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なんか異世界きたっぽい。  作者: 加藤凛羽/潮もずく
第1章【村の救世主】
1/14

1 なんか異世界きたっぽい。


 目が覚めたら異世界でした。

 そんな妄想を何度繰り返したことがあるだろうか。


 学生の頃は学校に行くのが憂鬱だった。

 ラノベの世界に逃げるのは日常茶飯事で、おかげで友達の1人もいないぼっち生活が完成した。


 大人になってからは本を読む体力もなくて、アニメや漫画ばかり漁った。


 たまにやるゲームだって、そこまでやりこんでいたわけじゃないから、その辺のモブにも簡単にやられる始末で全く楽しくなかった。


 でも、そんな世界が現実逃避の機会を与えてくれる。

 そう、あくまで現実逃避の範疇だったんだ。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……っ!」


 薄暗い森の中を、逃げ回っていた。

 どうしてこうなったのか?

 理由は自分でもわからない。


 ただ、今朝目が覚めたら森の中で。

 なぜかゴブリン(?)の集落の真っ只中で。

 なりふり構わず逃げ出していたのである。


「くそっ!

 なんかっ!

 剣とかっ!

 ないのっ!」


 悪態を吐きながら、運良く彼らの集落から持ってきたいい感じの木の棒を胸に、木の陰で息を整える。


 集落からそこまで離れていない。

 ゴブリンたちは目が悪いようで、草むらに背を低くして隠れればどうやら気がつかないらしい。


「なにか、こういうとき便利なものって……」


 頭をフル回転させて打開策を考える。


 ここが異世界ならと試したステータスオープンの合言葉は不発に終わった。

 魔法なんて物も使えるはずもなく。


 残された手段は逃げながら人のいるところへ向かうだけ。


(でも、この体じゃ逃げ切れるかどうか……。

 あとこっちが人里の方向なのかもわかんないし……)


 見下ろした自分の体躯は、かなり幼かった。

 元の世界にいた頃から童顔でチビだとは言われていたが、しかし俺は男性だ。

 身長160センチに届くかどうかなチビだったとはいえ、ここまで子供っぽくはなかったはずだ。


 しかし今の体はどう見ても小学生。

 体力は前よりあるのが不幸中の幸いだったが、歩幅が稼げないのは逃げる上で不便だった。


「ギギッ!」

「わっ!?」


 不意に、頭上で鳴き声が聞こえて見上げると、ゴブリンが飛び降りてきたところだった。


 木の棒で殴りかかってくるのをなんとか打ち払い、顔面を蹴って命からがら逃げ出す。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 しばらく走った後だった。

