色々とぶっ飛んだ話が出てきました。
目の前に連なる5枚のモニターの間から、光り輝く何かの姿が覗いている。
感覚的にソレが異質な何かであることはわかる。
死期を悟って頭がバグってしまっているのかもしれない。
銃口を突き付けられているこの状況でも、反射的というより本能的な好奇心に突き動かされてソレが何なのか確認しようと顔を動かす。
全体を捉えることができたけど、ちょっと理解が追い付かない。
端的に表現すると、眩く輝いている小さな女の子のようなシルエットをした何か。
「初めまして、光守英史さん。突然お邪魔してしまってすみません」
喉を震わせて音を出す、というプロセスを無視した、女の子的な何かは微動だせず声を発した。
「は、初めましてー…えーっと…、天国に行けないということは地獄行きなんですか?ということは貴女は迎えに来た死神さん…とか?」
「どちらの答えも、『いいえ』です。そして付け加えると、該当する場所とそういったものは存在致しません」
人の死後は魂が、天国か地獄に行くというようなことを信じているわけではない、だけど誰も確認出来ないことなので否定するつもりもない。
死人に口なし、あるかもしれないしないかもしれないというのが俺のスタンスだったのだが、この方はきっぱりと否定した。
何か根拠でもあるのだろうか…っとか今はどうでもよくて。
大事なことに気付く、隣を向くと今だ多数の銃口が俺を狙っている。
先ほどは、これ確実に死ぬ奴という直感は多分あっている、だが、もういい加減撃たれてるよという時間がたっているにもかかわらず。
まだ撃たれていない。
よく観察すると、特殊部隊の隊員達は静止したまま止まっている。
呼吸すらしていないように見える、完全な静止。
時間が止まっているかのような…。
「ご明察の通りです光守英史さん。今は私が時間を止めております」
えぇ!?言葉に出してた?
「いえ、出しておりません」
思考が読まれてる。
この方、何かとんでもなく凄い何かの人なのでは。
「私はある方の命により、光守英史さん貴方の元を訪れた使者です。」
「ある方とは?どの方?」
「この世界を創造された方です」
「神様?本当に居るんだ…」
「あなたがた人間の想像するような神という概念とは別の存在になります」
「は、はぁ…でも、世界を作ったなんてとんでもないお方が何故、俺なんかにコンタクトを取ってきたの?」
「ゼウス」
「は?」
会話の途中で突然その単語が飛び出して、再び思わず声をあげてしまった。
「わかりやすくわかりやすい名前で呼んで良いよ、とのことです」
「なんだか、明らかに超常現象なのに人に親切設計だな…」
「あ、でも正式名称ではありません。そもそも我々に固有の名称というものはない。とおっしゃられてます。あくまで光守英史さんがわかりやすい配慮のようです」
「はぁ、…というかそのゼウスさんもこの会話に参加してるの?」
「えぇ、ここにはいらっしゃいませんが私を通して参加されてますよ」
ゼウスとなのる神的な方が、俺に用があってやってきてくれたらしい、このような俺にとって絶望的なタイミングで。
タイミングよすぎない?
この状況って俺にとっては最悪というか、死ぬor死ぬという選択肢しかない状況のはず。
そんな俺の元にやってきたということは、なんか読めてきたぞ。
「流石です光守英史さん、流石の鋭い分析力です。加えて情報収集能力、それらを駆使し貴方はたどり着いた」
「世界の超権力者達に?」
「それは、貴方がたの住む社会における対象の呼称です。私たちの見方では、貴方にわかりやすく言い換えるなら…そう…バグ」
「バグ…?あの、プログラミングのバグ?」
「はい、本来この世界にあってはならないバグのようなもの…」
俺が情報戦を挑んできた相手、世界の超権力者達のことをゼウス達はバグと呼んだ。
そのバグは、この世界をもはや手遅れなほどに侵食しているとのことだった。
それはわかる、裏で全ての大国をいともたやすく動かせる金と権力を持つ彼等に敵はいない。
敵はいないし、これからも敵は生まれようもない。
ルールを作っているのも、その審判役も彼等が行っているのだから。
「ここまで世界を支配してしまうのは想定外なのです。もはやこの状況を変えるには一度世界を終わらせるしかありません」
静かにめちゃくちゃ物騒なことを言っている。
しかし、一たび『終わらせる』ことが決断されたら本当にやっちゃうんだろうな。
隕石が降ってきて文明を滅ぼしたり。
もし権力者たちが宇宙進出していたら、ビックバンを起こしたり。
「世界には公正な変化が必要なのです。公正な変化の怒らない世界に存在価値はありません。それを歪めるバグは排除しなくてはなりません」
「でもまだそれをしていないってことは、解決策があると。だから俺に接触してきた、と」
「ご明察です。光守英史さん貴方は…」
「英史、で良いよフルネームを連呼されるのは息苦しい」
「わかりました、では私のことは…」ほんの一瞬の間を置き、まるでCPUが計算する間のように「セレスティとお呼びください」
「わかった」
「英史さん、貴方はバグから脅威と認定されました。自身に致命的な変化をもたらすワクチンのような存在だと」
「そのようだね、光栄だよ俺みたいな矮小な存在が超大国をも超える存在に、脅威と認定されたのだから。だけど、脅威と言ってもアリと象だ。今まさに踏みつぶされようとしている。ゲームオーバー目前だ」
向けられている銃口をツンとつつく。
「はい、そうです。このままですと、英史さんは死に、バグへの対抗手段を失ったこの世界もまた我々の手によって終わらせます」
「その最悪な結末を変える方法がある、と?」
「あります。本来ならば、我々が介入することはルール違反なのですが、ルールを犯しているのはバグも同じ。ですので、目には目を歯には歯をとでもいいましょうか緊急処置を行うことにしました」
「目には目を…バグと同じ…こんな今にも殺されそうなただ一人の人間である俺に、何をさせようというのか」
「はい、現在の英史さんはとても脆いです。それこそ先ほどご自分でおっしゃられたアリのよう」
「象になれるの?」
「なりたいんですか?象に」
「ものの例えでしょ、アリが象のように強くなれるのかってこと」
「なれますよ、ですがこの世界では無理です。この世界の人間は風船のように脆いですから」
「この世界では無理って、なら別の世界でなら可能でその世界へ行けって?」
「はい、ご明察の通りです。別の世界、バグの生まれた異世界へ行ってもらいます」