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なんか異世界きたっぽい。  作者: 加藤凛羽/潮もずく
第1章【村の救世主】
6/14

6 なんか神父様が協力してくれるっぽい。


 ──天に坐します黄金の土帝。

 ──神の金を抱くオリハルコンティウス様。

 ──どうか本日も、我々に光の加護をお与えください。


 ──。


 ***


 礼拝が終わり、散り散りになっていく村人の背中を見送ると、村人たちへの炊き出しの時間がやってくる。

 教会に集められた作物を使い、パンを捏ね、赤いトマトのスープを大鍋いっぱいに作り供する。


「パンはこうやって作るんだよ!」


 ディアナに手解きを受けながら捏ねるパンの作り方は、非常に簡易的であった。

 おそらく小麦だろう穀類を挽いた粉を麻の袋から取り出し、水と混ぜて捏ねる。

 できた生地を円形に整形し、それをかまどへ入れて焼く。


 それだけ。


(現代日本のパンの作り方と、だいぶ違うんだな)


 塩もなければ砂糖も牛乳も、パンを膨らませるイースト菌もない。

 昨晩の硬い味のないパンはこうやってできていたのかと思うと、これも少し改良が必要そうだと考える。


 スープの方はもっと簡単だ。

 沸騰させたお湯に潰したトマトを入れて混ぜるだけ。


(出汁も何も入れてないから味が薄かったのか)


 昨晩との違いは、肉も他の具材も入っていないことくらいだろうか。


(出汁を取るという考えがないのか?

 野菜はあるんだから、スープストックくらいは思いつくはずだと思うんだけど……)


 野菜クズから出汁を取るやり方だったと記憶している。

 肉牛に相当するヤークという家畜もいるなら、動物性の出汁も取れるような気がするが、骨とかは捨てているのだろうか?


(この辺は、教義とかも確認しておかなきゃな……)


 もしかすると、死んだ動物の骨で出汁を取ってはいけない、なんてルールがあるのかもしれない。

 イスラム教では豚肉が禁止されていたりするし、知らないうちに禁忌を踏んでしまうのは避けたいしね。


 村人たちと共に俺たちも食事を終えると、村人たちはそれぞれの仕事へと繰り出していく。

 もちろんディアナたちもだ。

 出がけ、彼女がこっそりと『昨日のこと、ちゃんと聞いてきてよね!』と念を押すように耳打ちしてきたので、俺は笑顔を浮かべながら『もちろん』と返してやった。


 あんな食事で、よく元気に働きにいけるものだと感心する。

 味のしないトマトスープの何とも言えない後味に苦い顔をしながら、手を振って送り出した。


 さて。

 みんなが教会を離れれば俺はヘンダーの書斎で勉強の時間である。


 何をさせられるのか、彼の称号のせいで正直ちょっと怖くはあるが、向かわざるを得ないことには違いがない。

 俺は腹を括ると、手招きをする赤いローブの背中を追いかけ、教会の中へと歩を進めた。


 ***


 書斎には本がびっしりと並んだ棚が、両側の壁一面を覆っていた。

 突き当たりの壁には大きな窓があり、その手前に背もたれの大きな椅子と事務机があるばかりの、簡易的な部屋である。


「鑑定」


 ぼそり、聞こえないくらい小さな声で、一冊を鑑定してみる。

 どうやら本に使われている紙は兎の皮を用いたものであるようで、羊皮紙ならぬ兎皮紙というものだった。


 しかし使われているウサギは普通のウサギではない。

 説明によれば、羊くらいのサイズがあり、角が生えている、いわゆるアルミラージという魔物によるもののようだ。


 ……羊より入手性が困難そうなのに、どうしてわざわざ?


 一瞬そんな疑問が浮かぶが、何か宗教的な理由か、あるいは材質的な理由があるのかもしれない。

 これについても確認しておく必要がありそうだ。


「さて、なにから話そうかの」


 床に適当に放置された椅子に腰掛けるよう、指を向けながら、ため息と共にどっかと椅子に腰を下ろすヘンダー。

 椅子の様子は真新しく、座ってもガタガタと揺れることはなかった。


(昨晩の食堂の椅子は結構ガタついてたのに)


 なんて一瞬思って、そういえば昨晩、ベッドの修繕のために浄化の奇跡をこの村一帯に行使したことを思い出す。

 きっと、これはその影響の一つなのだ。


 彼も、自分が腰を下ろしたそれの座り心地でそのことを思い出したのか、『そうじゃの』と一呼吸おいて、鋭い視線で口を開いた。


「昨晩の光について聞かねばならんな」

「昨晩の……なんというか、すごかったですね。

 今朝も村の人たちが噂しているのを聞きました。

 オリハルコンティウス様が降臨したのだとか何だとか」


 一応、自分のせいではないということを強調すべく、今朝のことを口にして意識を逸らすよう試みてみる。

 しかし何というか、彼のその鋭い視線が、もはや何もかもお見通しであるかのような感じがして居心地が悪い。


「あれは、浄化の奇跡を行使した際特有の光じゃった。

 この村で使えるのはわし以外にはおらん……。

 ……正直に言うのじゃ、マーリン。

 お主は何者じゃ?」


 どうやら誤魔化せなかったらしい。

 問いただすような視線に、これ以上は隠せないと判断した俺は、正直に本当の身の上を話すことにした。

 

「──というわけで、私もなぜ自分がここにいるかわからないのです」


 前世が男、という話はとりあえず伏せて、正直にこれまでのことを話した。

 まぁ、とはいえそれほど話す内容があるわけではないのだが。


「……ふむ、あのお告げの意味はそういうことじゃったか」


 なにか得心がいったような面持ちで髭をさするヘンダー。


 そういえばこの村に来た時、彼はこんなことを言っていた。

 たしか──『その子供を招くことが、村を救うことになる』だっけ。


 ロリコンという称号ばかりに引かれて、神のお告げにしたがって招き入れたという話について考えるのを忘れていた。

 しかしそうか。

 お告げの真意というのがわかってきた気がする。


 要するに、文明の進んだ世界から呼び出した俺という人間に、この世界の文明開化をして欲しいという話なのだ。


 ……まぁ、俺はまだ一度も、その神様とやらとまみえたことはないんだけれど。


(でも、なんで俺なんだろう?

 それならもっと、高名な学者とかを呼べばいいのに)


 考えても答えは浮かばない。

 そんなものは神のみぞ知る世界だ、深くは考えないでおこう。

 もしかすると案外、適当に選んだだけなのかもしれないし。


「そういうことならば、神の意思に従おうかの。

 お前のその恩寵を見る限り、嘘はついていないようじゃからな」

「お告げがあったのに疑うんですか?」

「お告げはの、解読を間違えると全く別の意味になることがあるんじゃよ。

 要するに今のは答え合わせみたいなもんじゃ」


 解読、ねぇ……。


 言い分から察するに、どうやらお告げというのは直接オリハルコンティウスとやらが降臨して、口で伝えてくれるわけではないらしい。

 たぶん、夢占いとかそういうのに近いものなのだろう。


「それで、村を救うという話じゃが、マーリンよ。

 お前はどこまで理解しておるのかの?」


 閑話休題。

 先ほどまでの鋭い雰囲気を和らげつつ、軽く伸びをして尋ねてくる。


「村を救う云々はよくわかりませんが、この村に住む以上、快適に過ごせるようにはしていきたいと思っています」

「……なるほど、そういうお前の働きが、巡り巡って村を救うことになるということかの。

 ふむ、だとしたらまずはバルーザ村の現状について説明しようか」


 そう言うと彼は、真剣な表情で今抱えている問題について話し始めた。


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