世界で鍛えられた私の危機管理能力が結界を張って安全を確保すべきと囁く。

 まあ、ほら。私って今や聖女でハイエルフでとてもふつくしいですもの!


 あー日本のベンチの寝心地いいなー。ダンボールのおふとんほしいです。




 翌朝、パーリィピーポーやオヤジ狩りの襲撃もなく……あ、私は可愛い可愛い聖女のハイエルフだからオヤジ狩りには遭わないか。遭わないよね?

 うん、まあそんな感じで平和に朝を迎えたあとは公園の水道で顔を洗って……あれ? 今の私ってホームレス全開……? やだ! 文明的な最低限度の快適で楽で寝てるだけでご飯がでてくる生活がしたい!


 恐るべき危機に戦慄しつつ、長年の聖女生活で培った身だしなみ整え術を駆使する。

 うん、今日も私は可愛い! 耳もピンと伸びてコリコリよ! あ、枝毛! 日本製のシャンプー・リンス使いたい! くっそー! キューティクル全開で天使の輪したい!


 聖女様御用達のダンジョン産最高級の魔法のローブの内ポケットから、ゴリッゴリに堅くてパサパサで水分をふっとばす携帯食料をかじりつつ、公園を出て閑静な住宅街を歩いていく。

 すごく日本っぽい。いや、日本だったわ。電柱あるし、ガードレールあるし、カーブミラーあるし。 ふえー本当に帰ってきたんだね……私。ちょっと泣きそう。


 神域魔法のおかげで、ハイエルフの特徴である普通のエルフよりも長くてピンと伸びる華麗なるお耳様をそのままにしていても誰にも気づかれない。

 服だって聖女御用達のローブは様々な付与がかかっている刺繍でいっぱいだし、どうみても豪奢で目立つものだ。それがまったく気づかれることなく誰も気にしない。

 やっぱり神域魔法はべんりでさいつよだよね。


 人通りも増えて平たい顔族が多くなってくる。

 異世界にいる人はみんな彫り深かったもんなあ。髪色もカラフルだったし、日本人ってなんか地味だねえ。黒とか茶色しかいない。あ、真っ赤だあの人こわっ。


 キョロキョロしつつ住宅地を抜けると大きなドームが見えてくる。

 ここがどこの何県で何府で何道なのかわからないから、何ドームなのかわからない。でもどこかに看板くらいは……関東第二ダンジョンまで5キロ?


 んー……?


 案内標識には確かに関東第二ダンジョンまで5キロと書いてある。ちょっと目をこすって再確認してみたけれどやっぱり変わらない。

 そういえば、異世界で100年くらい生きてるからもしかして地球も100年くらい経ってる……? あっれー? こういうのって普通死んだ時間に戻るものじゃないのぉ?

 

 ねえ、めがみさまー!




 ダンジョンほんとにありました。そして、今は迷歴109年。

 めいれきぃ? わてくし、れいわからおしにあそばれたと思うのですがー。


 関東第二ダンジョンと呼ばれるドームの周囲にはダンジョン街と呼ばれるダンジョン関連のお店が密集しており、その中心のドームからダンジョンに入れるそうな。

 ドームの中は市役所かな? と思うほど綺麗で清潔で、どこか事務的な感じがする場所でした。

 私はそこで探索者になりました。はい、探索者です。異世界ラーンルリア風にいうなら冒険者ですね。

 ただ、冒険者と違うのはダンジョンに潜って資源などを持って帰ってくるのが探索者で、人間の居住外に出てモンスターをぶっ殺してきたり、何かしら売れそうなものを盗ってくるのは業務外だそうな。あと賊の首とってくるのも違うっぽい。

 

 ……ふむふむ。はー、こんな簡単な手続きでダンジョン入れちゃう上に電子マネーとして使えるんですかー。ダンジョン外の店舗ならどこでも使えちゃう電子マネーですかー。さらには超簡易の身分証にもなるんですってよ、奥さん! まーじかよー!

 

 ……でも、ラッキー! よし! なんか知らんがよし! 幸先いいぞ私!


