プログラマー
初めての魔法行使でオーラを使い切ってしまった俺。
庭で倒れてたっぷり半日間、起き上がることはおろか、指一本満足に動かせないままその場で寝転がっていた。
日もとっぷりと暮れた頃になり、ようやく体が動くようになっていた。
屋敷の結界外でこうなっていたら、今頃は魔物に食されて、消化されて、排泄に至っているまでありそうだ。
本当に気を付けないといけない。
元居た世界の、あの国でならよく酔っ払いがその場で寝落ちなんてしてしまっても、気づいたとき生きてる可能性は極めて高かった。
あの国も身を守る結界のようなものに守って持ってくれていたんだなぁ。
…いや、現在進行形で死ぬ一歩手前だったか。
あぁ、一応ここも絶対安全なんて保証はないのだ。
結界に侵入してくる魔物がいるかもしれないし、結界外からの攻撃もあるかもしれない。
何より、我々以外の住人が実はいて、何処からかこちらを観察し隙を伺っているかもしれない…いや、ないか、もしそんなことがあったらもうぶっ倒れていた先ほどまでにどうこうなされていただろう。
どちらにせよ、まだまだ俺の警戒心は低すぎる。
先ほどの森での出来事にせよ、今のオーラ切れにしろ、実に防げた問題だ。
セレスティを見る。
転生特典その2である、ゼウスの使徒である彼女のアドバイスを受けていればそう、未然に防げたのだ。
実際、結界を出ようとした俺にセレスティは警告を発した。
それが目的でついてきてもらっているのに、こうして活動を始めてきていまだに彼女に相談をせず、独断で動いているのには、俺の中にある根本的な問題に原因があった。
俺は、他人とのコミュニケーションが苦手だ。
独りで行動したほうが気楽だ。しかし、得体のしれないこの世界ではそれでは生きていけない。
生き方を、己を、改めなければいけない。
「セレスティ」
「はい英史様、どうされますか」
彼女は俺の倒れていた半日の間、この場を離れずずっとこの場に居た。
ゼウスから、俺の傍に居て役に立つよう命ぜられているのだろう。
その命をちゃんと全うさせてあげるのも、それを望んだ俺の責任だ。
これからはコミュ障ではいられない、ちゃんとしよう。
「今日はもう、屋敷に戻って休もうと思うんだけど」
「はい、それがよいかと思われます。消耗したオーラを回復すべく肉体がかなりのエネルギーを使っています。
しっかり、栄養を補給して休まれるのが最善かと」
「わかった。そうするよ」
彼女のアドバイスに素直に従い、簡単な食事を済ませたあと眠った。
こうして、森踏破に向けた修行の初日が幕を閉じた。
翌日、再び庭に立つ俺とセレスティ。
「今日はオーラについて色々試そうと思ってる」
「はい、知識は必要ですか?」
「書斎にあった本で一通りは入ってるかな」
この世界では、オーラの強さイコールその人物の強さと直結している。
肉体強化と、各種様々な便利な魔法や能力の行使に必要な生体エネルギー。
この世界に行ける生物には皆、オーラを巡らせている生きている。
体内の細胞がオーラを生み出し、巡回させることで細胞の代謝と活性を促している。
一般的な住民、生物…元も子もない言い方をすると最弱に位置する弱肉強食の捕食される側の者たちは、オーラの量が少なかったり操作ができないものたち。
その逆、この世界の頂点に立つ支配階級の人間や、捕食の頂点にいる化け物は圧倒的なオーラ量を持ち、卓越した操作技術を持った者たち。
これを知った時に思ったのは、あっちの世界の資金力・または権力が形を変えたもの。
日々の生活を送るためのお金を稼ぐことでいっぱいいっぱいの一般市民と、国家予算を遥かに凌ぐ資産を持つ超資産家達。
住む世界が違い、後者は前者を搾取し金は金を更に産み更に権力を強める。
超資産家は金の産み方を知っていて、産む方法を自ら作り出している。
話を戻し、オーラも同様だ。
生まれ持った才能は大事かもしれないが、もっと大事なものがある、知識(情報)と分析だ。
積み重ねられてきた知識は、金の効率的な産み方を教えてくれる。
オーラもそう、情報と分析が効率的な運用方法を教えてくれる。
書斎には大量の書物が貯蔵されていた。
その中にオーラにもオーラに関する書物は特に多かった。
入門編の書物から、発展・応用編や達人や実力者が書いたと思われる難解で貴重なものまで大量に。
その本一冊一冊のすべてのページを、能力を使ってスキャン。
スキャンした内容を分析し整理された情報として俺の中に保存されている。
