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015 極小空間門

 基本的にお弁当なんかが収納空間にある程度残っているうちは、地上に戻らずに残って販売することにしている。特に今回はお弁当以外にもたくさん仕入れてきたし、まだ結構残っている。

 セーフティゾーンの探索者達が四階層や六階層で資源回収に励んでいる間は暇なので、新たに買っておいた寝心地のいいソファーを設置して寝そべってタブレットでアニメ三昧となる。

 でも今日はちょっと違い、新たに習得した空間魔法を試しているので、用意しておいたものではなく、適当なものを流してみている。


 そう、今このタブレットはネットにつながっているのだ。


 ダンジョン内では基本的にネット環境を維持するのが難しい。ケーブルはモンスターに破壊されるし、中継機も同様。無尽蔵に湧いてくるモンスターからずっと警備するのは現実的ではない。

 それでもダンジョンでネットが使えればリアルタイムでやりとりできるため、様々な面で重宝する。どこのダンジョンでも一階層の入り口付近はネット環境がしっかり維持されており、初心者探索者への手厚い保護の名目で予算の確保もできているらしい。

 しかし、入り口を超えてしまえばそこからは最早モンスターの巣窟。

 手厚い保護を受けられる初心者から脱した者達だけが進むことを許される場所なのだ。


 でも、今私がいるのは五階層のセーフティゾーン。

 本来ならネット環境なんてとてもじゃないけれど維持はできない深い階層なのだ。日本のどのダンジョンにもセーフティゾーンがあるわけではないけれど、セーフティゾーンがあるのは必ずある程度の深い階層になる。

 今私がいる関東第二ダンジョンなら平均で片道二日程度。私はその半分で移動できるけれど、それはまあ例外中の例外かな。

 他のダンジョンでもセーフティゾーンがあるところは片道二日以上かかるのが当たり前だって話だし、関東第二はまだ近いほうだそうな。

 まあどちらにせよ、セーフティゾーンまでネット環境を維持するのは無理なわけで、なぜ今私がネットを使えているかというと、新たに習得した空間魔法の極小空間門のおかげなのだ。

 この極小空間門、その名の通りの小さな穴を開ける魔法なのだけれど、その門の先は今は関東第二ダンジョンの一階層に繋がっている。そこから電波が飛んできているので、ネットが繋がっているわけなのさ。

 ちなみに、関東第二ダンジョンの一階層のWIFIは探索者なら無料で使えるので別に犯罪でもなんでもない。私も探索者だしね。薬草納品してるし。


 この極小空間門はあちらでは声を届けるくらいしか使い道がないと言われていた魔法で、そもそも空間魔法の使い手自体がほとんどいない上に、空間魔法のレベルをあげるのが難しすぎてそこまで到達できない。

 私は空間魔法を軽々使っているけれど、それは結界魔法を神域魔法にまで昇華し、その上極めた私だからこそできることなのだよ。鍛え上げた魔力を惜しみなく注いでいるからこそ、こんなに早く空間魔法のレベルをあげられるのだ。

 とはいえ、あちらにも空間魔法をそれなりに使えた者は過去にいて、賢者として有名な人物だったため、結構な量の文献なんかも残っていたりする。私は聖女だからね。そういった希少な文献も閲覧できる立場だったから色々知っているのだ。

 当時は使えなかったけれど、空間魔法なんか有名すぎる魔法を調べない方がおかしいよね。他にも洗脳魔法とか、催眠魔法とか、スキルの強奪とか、色々と気になった魔法やスキルは一通り調べてあるよ。

 存在しないものもいっぱいあったみたいよ。こちらでもそうなのかはわからないけれど。


 極小空間門だけれど、門の先に繋げる場所は行ったことがある場所限定であり、しっかりと記憶しているところだけになる。でも私は神域の聖女だからね。一度行ったところなら忘れないし、鮮明に思い出せる。まあ、空間魔法を取得してから思い出せるようになったんだけれど。聖女関係なかったわ。

 それに距離によって消費する魔力も増えるし、維持している間にも魔力を消費する。私の無尽蔵にも等しい魔力なら減ってる気がしないけれどね。いや、まじで神域魔法を常時展開している私の日常的な魔力消費量とは比べ物にならないくらい消費しているはずなんだけれど、全然減った気がしないんだよね。まだ魔力の上限があがってるのかねえ。


 そんなわけで、極小空間門をずっと維持しっぱなしでも特に負担にもならず、このセーフティゾーンにはネットが繋がっている。


 今なら物語でありきたりなダンジョン探索をライブ配信したりできるだろうけれど、生憎私には攻撃力がないからね。薬草採取やダンジョン散歩配信になっちゃう。

 それに配信で手に入る収益なんて、行商の儲けと比べたら、ね。配信してもバズらなきゃ大したもんでもないだろうし。何より私には承認欲求ってあんまりないと思うんだよ。

 じゃなきゃ英雄を量産してたときに私が表に立ってたと思うよ? あいつらが英雄になったのだって、私の旅に勝手についてきてたのが原因だしね。ちょうどいいから進路上にいた、魔王なりモンスターなりダンジョンなりを効率的に討伐するために使ってただけだし。


 ……まあ何よりもほら。私ってシャイで口下手じゃん? 人前で流暢に喋って盛り上げて、なんてできないしね! ね!




