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016 関東第二ダンジョン支部の統括局長


 関東第二ダンジョン支部の職員を名乗る人との話し合いは、秘密です、であっさり終わった。

 何を聞かれても、秘密ですって言っておけばいいから楽だったし、ちょっと結界の設定をいじって電波状況を悪く出来ないかなあとかやってみたらあっさりできたのもあったからね。

 職員と話してた時間は一分もなかったかな? まあここダンジョンだしね! 電波状況悪くなっても仕方ないよね!


「……神域屋の嬢ちゃん」

「いやいや、北国さんよ。ダンジョン法の改正で報告の義務はなくなったのってもう何年前の話だよ。秘匿するなんて当然だろ」

「いやまあそうだけどよ」

「あとから色々聞かれるだろうけど、俺らはわからんとしか言えんし、大丈夫だろ」

「でも神域屋は支部だけじゃなくて色んな奴らに聞かれるんじゃないか? 大丈夫か?」


 販売が終わるまでたっぷり待たせた上に、突然電波が悪くなって一分も話せず終わった職員さんには合掌だけれど、私悪くない。

 それより、ここにいる探索者のみんなはほとんどが私の味方のようで、若干呆れてはいるけれど心配もしてくれるみたいだね。

 真面目に行商してた結果だね! うん、真面目に頑張ってぼったくったおかげよ!


「神域屋さんなら大丈夫だと思いますよ。だって座敷わらしちゃんですもの」

「座敷わらし?」

「あー。そうだったな。そうだったわ」

「なんだ? どういうことだ?」

「いやな。とあるところで――」


 買ったものを手に抱えたまま雑談を始める探索者を尻目に、私は出しっぱなしのソファーに寝そべってアニメタイムに勤しんじゃうよ。

 電波を遮断したから電話がかかってくることはないだろうけれど、WIFIは繋がったままなのでアプリで通話が来るかもしれない。でも、張り紙も張ってあるのでばっちりなのだ。

 面倒事お断りの張り紙を無視するような人はこの場にはいないだろうからね。

 実際に会社経由でアプリによる通話がきたみたいだけれど、私のところまでもってこなかったし。ほんと、ここの人達の民度はびっくりするくらいいいわあ。

 企業に所属している探索者は割と引き抜きもよくあるみたいで、なかなか強くでれないんだろうねえ。上司の人、南無南無。




 極小空間門から飛んでいる電波は、セーフティゾーンの隅から隅まで届いてるというわけでもなく、ある程度離れると強度不足で繋がらなくなるみたい。

 私の近くに極小空間門を開いているので、私を中心とした範囲になるけれど、それでもボス部屋の回廊にも届かないし、六階層の階段にも届かない。セーフティゾーンって結構広いからね。

 なので、探索者パーティのひとつが試しにライブ配信してみたんだけれど、五階層のセーフティゾーンを映すので精一杯。事前にちゃんと他のみんなに了承もらってたし、私を映すようなこともなかったので特に何も言うことはないかな。張り紙の効果で私に余計な交渉をしてくることもなかったしね。

 彼らもお試し感覚だったのもあって、配信もすぐ終了したみたいだし。

 ただ、SNSなんかでトレンド入りするくらいには騒ぎになったってヒーラーさんが言ってた。

 正直興味ないし、今いいところだから黙ってて? ほら、チョコあげるから。あっちいってなさい。


 特にそれから問題もなく、翌日の販売で大体の商品が売れたのもあって今回の行商はこれで終わり。

 行商が終わったらネット環境も維持されないのは周知してあったので、特に不満がでることもなかったよ。

 そもそもダンジョン内ではネット環境がないのが普通だからね。みんな慣れたもんだよ。しらんけど。


 チャリでさくっと地上に帰ってくると、関東第二ダンジョン支部内にいつもよりたくさんの職員が詰めていて、他にも背広を着たどうみても探索者じゃない人がいっぱい待機していたよ。

 一体どこの聖女を待ってる人達なんだろうね! 私は関係ない聖女だから今回は薬草の納品をしないでネットカフェに帰ろうっと。

 あ、でも、いつもとは違うところにしようかな! たまには気分転換も必要だしね! なんか新しいところが出来たって聞いたような聞いてないようなそんな気もするし!




