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1話

プロローグ


 以前街を歩いているときにスーツを着た人間がこんな事を言っていた……


 俺たち営業部は雨の日も風の日も街を歩いて宣伝をする。こんな仕事を死ぬまで続けるのかと……


 その人間には悪いが、死んでもこんな仕事は終わらない。何故なら今日も俺はノルマを達成するために鎌を片手に街を歩いているのだから。


 集めた魂は19個……あと1つだな。






キャラクター紹介


(つかさ)     高校生。平凡な日常を送っている。


直人(なおと)    司の弟。すでに亡くなっている。


小春(こはる)    女子高生。本を読むのが好き


宮田(みやた)    司たちの先輩死神


タナトス  大死神の愛称。司たちの上司


サミエル  天使。魂の成仏が仕事。






「あいつが死んでもう3年経つのか……」


 俺の名前は(つかさ)。地元の学校に通う高校2年生。他の奴らが就職や進学をどうするか悩む中、俺はやりたい事が見つからず今日もぼんやりと過ごすつもりだ。


 自分でも何かしなければと思うけど考えれば考えるほど分からなくなる。こんな俺と比べてあいつは──弟の直人(なおと)は本当に頭が良かった。

 

 出勤ラッシュの朝はいつも通り仕事に行く人で賑わっていた。都会の朝はいつも騒がしい。


 スーツを着た人、書類を抱えた人、それぞれが目的地に向かって歩いている。ご苦労な事だ。俺も社会に出たら彼らのように働くのだろうか? 


 信号が赤に変わる。先を急ぐ者は餌を前にした犬のように今か今かと(よし)になるのを待ち侘びている。従順な犬は会社(しゅじん)の言うことを守り、会社(しゅじん)の顔色を見ながら過ごす。俺には出来ない芸当だ。


「ママ、ぼくの夢はお医者さんになることなんだ!」


「そうね、ならお勉強を頑張らないとね!」


 ふと親子連れの会話が耳に入る。夢とは不思議なもので子供の頃は簡単に出てくるが、大人になるにつれ夢から覚めて現実を見る。    


 毎日変わらない学校生活を送り、適当に時間を潰して家に帰る。結局俺は大人になっても変わり映えの無い日々を過ごして死んでいくのか? 


 信号が青に変わった。今度は車に乗ってる人が待てをする番だ。でもその中に待てが出来ない奴が紛れ込んでいた……


 その車は信号を無視して前を歩く女子高生目掛けて突っ込んで行く。


「おい! 危ない!」


 気がつくと俺は鞄を放り投げて駆け出していた。全てがスローモーションの様に見える。さっきまでのスーツを着た人たちの声が聞こえない。俺は必死に手を伸ばして彼女を突き飛ばした。





 しぬ [死ぬ]

 

 誰1人として回避できない事。子供だろうが大人だろうが、天才だろうが凡人だろうが、金持ちだろうが貧乏人だろうが関係ない。にもかかわらず自分だけは()()死なないと思いがち。


 百数年後には今この世に生きている全ての人が死んでいる。地球上の全ての人間が入れ替わる。


 だが、ごく稀に異世界に行くことが出来るらしい。





 けたたましいサイレン、慌てふためく人々の声、誰かが俺に話しかけているようだけどうまく聞き取れない。


 なんとか顔を上げて前方を睨むと、さっきの女子高生が同じように倒れていた。そっか……俺、あの子を助けようとしたんだ。でも結局2人とも轢かれた。


 俺このまま死ぬのかな? まぁでも死んでも後悔はないな。どうせ社会に出て長く生きても同じ事の繰り返し。グダグダ続く毎日に終止符が打てたと思えば清々する。


 ノイズが頭に響き視界が霞む。今にも意識は途切れそうになる。そろそろ天使のお迎えが来る頃だろうか? 白い羽と微笑んでいる姿が思い浮かぶ。どんな声をしているのだろう? きっと優しくて包み込むような……


 俺の中で理想の天使の姿が形成される。でもそれは一瞬で粉々に崩れた。


「今日のノルマはこれで達成だな」


 天使にしては低くこもった声が聞こえてきた。ノルマ?


