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2話

 

 じょうし 「上司」


 自分より役職が上の人。部下はその下で働く。上司ガチャには当たりとハズレがある。リセマラは不可能。





「どっ、どうしてお前がここにいるんだよ⁉︎」


 突然現れた弟の存在に金槌で殴られたような衝撃が走る。直人(なおと)は3年前、病気で死んだはず。なのにどうして?


「どうしてと言われても……死んだからだよ」


 慌てる俺とは対照的に直人は落ち着いた様子で語る。


「本当に直人だよな?」


 寝癖のない整った髪型。シワのない服とズボン。そして極め付けはその丸めがね。見た目は記憶の中の弟で間違いない。


「嘘をついても仕方ないでしょ? 今は死神として魂を狩る仕事をしている。兄さんにもやってもらうから」


「はぁ? 聞いてねーよ」


 反射的に俺がそう言うと……


「一緒に轢かれた女を見逃す代わりに働くって言っただろ?」


 隣にいた宮田(みやた)が俺の肩に手を置く。そうだ忘れていた。あの子は無事だろうか? なんか意識不明の重体とか言ってたけど……


「なぁ、あの女の子は無事なんだよな?」


 俺は無事を祈って尋ねるが、


「さぁどうだろうな。俺は見逃してやっただけだ。助かるかどうかは知らん」


 宮田はそっけなく返事をする。


「なんだよそれ! 騙しやがったな!」


「俺は嘘はついていないぜ」


 宮田は余裕の笑みで俺を見下ろす。やっぱりこいつは死神じゃなくて悪魔だ。人の命を何とも思っていない! 


「やぁ、みんな、お揃いだね。君が司くんかな?」


 俺が憎悪を込めた目で宮田を睨んでいると、また奥から誰かがやって来た。


「そうだけどあんたは誰?」


 見た目は中学生くらいだな。背は俺たちよりも低くて幼さがある。でもその整った顔立ちはクラスの女子からモテモテになりそうだ。


「兄さん、失礼だよ。この方は大死神タナトス様。僕たちの上司だよ」


「上司? こいつが?」


「兄さん! ちゃんと挨拶して!」


 直人が肘で俺の肩を突く。お前は俺の母さんか?


「分かったよ……えっと、どうも、司です。ここで働く事になりました」


「うん。よろしくね。早速明日から仕事を始めてもらうから、今日は現場を探索して来るといい。直人くん後は任せても良いかい?」


「はい、仰せのままに」


 直人は深くお辞儀をすると、俺の手を引いて外に出た。





 かま [鎌]


 死神を象徴する武器。鬼で言う金棒。侍で言う刀のような存在。死神によって鎌の見た目と特徴が異なる。魂を狩り取るほど鎌が大きくなる。





「それはそうと……宮田くんが見つけてきた新人はあの子だね」


 タナトスが兄弟を見送ると、今度は宮田の方に尋ねる。


「ああ、少し生意気な感じだが直人の兄だから使えるはずさ」


「なるほどね……ところで宮田くん、今日のノルマをまだ達成していないよね?」


「でもその代わりに新人を見つけたんだ。それで良いだろ?」


 宮田がそう答えると、タナトスは不満げな顔で頬を膨らませる。その姿は子供が駄々をこねているようにしか見えない。


「なぁ、確認なんだが、死神の仕事は魂を回収する事だよな?」


「えっ、今更どうしたの?」


 タナトスがポカーンとした顔で首を傾げる。


「死神が魂を回収して、天使がそれを成仏させる。仮に10個魂を集めたら10個成仏させる。でも不思議な事にここ最近数が合わないんだ」


 宮田がちらっとタナトスの顔を確認したが特に動揺した素振りは確認できなかった。


「魂は一度あんたの所に集めて天使に提出する。俺は意外と真面目だからちゃんと数えて提出したぜ、にもかかわらず天使から数が合わないと言われた。一体どこに消えたんだろうな?」


「何を言いたいのかな?」


「こうすれば分かるさ!」


 宮田はそう言うと、右手に鎌を出現させてタナトスに振り下ろした。奴も咄嗟に鎌を出して受け止める。


 鎌は狩り取ってきた魂に比例して大きくなる。ただしこれは通常の話し。どんな事にも例外はある。


「随分と大きな鎌だな。さては直接鎌に魂を注ぎ込んでいるんだろ?」


 宮田は鎌を握る手に力を込める。


「どうしてそれを?」


 タナトスは鎌を横にして受け止めるがジリジリと押されていく。


「注文相手の天使が教えてくれたのさ。私利私欲のために捉えた魂を利用するのは重大な違反行為。それくらい分かるよな? 大死神タナトス!」


「やれやれ、とんだ情報を与えられたようだね」


 タナトスは一度距離を取ると、体勢を整えて大鎌を振り下ろす。


「早く白状したらどうだ?」


 宮田も横から薙ぎ払うように鎌を振った。二つの鎌がぶつかり合って火花が飛び散る。

 




 てんし [天使]


