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なんか異世界きたっぽい。  作者: 加藤凛羽/潮もずく
第1章【村の救世主】
8/14

8 なんか子供が行方不明っぽい。


 ダンジョン。

 多くの作品でその詳細は大きく異なるが、しかしほとんどの作品で、ある程度の共通点が存在する。


 1つ、魔物の巣窟であること。

 2つ、最奥には核になる魔石があること。

 3つ、それを守護する強敵が最奥にいること。


 無論、この世界に於いてもそれは同様だった。

 そしてそれには仕組みがあり、完全ではないにしろ、ある程度の予測があった。


「またここに来ることになるなんて……」


 スマホも何もない、景色もたいして変わることのない退屈な道を、ただひたすら歩き続けて1時間。

 ようやく到着した例の森を前にして、パンパンになった脚を労わるべくかがみ込みながらため息をつく。


 この世界には龍脈という魔力の通り道が、地中深くを巡っている。

 それは時折、地上に近いところを通ることがあり、稀に硬い地面の層を突破して、地表に現れることもあるようだ。


 その間欠泉のようになっているところがダンジョン──だと言われているらしい。


 じゃあ、これと龍脈症がどう関係しているのかというと、これについてはヘンダーの言葉を借りて説明しよう。


「いいかマーリン。

 急に現れるダンジョンというのは、例えるなら炎症のようなものじゃ」

「炎症、ですか?」


 出がけ、簡易的な武器を見繕いながらそんなことを口にするヘンダーに、こてんと首を傾げる。


「龍脈は言い伝えによれば、地中の力のうねりによって脈動する。

 いわば血管のようなものじゃな。

 そこになんらかの衝撃が加わることで出血を起こし、ダンジョンができる。

 故に、踏破すれば龍脈の異常は解消される、ということじゃな」


 地中の力のうねりというのは、マントルの動きとかプレートテクトニクスの話みたいなものだろうか?

 よくわからないが、この世界特有の地学的現象のようである。


 これについても、よく調べておく必要がありそうだ。


 ……え?

 そもそもどうして俺が1人でダンジョンを踏破することになったのかって?


 それについては、2日くらい時間を遡らねばならない。


 ***


 龍脈症発覚当時、誰が調査に向かうか、村の大人たちの間で審議が行われた。

 領主からの命令である労役に出向く大人はもちろん参加不能。

 かと言って、残っている力強い男であり、この村の畑の管理を任されている食の要であるティルマンには、もしものことがあってはいけない。


 ということで選択肢として残されたのが、比較的体力のある畑仕事に従事する女衆か、その手伝いをする教会の子供達ということになった。


「自分が行きます」


 最初にそう立候補したのは、村の中で2番目に若い男、アレクサンダーだった。

 教会の子供たちの中では最年長。

 体つきも畑仕事でがっしりしてきていて、今回の調査を行うにはもはや彼以上の適任はいなかった。


 彼には教会の倉庫に保管されていた聖なる斧のレプリカが貸与され、以前ヘンダーが使用していたという古びた革鎧を着せられた。


「なんだか冒険者になったみたいだ」


 そう言って笑い、村を出て──帰ってこなくなった。


「ねぇ、アレクまだ帰ってこないの?」


 翌日の朝のことだった。

 鐘がなるより早い時間に、最年少のニックに起こされ、彼が帰っていないことを知った。


 距離的にはそこまで遠くはない。

 しかし出かけた時間が時間だ。

 ついた頃には日が傾き始め、調査もまともに進まなかったのではないだろうか。


(……いや、たしかあの森はゴブリンが大量発生していた。

 彼のレベルは3くらいしかなかったし、もしかするともしかする可能性が──)


 ちらり、ベッド脇で少し泣きそうな顔をするニックの顔を見て、考えを改める。


「大丈夫だよ。

 彼には斧も待たせられてるし、昼頃には帰ってくるよ」


 茶色の緩い巻き毛を撫でて宥めると、どうやら元気を取り戻したらしい。

 ニックは青い瞳を細めて『そうだよね、きっと帰ってくるよ!』と自分に言い聞かせるように口にすると、朝の鐘を鳴らしに広間を後にしていった。


 ──しかし、昼になっても、夜になっても、アレクが帰ってくることはなかった。


 そんな経緯があり、今度は俺が派遣されることになったのである。


「アレク、無事でいてくれ……」


 彼とはあまり話さなかったが、知っている子供が危険な目にあっているかもと思うと不安で仕方がない。

 一応、ヘンダーからは今回の任務の目的はダンジョンの調査でアレクの救出は二の次と聞いているが、できれば両方クリアしたい。


 ……え?

 どうして救出が二の次かって?


 それはもちろん、ミイラ取りがミイラになることを危惧してのことだ。


 だから彼の判断はすごく正しい。

 べつに、アレクのことが心配ではないわけではないのである。

 その証拠に彼の捜索には冒険者ギルドに依頼をして探してもらう手筈になっているのだから。


「……よし、まずは装備の確認からしようか」


 持ってきた武器は、筋力のない子供でも扱える軽いナイフが2本。

 防具は革鎧なんて立派なものはなかったので、倉庫の奥に眠っていたちょうどいいサイズのヤーク革のベストくらい。


 そんな装備で大丈夫か? と思わず聞かずにはいられない紙装甲だが、ないよりはマシなので文句は言えない。

 仮に剣なんてあっても、今の筋力じゃまともに振れないし、体力が削れるだけで良いことはないからね。


「ついでにレベリングもして、いくらかスキルポイントも稼げれば御の字かな」


 初日に追いかけられたゴブリンの恐怖を思い出して身震いするのを、強気な笑みで無理矢理にかき消す。


 さぁ、異世界初のダンジョン調査だ。

 気を引き締めていこう。


 俺は深呼吸をすると、ナイフを握りながら森の中へ足を踏み入れた。


 ***


 まずはダンジョンがどこにあったか、まずは森の中を探さねばならない。

 これに関してはアレクも同じだったはずだ。


(アレクの救出も考えるなら、人の痕跡から探していくのが常套……とはいえ、そんな技術もスキルも持ってないからなぁ)


 悩む。

 どこから入っていったかなんて到底想像できるものではない。

 ということでとりあえずまずは、ダンジョン攻略より前に、その準備から始めていこう。


「まずはレベリングだな。

 そんで有用なスキルを持った状態でダンジョンを探す」


 アレクを探すのはあとでもいい。

 彼には斧があるし、何より体力もあるはず。

 レベルだって今の俺よりは高いから、すぐに死ぬということはないだろう。


 ここは温暖だし、森の感じからして水源も期待できるしね。


 というわけで俺は、まずはゴブリン狩りから始めることにした。


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