「さっさと狩り取るとしますか」


 狩り取る? さっきから何を言ってるんだ?


 最後の力を振り絞って顔を持ち上げると、物騒な鎌を持った背の高い中年の男が立っていた。今度は俺の中で死を象徴する人物が形成される。

 

「まさか……死神⁉︎」


 そう口にすると鎌を持つ男は体をビクッと震わせて振り返る。その姿は授業中にボケーッとしていたら突然名前を呼ばれて驚く奴みたいで滑稽だ。


「お前、俺が見えているのか?」


「はっきりと見えているよ、何しているんだ!」


「何って……仕事だよ。あーたまに見える奴とかいるよな。とくに死にかけた奴とか」


 男は俺の質問には答えず、女子高生に狙いを定めて鎌を振り上げる。


「おい! 待て! やめてくれ!」


 潰れた肺に無理やり酸素を取り込んで声を張り上げると、男が振り下ろした鎌が女子高生の胸の上でピタッと止まる。


「なら取引をしよう」


「取引?」


「ああそうだ。俺は忙しいから今日からお前が代わりに働くんだ。そしたらこの女を見逃してやる」


「働く? よく分からないけど見逃してくれるなら()()にだって魂を売るよ!」


「俺は悪魔じゃない。()()だ。契約成立だな」


 鎌を持つ男は不健康そうな顔を綻ばせる。でもその顔はどう見ても悪魔の笑みだった。





 しごと [仕事]

 

 生活に必要なお金を稼ぐ手段。約8時間。1日の3分の1を捧げる行為。長すぎて退屈な人生を紛らわせる効果もある。

  




「自己紹介がまだだったな。俺の名前は宮田(みやた)。お前は?」


「司だ」


「そうか……ついて来い司」


 宮田と名乗る死神に連れて来られたのは、廃墟となった四階建てのビルだった。所々に入ったヒビと這い上がるように伸びるツル草から年季を感じる。


「ここがお前たち死神の拠点なのか?」


「あぁそうさ」


 早速中に入って見ると、カビと埃が混じった匂いが鼻につく。電球も所々消えているせいで薄暗い。いかにも死神みたいな奴らが好みそうな建物だ。


「お前はここで死ぬ気で働いてもらう。まぁ、もう死んでるんだけどな」


「死んでる? どう言う事だよ!」


「そのままの意味さ。おっ、早速ニュースになってるな」


 宮田がスマホを取り出して俺に見せる。そこには車に撥ねられて男子校生1人が死亡。もう1人も意識不明の重症と書かれていた。


「はっ⁉︎ 何だよこれ」


「だからお前はもう死んでるんだよ。さっき車に轢かれただろ?」


「人ってそんな簡単に死ぬのか?」


「案外そういうもんだぜ。例えばモウドクフキヤガエルの毒は人体に0.1ミリグラム入ると死ぬからな。じゃあ後はあいつに聞いてくれ」


 宮田が指をさした方から1人の死神? がやって来た。フードを深く被っているせいで顔が見えない。


「なぁ、どういう事だよ。ちゃんと説明してくれ!」


 俺が掴みかかる勢いで目の前の奴に問い掛けると、フードを被った死神が軽く頷いて口を開く。


「僕は構わないけど、ちゃんと最後まで話を聞いてね」


 その声は小馬鹿にしたような……でも慣れ親しんだようなものだった。


「──その声、まさか⁉︎」


「久しぶりだね兄さん」


 フードから出てきた顔は、3年前に死んだはずの俺の弟──直人(なおと)だった。

ご覧いただきありがとうございました!

全19話、毎日19時30分に投稿するので、楽しんでもらえたら嬉しいです(^^)/

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