 背中に生えた白い羽と頭に浮かぶ輪っかが特徴的。様々な奇跡を使いこなす。狙撃の名人で人のハートをを撃ち抜くこともある。





「うっ、目が眩む」


 暗いビルから出たせいで一瞬何も見えなくなる。なんか後ろの方から話し声と甲高い金属音がしたような……


「なぁ、直人、お前はどうして死神をやってるんだ?」


「死んだ時に宮田さんにスカウトされたんだよ。ほら、僕は兄さんと違って病気がちでずっと寝込んでいたでしょ? でも死神になれば持病なんて気にしなくていいと言われたんだ。まぁ、こんなに忙しいとは思わなかったけどね」


「なるほどな……それで、死神は何をするんだ?」


「死神の仕事は人間の魂を狩り取って集めること。もし野放しにしていると魂は憑依したり負の感情と結び付いて悪さをするからね」


 直人が肩をすくめてため息をつく。


「集めた魂はどうするんだ?」


「とりあえず大死神様に提出する。その後は天界に送られて天使が成仏させる流れだよ」


「天使? 天使もいるのか」


「もちろん。死神がいるのだから不思議じゃないでしょ?」


 直人が『これくらい当然でしょ?』と言いたげな顔で俺の事を見る。


「基本的に死神はただ魂を狩り取るだけで済むけど、たまに反抗する魂もいる」


「まじかよ、そんな時はどうするんだよ?」


「大丈夫、ちゃんと対策はある。これを見て」


 直人はそういうと右手に鎌を出現させて俺に見せた。





[バトル] 


 戦う事。ぶつかりあう事。魔法や剣、その他特殊な能力が活躍するシーン。読者を飽きさせないために適度に行うイベント。





「どうした? その程度か大死神様?」


 宮田は鎌を縦横無尽に振ると、柱に巻きついていたツルが切れて地面に落ちる。


「相変わらずいい切れ味だね」


「こいつは利鎌(とがま)だからな。切れないものは無い」


 宮田は天井に吊るしたランプに狙いを定めて鎌を放り投げた。鎌は弧を描いて飛んでいき、紐を切るとタナトスの足元にランプが落ちた。


「おっと、危ないね〜」


「上ばかり見てないで辺りをよく見たらどうだ?」


 ランプの火は地面に落ちていたツルに燃え移り広がっていく。空気が乾燥しているせいか火の勢いは止まらない。


「これで逃げ道は無くなった。そろそろ全て話す気になったか?」


「う〜ん……ちょっと今は無理かな?」


「じゃあしょうがないな」


 宮田は両手で鎌を握り締めて一気に距離を詰めた。


薙鎌(なぎがま)


 鋭利な鎌がタナトスの首筋を狙う。


「君は強いよ、でもね……君じゃ僕には勝てないよ」


 タナトスの大鎌が更にデカくなる。


大鎌足(おおがまたり)!」


 そう聞こえた時には宮田は後ろの壁まで吹き飛ばされていた。壁にできたひび割れがその威力を物語っている。


「やれやれ、キミはクビだよ! 誰か手が空いてる死神いる? 早く火を消して! あとこいつを外に摘み出しておいて」


 タナトスが指を鳴らすと、どこからともなく同僚がやってきて消化活動を始めた。そこで宮田の意識は完全に途切れた。





 きそく [規則]


 守らなければいけないルール。自分達で作った枠組み。作り過ぎると身動きが取れなくなる。





「ねぇ、宮田くん大丈夫?」


 誰かに呼ばれ目を開くと、背中に白い羽を生やした少女の天使がちょこんと座っていた。見た目は幼いが実際、何歳なのかはよく分からない。


「あぁ、大丈夫だ」


 とは言ったものの体を起こすと全身に激痛が走る。


「やっぱりタナトスは強かったぜ、サミエル」


「ふふ、だから協力するんでしょ? タナトスは重大な規則違反をしたのだから。ほら、もう一度確認してごらん」


 サミエルが指を鳴らすと、何もない所からビデオカメラが現れた。再生ボタンを押すとタナトスの姿が映し出される。


 しばらく待つとタナトスが右手に鎌を出現させてあろうことか魂を注ぎ込んでいく。鎌はより一層デカくなった。


「ほら、決定的な瞬間でしょ?」


「そうだな……なぁ、どうしてビデオカメラを使うんだ? 天使なんだから奇跡とか使えないのか?」


「できるけど……奇跡はどんな事でも出来るから簡単に偽造とか出来るのよ。だからアナログなやり方の方が信憑性が出るでしょ」


(なるほど……それも一理あるな)


「君は合格よ。一緒にタナトスの悪事を暴きましょうね」


 サミエルはそう言い残すと翼を広げて飛び立って行った。上空を見上げたがその姿はもう確認できない。でもその代わりに、白い羽が風に揺れて足元にヒラヒラと落ちてきた。

ご覧いただきありがとうございました!

明日も19時30分に投稿するので、楽しんでもらえたら嬉しいです(^^)/

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