この得た情報をもとに、やりたいことを出力していく。
まずは身体を巡っているオーラを感じること。
魔法の行使の時と同じく、必要なプロセスを組み上げ、プログラムを実行させる。
俺のオーラは、俺の体を中心として穏やかな川のように流れている。
地下水が湧き出るように、俺の身体の細胞を源流として生み出され流れに集まって巡回している。
プログラムを追加し、川の流れを早くさせたり、遅くさせたりする。
更にプログラムを追加し、今度は流れるオーラの量を増やしたり、減らすことを試みる。
それも成功し通常時よりも多いオーラが細胞から生み出され、体を巡る。
オーラの出力方法を変更すると、身体への負担を感じられた。
当然といえば当然だが、出力を変えるとオーラの消耗は大きそうで、枯渇も早くなる。
次は、俺が現在生み出すことのできるオーラの総量を測ることにする。
総量を知ってないとオーラ切れをまた起こしてしまうだろうし重要なことだ。
この方法も、書物に書かれていた情報をもとに構築していく。
計測できたオーラ量を、情報として扱いやすくするために数値化させる。
現在俺が持っている最大オーラ量を100とする。
そして、数値化されたオーラ量を判断しやすいように視覚化する。
視覚の片隅に99/100という数字が表示される。
これをオーラカウンターと仮称しておこう。
試しにファイアーボールを撃ってみると94/100に変わった。
大きなファイアーボールを撃つと86/100に変わる。
普通のファイアーボールで5、大きなファイアーボールで8ずつそれぞれオーラを消費したらしい。
そのまま自然体で待っていると87/100と変化した。
変化までに有した時間を測定していて約7分ほどかかった。
つまり、7分で1のオーラ量が回復する、0から最大値まで回復するには700分で約11時間半かかるらしい。
35分で1回、通常のファイアーボールを1回。
連続すると最大で20発のファイアーボールを撃つことができる。
「セレスティ、最大で20発のファイアーボールを撃てるのは、強い?」
「魔法初心者ではまず不可能です。『一般的』には5~6発でオーラ切れを起こすでしょう」
なるほど、3~4倍程度のオーラ量を最初から持ってるとなれば破格といえるか。
もうちょっと、試してみるか。
巡っているオーラ量を、今できる限界まで増やす。
オーラカウンターが87、86、85と減少しだす。
数分で49と、半分を切ってしまった。
逆に、極限までオーラを出さないように減らす。
今度は逆に3分程度で1回復した。
なるほどなるほど、オーラの出力を増やすと当然だけど消費量が増えて、減らすと回復速度があがるということらしい。
「現在のオーラ総量、出力の変化、回復速度と初歩的なことはだいたい分かった」
「能力を上手く使われていますね。『一般的』にはその域に到達するには幼少期から育成係をつけて青年手前に至る歳月は有します」
なるほど、セレスティのいう『一般的』と比べると数十万倍の速度で時短できたわけだ。
これは、最近流行っているチートといってもよいのでは?
魔法とオーラ操作を試した感想としては、転生特典との相性は抜群に合っていた。
セレスティによる転生前の事前の説明で、魔法もオーラもどちらもプログラミングの要領が適応できるのではないかと踏み、賭けに出た。
その賭けにはとりあえず勝ったと言っていいだろう。
しかし、相応のリスクは取っている。
ハイリスク、ハイリターンとはいったものだ。
もし、魔法やオーラの仕様が検討違いだったならば、方針を大幅に変える必要があった。
むしろ、森を突破する手立てがなく、転生人生はここで詰みだったかもしれない。
やがて食料は底を尽き、俺は餓死していた…かもしれない、その未来はあまり考えたくはない。
肉体強化や戦闘に特化した特典は、素直に戦闘力の強化に繋がるであろうが、
拡張性にかける、というか想定外の事態への対処力に乏しいというか。
肉体の強化は、オーラの操作の上手さでいかようにもカバーができるはず。
オーラの出力を最大にする。
オーラカウンターが素早く減少を始める。
肉体強化のプロセスを構築し、実行する。
その場で垂直に飛ぶ、体は5m程の高さまで舞っていた。
初めての肉体強化は、想像以上の快感だった。
全身から力が溢れ、羽のように軽くなったようだ。
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