001 転生
異世界ラーンルリアへ転生して早……100年くらい? あれ? どうだったかな? まあ大体100年くらい。
転生して10年くらいは日本で暮らしていた頃の記憶を思い出すことはなく、普通の村娘として暮らしていた……はず。
ガキ大将やってたり、森に特攻して角うさぎを撲殺してたりしてたような気がするけれど……きっと気の所為。うん。普通の村娘だね。
10歳の誕生日に前世の記憶を思い出して、恐ろしいほどのクソガキ具合だった10年に大して色々と悶絶したけれど、そこはほら。大人の精神で割り切ったよ。
ガキ大将とか撲殺娘とか呼ばれていたことなんて記憶にありません。
さて、そんな普通の村娘だった私は記憶を思い出すと同時に、女神様の依頼も思い出しました。
なんかこう、今住んでいる名前のない大陸を結界的なあれこれで覆って守って欲しい的なサムシング?
いやほら、女神様の神様的な後光とかがすごくてよく覚えてないのですよ。うん、仕方ない仕方ない。
でもたぶん結界的なあれこれであってるはず。
だって思い出した記憶の中に撲殺むす……普通の村娘だった頃には使えなかった結界魔法があったからね。
そんな感じでただの普通の可愛いお淑やかな村娘が村を抜け出し……旅立ったのだ。
旅先でダンジョンぶっ壊したり、横暴な貴族相手に結界で閉じ込めて地獄を見せたり、教会に乗り込んで悪徳司祭を結界に閉じ込めたりする聖なる旅路は順調そのもの。
ついでに結界魔法を乱発して極めていたら、最上位魔法の神域魔法に昇華して種族まで変わってハイエルフになったりしたけれど、私は私なのであんまり気にしなかった。
あと見た目も可愛いお淑やか系から綺麗でグラマラスな……あ、うん。その辺はほら、エルフ的な慎ましやかな……うん。
そんな感じで女神様の依頼をこなしつつ散々色々やったせいで、二、三回は指名手配になったりもしたけれど、なんとかなったよ。なんとかしたよ。神域魔法はさいつよなのだよ。
途中で自分は勇者だとかのたまう変人や、ぼそぼそとしか喋れないキングオブ陰キャな賢者君や、今宵の魔剣は血に飢えてるぜと剣を舐めては怪我してる頭のおかしな剣聖ちゃんがついてきたりもしたっけな。
なお、その頃から私は神域の聖女とか呼ばれ始めたんだけれど……いやーやっぱりわかっちゃうよね! そりゃどうみても聖女だもんね、私! ふっふーん!
ちなみに、王都の大教会にも聖女がいたりしたけれど、彼女たちはちょっとお年を召しておられまして……うん。でも綺麗で優しくてすごい回復魔法を使える人たちだったよ。ああいうのを慈愛に満ちたって表現するんだろうね。誰にでも身分とか関係なく救いの手を差し伸べてたし。
おっかしいなあ、王都の大教会とか腐敗の温床じゃないの? まあ地方教会はまさにって感じだったけれど。
あ、ちなみに神域の聖女である私は回復系の魔法は使えません。一切使えません! 神域魔法使えれば十分でしょ。十分すぎる。いいんだよ別に。いいじゃん!
トンチキ集団を率いて大陸中を練り歩……聖なる旅は割とあっさり魔王っぽい何かを結界に閉じ込めてトンチキ集団にリンチされた結果終わったとさ。
まあ私は別に魔王とかどうでもよかったけれど、大陸中を回って結界で覆っていくという目的と合致してたしね。ちょうどいい護衛にもなったし。あいつらトンチキ集団の割にマジで強かったからね。
それでも私の神域魔法には敵わなかったけれど。やっぱり神域魔法こそさいつよよ。
少年少女だったトンチキ集団も旅の終わり頃にはいい年になっていて、結婚適齢期が若いこの世界では完全に行き遅れ集団。
まあそれでも魔王を倒した英雄ってことでかなりモテてたからいいんじゃないかな?