 どうやら逃げ切ることができたのか、気がつけば追ってくる気配が全くなくなっていた。


「た、助かった?」


 濁流のような汗を拭い、あたりを注意深く観察する。


 たどり着いたのは、何かの遺跡の跡地のような場所だった。

 崩れた神殿の天井から漏れる光の柱。

 石床のタイルの隙間から伸びた短い雑草。

 崩れた石のアーチ跡を潜り、安全そうな場所を探してひたすらに歩く。


 すると、不意にあからさまに怪しげな宝箱が姿を現した。

 赤地の木でできた長持で、金属製の装飾がなされている。


「これがゲームなら、絶対ミミックだよね……」


 宝箱が自然にポツンと置いてあるわけがない。

 警戒した私は、一歩後ろに下がり──背中に何かがぶつかった。


「え?」


 反射的に振り返る。

 するとそこには、先程まで絶対そこになかったはずの、騎士の形をした石像が鎮座していた。


「あ、やっべ」


 一瞬で理解する。

 これは、いわゆるゴーレムとかガーゴイルとかそういう類のものである、と。


 石像が動く。

 間一髪、屈んだことで石像がスイングした石の剣を回避することに成功する。


「あっぶないっ!?」


 今度は縦の振り下ろし。

 転がって回避すると、先ほどまで自分がいた石床が真っ二つに割れているのが土煙の隙間から伺えた。


「こんなのどうしろって言うの!」


 再び剣を持ち上げ、追いかけてくる騎士の石像から逃げる。


 幸い足が速くないらしく、なんとか逃げることができた……が。


「しーつーこーいー!」


 どれだけ逃げても追ってくる。

 しかも一体だけかと思いきや、気がつけば2体3体と数が増え、今や10体近いゴーレムに追いかけ回されていた。


 このままじゃ囲い込まれてメッタ打ち。

 追い込み漁にかかった魚ってきっとこんな気分なんだろうな、なんて思った次の瞬間だった。


「伏せろ!」


 どこからともなく聞こえてきた指示に、反射的に従う体。

 気がつけば私を追いかけていたゴーレムの体は、上下で真っ二つになっていた。


「怪我はないか、少年?」


 崩れ落ちるゴーレムの群れ。

 その砂埃の向こうから姿を現したのは、馬の手綱を引く、金髪の怖そうなお姉さんだった。


「あ、はい……。ありがとうございます……」


 長い金髪。

 キリッと鋭い青い瞳。

 高い身長とすらりとした体に、西洋の騎士を彷彿とさせる、霞んだ灰色のフルプレートアーマー。

 その金属製の物々しいガントレットに握られているのは、やや分厚く、そして重そうな長剣である。


 あれでゴーレムを斬ったのか?


 見れば、多少刃こぼれしているものの、石像を壊せるほどの強度はなさそうに見える。

 と言うかそもそも、話しかけてきた距離と剣の長さを鑑みるに、私を囲んでいたゴーレムを一気に寸断するにはリーチが明らかに足りない。

 あと10メートルは最低でも必要だったはずだ。


 斬撃を飛ばす系統のスキルか魔法でもあるのだろうか?

 石像が動くくらいだし、可能性はあるかもしれない。


 なんて風にジロジロと観察していると、女騎士は眉を顰めて


「何かついているか?」

「あ、いえ。

 あの距離から一気にゴーレムを切断したのが、どう言う理屈か気になりまして」


 怪訝そうにする彼女に、苦笑いを浮かべながら答える。

 もしかしたら、何か面白い話が聞けるかもしれないと思ったのだ。


 ちなみに俺、こう見えて動画サイトで武術系の動画を見ては『異世界で使えそう!』とか妄想したりするのが趣味だったりする。

 まぁ、いざ実戦となると怖すぎて使えたものではなかったけれど。


 持っているものが木の棒だし。


「魔力を乗せて振るだけだ、そんな難しいものじゃない」

「魔力? どうやって使うんですか!?」


 どうやらこの世界には魔力があるらしい。

 いや、なかったらそれはそれでびっくりなんだけど。


 目を輝かせて尋ねると、女騎士は困ったような顔をして『そんなことよりもここを離れた方がいいと思うんだが……』などとポツポツ呟いて、しかししばらくして諦めたのか、ため息をついて口を開いた。


「自分の中にエネルギーのようなものがあるのがわかるだろう?

 それをこうやって剣に集中させるんだ」

「自分の中のエネルギー……」


 女騎士がやってみせると、わずかに剣身が光を帯びるのが見えた。

 まるでゲームで技を使う時に見かけるエフェクトみたいでかっこいい。


 試しにやってみる。

 ラノベとかだと、たしか体内に魔力を感じて、それをイメージで動かすような描写が多かった。

 そう言うのを意識してやってみる……が、そもそも魔力というのがどんな感覚なのかを掴むことすら難しかった。


「そう一朝一夕でできるものではないからな。

 家に帰って、親にでも教えてもらうといい。

 近くの村まで送ろう」


 唸る私をよそに、ひょいと体を持ち上げて馬の背に乗せた。


「ところで、君はこんな森の中で何を?

 お母さんに薬草でも持って帰ろうとしたのか?」


 馬に乗りながら村へ向かう道中。

 女騎士は振り向かずに尋ねた。


「いえ、気がついたら森の中にいて。

 ゴブリンに追われて、なんとか逃げ切ったと思ったらさっきみたいなことになってたんです」

「……記憶喪失か。

 まぁ、よくあることだな。村に戻れば、何か思い出すだろう」


 どうやら、こういう事はよくあることのようだ。

 しかし騎士さん。

 残念ながら俺はこの世界の生まれではないので、どこに連れて行っても知ってる人はいないと思いますよ?


 ……なんて言えるわけないよなぁ。

 言ったら変な顔されそうだし、きっと悪魔憑きかなんかだと思われたりしてややこしいことになるに違いない。


 文明レベルが低いと、そういうこともあるって本で読んで知っている。

 ここからは申し訳ないけど、記憶喪失のていでいかせてもらうとしよう。

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