 ドームの中にある市役所っぽい施設――関東第二ダンジョン支部には探索者になるための手続きを簡略化するための端末が置いてあり、その近くに様々な無料のパンフレットも置いてあった。

 私の知ってる日本と違うので情報収集しないといけないのもあって、無料のパンフレットとかすごくありがたいので飛びついて確保してある。

 いくつかのパンフレットの中に『これで安心!関東第二ダンジョン完全ガイドブック』などのダンジョン関連の初心者向けのものもあったのは本当にありがたい。


 『これで安心!関東第二ダンジョン完全ガイドブック』……長いのでガイドブックによると、100年ほど前にダンジョンが突然出現したそうな。私が死んだ直後ではないっぽいので私のせいではないね!

 ダンジョンが出来て吸った揉んだのポンポーンとあれやこれやのかくかくしかじかで色々あったようで、今の日本は探索者になるのは端末をちょろっと操作するだけで簡単になれる。

 必要なのは名前と魔力くらい。そう、ダンジョンができたせいもあって、地球でも魔力を観測できるようになったようだ。

 魔法を使うには魔力が必要なので一安心だね。いや、昨日からずっと魔法使ってるけれどね! ほら、私の魔力って長年の旅で魔法を使いまくったせいで、バカみたいな魔力量になってるから、たとえ魔力がなくても一定期間は問題ないくらい自分の魔力でなんとかできたりするんだよね。

 それでも魔力は使えばなくなるから、大気中に漂う魔力を取り込んで回復できるのはありがたい。


 ……今まで魔力が回復してるのに気づかなかったのかって? ほら、膨大すぎる魔力量だから微々たる量の消費や回復なんて気にもしてなかったのよ。もてるものの優越感ってやつぅ? 違うか。


 手続きをさくっと終えて3分かからず端末から出てきたカード――探索者免許、通称Dカードをもてば今日から私も探索者! 聖女兼探索者なのだ!

 正直お金の問題は本当にどうしようと思っていた。

 緊急時の換金用宝石はあるものの、日本で宝石の買取って身分証とか必要だったのを思い出したのだ。あとは保証書とか? なんかそんな感じに買取してもらうだけでもいろいろ大変だった記憶を薄っすらと頭の片隅で思い出したのよ。

 アルバイトとかしようにもやっぱり身分証がネックになるし……私って今不法滞在の無国籍者じゃん。やっばホームレスよりひどくなってるぅ!

 でも大丈夫! さっき手に入れたこのDカードがあれば! わてくしたんさくしゃ! ダンジョンに潜って金目の物をかっぱらってきますわよ!


 それに、ガイドブックじゃないパンフレットによれば、現在の日本における外国人の扱いは探索者になって実際に活動するのであれば非常に寛容。

 ……そう、探索者になって実際に活動すれば、である。

 地球にあるダンジョンも異世界ラーンルリアと同じで、内部にはモンスターと呼ばれる化け物がひしめいている。

 内部はダンジョンによるところはあれど、基本的に広大な面積を誇る未知の世界であり、複数の階層で構成されている。

 物理法則をだいぶ無視した存在や現象が横行し、ダンジョン内部にはたくさんの未知の資源がある。

 地球人類はダンジョンに資源を求め、職業として探索者が生まれた。

 しかし、物理法則を無視するモンスターたちは非常に危険で、銃器などの当時の現代兵器は浅い階層であれば効果があったが、それも階層を深めるごとに価値を失っていく。

 現在では銃器を使用する探索者はほとんどいなくなっているほどだ。

 異世界と同じようにダンジョン資源を活用した武器防具を使って探索している。

 それ以外にも人類はダンジョンを探索することでスキルと呼ばれる物理法則を無視し、モンスターに特攻を持つ技術を発現するようになった。

 スキルの中には魔法もあり、探索者は様々なスキルを駆使してモンスターを討伐し、ダンジョン資源を持ち帰るのだ。


 ……うん、異世界ラーンルリアのダンジョンとおんなじだわ。あっちにもスキルあったし、魔法あるし。あっちのダンジョンがこっちにできたのかなあ? よくわかんないや。

 でも正直そういうのはどうでもいい。今はダンジョンに潜ればお金が合法的に稼げるという点が大事だ。

 さあ、今日のお昼ごはんを食べるためにも、ダンジョンでひと稼ぎしてこよう!


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