私? 私はほらハイエルフだから全然見た目変わってないんだよ。不死ではないけれど不老っぽい感じ? いやもうちょっと成長してからハイエルフになったらよかったかなあとは思うけれどまあそれはそれよ、うん。
結構な年数を一緒に過ごしてたわけだけれど、別れっていうのは割とあっさりしたもんだったよ。
王城で祝勝会してる間にパパッと逃げた聖女がいるらしいんだけれど誰のことだろうね? だって王族や貴族でも上位の人たちが群がって来るんだよ? ぶっちゃけ社会人ではあった前世の記憶をもってるといっても、貴族のマナーとか知らんがな。
当然トンチキ集団も貴族じゃなかったし、むしろ前世の記憶がある私よりひどかったから大変だろうねえ。今更マナー講座を受講するなんて窮屈なことやってられんよ。
英雄として持て囃されるのも限度ってものがあるだろうしね。
さくっと一抜けした私だったけれど、まあ聖女のおばちゃんおばあちゃんたちはそんな私のことを見抜いてたみたいで……王都を出たあたりで教会の最高戦力の神殿騎士団が待ってたよ。彼らが今後の旅の護衛だってさ。
今度こそ横柄な態度の腹黒で腐りに腐った集団かなって思ったけれど……慈愛に満ちた聖女さま方が選んだけあってみんなすごくいい人で参っちゃうね!
新しく始まった旅。
神殿騎士団の副団長のみーちゃんによるところの聖女の旅路は、地味ーに地味ーに村や街を回って結界で覆って、ダンジョンぶっ壊して結界で覆って、腐った外道どもを結界で覆ってタコ殴りにして……あれ? トンチキ集団と一緒の頃にやってたことと変わってないな。いやうん、私は別に魔王退治の旅してたわけじゃないしね。同じで当然だわ。
途中で神殿騎士団の交代があったりしつつ、老いとか配置転換とか、魔王が復活したから次代の勇者や賢者が押しかけてきたりして……次代の剣聖いなかったなそういえば。まあ別にトンチキ集団の血縁者ってわけではなかったし、きっと結婚適齢期は関係ないよね、うん。
今回の魔王も旅の途中でさくっと結界で覆ってボコって終わったけれど、私が神域魔法使えなかったら、きっと激戦で死傷者多数だったりしたんだろうなあとか思ったり思わなかったり。次代の子たちちょっと弱かったし。
故郷の村を出てから80年くらいかな。
大陸中を回って大小中様々な国で街や村やら何やら色々と結界で覆って、ダンジョンぶっ壊して魔王をボコして英雄量産して……だんだん飽きるよねそりゃ。
やってることはあんまり変わらないもの。結界張ってつぎーって感じで馬車だったり徒歩だったり走ったり護衛撒いて遊び回ったり。あ、やっぱり結構楽しんでたわ。ダンジョンでストレス発散してたしね。
魔法の武器があれば非力な私でも強大なモンスターでも倒せたりしたからね。私自身の攻撃力は皆無だったのにね!
その魔法の武器を入手するまでが大変なんだけれど、まあほら。私って神域の聖女だからさ。お金には困らないのよ、うん。
そんな感じで神殿騎士団から名前が変わって、神域騎士団になってから三代目の団長であり、私のお目付け役……側近のよーちゃんを率いて旅は終盤に差し掛かる。
女神様から依頼された大陸全土の結界構築作業は、当然ながらこの広大な……本当にバカみたいに広いこの大陸の全域が対象。
他にも大陸があるのかどうかはしらんけれど、あってもそっちは対象外だから知らん知らん。
大陸の北の方は荒れ地が広がる死の大地になっていて、まあそこが本当にひどい。
過去に大きな戦争があった場所のようで、アンデッドの巣窟になっているところなんだ。
どこを見ても死んでる死んでる。その腐ってたり腐ってなかったりと様々な死体や幽霊が襲いかかってくるのだからたまったもんじゃない……んだけれど、ほら、ね。私って神域魔法使えるじゃん? 聖女って呼ばれてるのは伊達じゃないのよ。
結界で覆ってポーンってするだけでアンデッドが断末魔をあげて消滅していく。ご臨終です。あ、ちょっとちがうか。
神域騎士団という名の荷物持ち兼盾を前面にして死の大地を突き進む。
これまで以上に神域魔法を乱発しないといけないせいでなかなか大変だったけれど、アンデッドの脅威自体は脅威にすらならないから時間こそかかったが特に問題らしい問題もなかった。
そうして死の大地が結界に覆われた頃、私はついに女神様からの依頼を成し遂げたのだ!
成し遂げたのだ! 100年くらいかかったんだけれど!? 女神様!? ちょっと大変すぎない!? え!? 日本に帰してくれるの!? まじで! うっひょー! 文明的なせいかつぅ!
私かえるー!
かえるよー! にほーん!
……あれ? 種族とかは? あ、そのまま? ハイエルフのままぁ? 神域魔法はそのまま使える? じゃあ大丈夫かなあ。ついでにご褒美としてなにか追加で魔法を使えるようにしてくれる? え、なんだろう! 聖女らしく回復魔法とかかな! 楽しみだね! 聖女らしくね!