「おいおいおい! なんでマドフォ繋がるんだよ!」

「ほんとだ……。でも電波だいぶ弱くね?」

「電波は弱いけど、WIFIはそれなりに強いぞ……。ってこれ一階層の無料のやつじゃね?」

「ほんとだ。え、なんで? ここは一階層だった?」

「んなわけねえだろ! 正気にもどれ!」


 探索から戻ってきた探索者がなんか騒がしい。自分達の荷物にある魔導フォンから着信音やら何やらが聞こえたことでわかったみたいだね。

 ダンジョン内では電波が繋がらないから、探索ではほとんど使わない魔導フォンだけれど、単体で動くアプリなんかは使う場合もあって持ってきている人はそれなりにいたみたい。私も持ってきてるしね! 方位系のアプリはすごく便利!

 さて、ばれてるならあれの用意するかな。


「ねえねえ、神域屋さん。それ何してるの? 幟にマジックで……。WIFI始めました?」

「始めました」

「繋がってる……。え、なんで?」

「頑張りました」

「そ、そっかあ……。えっと……。無料?」

「お金取り様がないので仕方なくサービスです」

「そ、そっか……。みんなー! 神域屋さんがまたすごいことしてるー!」


 冷やし中華始めましたの幟が完全に詐欺になっているので、マジックでバッテンつけてWIFI始めましたにしてみたよ。

 これで冷やし中華の件にツッコミを入れられることもないでしょう。まだ冷やし中華やってるお店もなかったしね。仕方ないね。


「やっぱりあんたか……」

「始めましたー」

「どうやって……。いや、すまん。こういうのは聞いちゃだめだよな。さすがにマナー違反だ」

「そうだよねえ……。すごく気になるけど、だめだよね」

「だめですね。ついでに私の一存で終了にもなりますし、帰るときにも終了になります」


 風の知らせのヒーラーさんが大声で他の探索者の人達に知らせちゃったので、続々と集まってきて聞きたそうにしてるけれど、教える気はない。

 魔法やスキルなんてファンタジーな現象が現実にあり、今でも未知の現象は発見されている。そういった未知の現象は非常に大きな価値があり、無理に聞き出そうものなら殺し合いに発展しても不思議じゃないほど。

 探索者の間でも、そういった情報を引き出す行為はいらぬ誤解を与えぬように、暗黙のマナーで禁止されているのはあちらもこちらも一緒。

 むしろ、情報の大切さはこちらの人の方がよくわかっているよね。民度の良いこの場の探索者達なら特に。

 無理に聞き出そうとして行商にこなくなったりしたら目も当てられないだろうし。


「しかしこれ、支部のやつらが知ったら偉いことにならないか?」

「今までこんな深いところでネットが使えるようになったのってなかったからな。戻ったら事情聞かれるかもな」

「あー……。しまった。会社の方に自動連絡行っちまってるみたいだわ。着信すげえな。あ、かかってきた……。はい。いえ、まだダンジョン内でして。全員無事です、はい――」

「うちもだわ……。はい。部長、いえ、予定通りなんですが――」


 WIFI以外にも通信会社の電波も普通に極小空間門から入ってくるので、電話もできちゃうんだよね。企業提携やら何やらで中継機とかちゃんと設置されてるし。

 ちなみに、企業系探索者の探索はスケジュールが決まってて、なおかつ一階層のような電波の届く場所まで戻ってきたときに、自動で会社に連絡が行くようになっているそうな。報連相は大事だけれど、命がけの探索からの帰還直後なんて疲労が溜まってるだろうし、思わぬ怪我やアクシデントなんかもあるだろう。自動化できるところはしているみたい。自分達で連絡できるときはしてるだろうけれど。

 通常は電波が届くようになったら自動で連絡が行くようになってるみたいだけれど、それが災いしてるみたいだねえ。スケジュール上では帰還するタイミングではない時に電波が届いてしまい、連絡が行ったのだから会社の方では何かしらのアクシデントが発生したと考えるのが普通だよね。電波が届くイコール一階層だからね。

 まあ、それは企業系探索者だけの話で、個人でやってる人達は苦笑いでみてるよ。


 ……私は悪くないよ? だって電波届くイコール帰還連絡が自動発動なんて考慮するわけないじゃん。企業系じゃないもーん。




「まいどー。次の人ー」

「あー。神域屋の嬢ちゃん、会社の奴らが支部の方に確認の連絡いれちまったみたいでよ。報告しないわけにもいかなくてな。職員が話聞きたいってんだけど、いいか?」

「販売終わったらいいですよ」

「すまん、助かる。……お待たせしました。少々時間を――」


 どうやら関東第二ダンジョン支部の方にも話がいってしまったようだねえ。正直なところ、こんなことになるとは思ってなかっただけに、どうしたものか。

 いや、別に何もかも開示しなきゃいけないわけでもないんだよね。魔法やスキルなど、ダンジョンの未知の現象などは報告の義務があるわけじゃない。危険性が高い場合などはその限りじゃないけれど、今回は別に危険じゃないからね。

 私の魔法ですって言えばそれで終わりだし、秘密です、でも同様。

 それ以上の追求は法律上できないはず。


 ……追求はできずとも、どう考えても革新的な現象だし、利益がみえてるからなあ。しつこいだろうなあ。

 それでも、私には神域魔法による隠蔽があるし、やろうと思えばいくらでも無視できる。実力行使に出るような馬鹿なことはしないとは思うけれど、そのときはそのときかな。


 ……知ってるかい? 私の結界って他人の体の上にもピッタリ張れるんだ。その上超絶頑丈だからね。

 空気や光なんかの比較的無害なものは通しちゃうけれど、水も食料も通さないようにできるから時間をかけることができればなんとでもなっちゃうんだよなあ。

 それでなくても人間っていうのは生きているだけで様々なものを垂れ流すものなんだよ。


 自分の汚物に塗れながら晒し者になってた悪徳貴族とかいたっけなあ!



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― 新着の感想 ―
ゆるい。 でもこのゆるさがたまらない
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