 次回の行商のための仕入れを行い、配達先が違うことには特に触れられることもなかった。

 まあ、片手で数えられる回数しかまだ頼んでないしね。これが十回とか二十回とか同じ場所に配達を頼んでたら違うんだろうけれど。


 数日かけて行商の準備をしている間に、極小空間門の利用方法を色々と考えてみた。

 ぎりぎり視認できるかできないかくらいの大きさの小ささの門なので、何か物質を通すのは難しいと思う。

 穴を覗いてみれば、なんとか先が見えるかなといった程度で、悪さをするのも無理そう。

 あちらでも声を届けるくらいしかできなかったみたいだし、こっちでは電波を通せるだけ遥かにマシかな。

 ダンジョン内でネットに繋げるだけでも利点しかないものね。


 文庫本を読み終わって、一区切りついたところで今まで干渉してきたことなんか一度もなかった店員さんから、気合の入った外見のお手紙をもらってしまった。

 まあ、もちろんラブレターなんかでもなく、クレームでもなく。


「だるっ」


 関東第二ダンジョン支部の統括局長って肩書の人が差出人みたい。

 名前も書いてあったけれど、知らん人だし。


 文面的に、ものすごくへりくだっているし、呼び出しじゃなくて出向くって書いてあるね。

 ちょっと調べればわかると思うけれど、私って無国籍で経歴を調べてもまったく情報がでてこない謎の存在なんだよね。

 出てくる情報は、数ヶ月前に探索者登録をしたところから。だってその前は異世界にいたしね。


 そんな正体不明だから、相手も慎重に事を運んでいるのかな。

 まあ、そうでなくても、探索者優遇政策を長年推し進めているダンジョン大国日本だからね。探索者相手には慎重になるのかな。

 海外に逃げられても困るだろうし。今は簡単に海外には行けないけれど。


 高圧的に出てくるならスルーするなり、喧嘩を買ってやるなりするだけなんだけれど、こうも下手に出てくるとやりづらいんだよなあ。

 あちらでも善性の塊だった聖女様方とかには、ほんと手のひらで転がされてたもの。善意百パーセントでの手のひら転がしだからねえ。


 まあ、この統括局長さんはそういう類ではないと思うけれどね。

 ただただ、面倒だなあ……。


 相手側がこちらに何を求めているかで対応は変わるのだけれど、それは結局会ってみないとわからない。

 いきなり拘束されたり、実力行使にでてくるとは思えない。逆にそっちの方が私としては簡単なんだけれどね。


 仕方なく、近場のファミレスを指定して返事を出すと、その日のうちに会うことになったよ。フットワーク軽すぎない?

 話が早いのは助かるって言えば助かるんだけれどね。




「本日はお時間を頂きありがとうございました」

「いえ、こちらこそ」

「それでは失礼致します」


 やってきたのは筋肉ではちきれそうなスーツを着た渋い壮年のオジサマ。

 わたくし的にはあまり好みではありませんことよ。


 しかしまあ、この人。ひとりで来た上にひたすら丁寧な対応に終始して、軽く事情を聞いたらそれで終わりだった。

 特に何かを要求してきたりもせず、こちらから情報を抜こうともしてこなかった。

 一体何をしにきたのだろうかと思ったけれど、やっぱり顔合わせかなあ。

 本格的な交渉はこれからってやーつう?


 権謀術数渦巻く王侯貴族のアレやコレやで古狸や女狐に嵌められそうになったときも、似たような感じだったなあ。

 あいつら親身な振りして近寄ってきて、如何にも私はあなたの味方ですって色々やってきたんだよねえ。

 やってることは本当に私の助けになってたし、当時一緒に行動してた英雄志望のおバカ達もうまいこと操縦してたっけ。

 結果的に国家転覆企んでたんだけれどね!

 いやあ、旗頭ってやつですよ。積極的に外で動いてた聖女って私くらいだったし、聖女の影響力って半端じゃなかったからね。

 あと一歩で成功しそうだったのにねえ。おばちゃんおばあちゃん聖女様の方が一枚上手だったのが決め手だったよね! 妖怪も老練な聖女様には敵わんのですよ!




 とりあえず、統括局長との顔合わせも終えたので、あとは野となれ山となれってことで。

 行商に行くために支部に向かうと、この間帰ってきたときにはたくさんいた背広組や職員がすっかり姿を消し、いつもどおりの状態に戻っていた。

 シブオジが言ってたっけ。企業のスカウトや諜報員はこちらで対処しておくって。有言実行したってことだねえ。

 たとえ対処されてなくても、神域魔法の隠蔽でなんとでもできるから借りとは思わないけれどね。

 薬草類の納品が難しくなっただろうけれど、行商の売上だけで十分すぎるほど稼いでるからなあ。むしろ薬草類の納品は支部側の利益になるわけだし、実質貸しを作ったのでは?

 私の貸しはでかいぞお?


 適当に買取カウンターにいる職員に薬草類を納品すると、特に問題もなく精算が完了。呼び止められることもなかったし、話が通ってるのかな? いや前に精算してもらった職員さんのときも何もなかったっけ。気にし過ぎだね。


「お、神域屋。これからか?」

「こんにちは。そうですよ。そちらも?」


 いつものように隠蔽をかけて出発しようとしたところで、北国工業の企業系探索者のおっさん集団に見つかってしまった。タイミング図ってたね? まあいいけれどさ。

 彼らは薄汚れていないし、大荷物も担いでいたのでこれからセーフティゾーンまで行くみたいだね。


「おう。あ、そうだ。これ、上からだ。目を通すだけ通してもらえるとありがたい」

「あー……。そんなこともありましたね」

「忘れてたのかよ……。まあ頼むわ。ついでに一緒に行くか?」

「遠慮しておきます」

「だよな」


 もらった手紙は北国工業のロゴマークが入っているきちんとしたもので、それだけでも今回の件を軽くみていないのがわかっちゃうなあ。まあそれでも受けるかどうかは内容次第だけれどね。


 なお、おっさん達と一緒になんて行ったらチャリ乗れないので当たり前だけれど同行は却下よ。




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