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余命三か月のメイド

作者: モリワカ

メイドの余命は三か月

医者からそう告げられた

もちろん、原因は分かっている

メイドが幼いころから持っている持病が悪化したせいだ


それが分かったのはある日の定期健診のことだった

メイドはこの辺では名の知れた富豪の家に仕えるメイドだった

月に一度メイドの体調を管理するという名目で定期検診が行われている

そこで、医者から告げられた


「君の余命はもって三か月だ」 と


メイドはもちろん、メイドが仕えている主人さまも驚きを隠せないでいた

そうなるのも無理はない

だが、こうなってしまった以上は仕方ない

メイドは長年仕えた主人の元を離れることにした


主人はこんなメイドのことも気にかけてくれていた

何なら面倒まで見てくれると言い出した

さすがにそこまでしてもらうわけにはいかない

メイドと主人 立場は全く違うのだから


悲しみを残しつつ、メイドは主人と暮らした屋敷を後にした

後のことは他のメイド達に任せよう

きっと私以上に働いてくれるに違いない

そう一抹の期待を胸にメイドは屋敷に背を向け歩きだした


余命三か月と言われたこの身をどうしようかと迷っている

宿でも借りて暮らそうかとも思ったが、予想以上にお金がかかる

どうせすぐ死ぬ身だ お金なんて持っていても意味がないと主人にお金は全て返してしまったし

それに、何かの間違いで三か月経つより前に私が死んでしまったら、宿屋の人に申し訳なく思う


ふと、思った

帰ろう わが故郷に

懐かしいあの景色を最後にもう一度だけ見たい

メイドは記憶を頼りに、故郷に戻る


記憶は正しいはずなのだが、どうしても故郷に帰ることができない

記憶ではこの道を真っ直ぐ行くと、大きな川が見える

でも、今目の前にあるのは一軒の家

おかしい 私が屋敷に仕えている間に何か起こったのだろうか

メイドは気になり、歩いていた老人に声をかけた


「すみません このあたりに〇〇という集落はなかったですか?」


メイドがそう聞くと、老人は目を丸くして答えた


「あんた、あの集落のもんかい? こりゃまた珍しいこともあるもんだ あの集落は今では都市伝説になってるよ」


都市伝説?

何で私の集落が都市伝説などという不気味なものに変わらないといけないんだ?


「私をからかっているんでしょ? そう言う冗談はやめてください」


故郷のことをバカにされて、イラっときた

つい口調を荒げてしまう


「おいおい、そう興奮しなさんな ワシの言っていることは何一つ間違っちゃいない ○○はこの辺じゃ有名な都市伝説じゃよ」


そう言う老人の目はまっすぐな目だった

どうやら受け入れるしかないようだ

メイドはいまだ半信半疑のまま都市伝説について詳しく話を聞いてみる


「なんでもそこに暮らす人たちが皆何かの病におかされて亡くなったという噂じゃ ま そんなもの、都市伝説なんて言うにはいささか小さいもんかもしれんがな」


老人は二カっと笑って去っていった

あの老人、誰かに似ているような気もする


皆が何かの病におかされて死んだ?

そんな話、聞いたこともなかった

メイドは、真実を突き止めるために記憶のみを頼りに故郷へ向かう


「確か、ここに○○があった気が……」


メイドは記憶を頼りにようやく目的の場所までたどり着いた

だが、そこは何も無い更地だった

本当に私の故郷は無くなってしまったのだろうか

メイドは猛烈な喪失感に苛まれ、その場に泣き崩れた


どれだけの時間そこにいただろうか

気がつけば辺りは、闇に飲まれていた

この辺は家どころか建物自体がない

頼りになるのは、申し訳程度に光る街灯のみ


こんなところにいつまでもいても仕方がない

メイドはどこへ行くというあてもなく歩き出した


故郷を失い、職も失った私には何が残っているのだろうか

いっそ身を投げた方が楽になれるかもしれない


気がつくとメイドは森の中をさまよっていた

辺りは完全なる闇に包まれている


ああ、私はここで死ぬのか

余命はまだ残っているものの、もう思い残すことは無い

メイドは木の根元を枕にし、そのままゆっくりと目を閉じた


夢を見た

○○にいた時の夢だ

夢と認識しているにもかかわらずなかなか目覚めない


でも、このままでもいいのかもしれない

このままずっと夢の世界にいるのもいいかもしれない


現実にはもう故郷はない

でも、夢の中 妄想の中なら存在する

私はそこで過ごせばいいじゃないか!


ふと、誰かに体を揺すられた

人がせっかくいい気分に浸っていたのに

メイドはいやいや目を開ける


そこに居たのはかつてのメイドの父親だった

○○はもうないと思っていたのだが、父は今目の前にいる

メイドは久しぶりに会った父に触れようと手を伸ばす


その時、父の体はどろどろに溶け、土に還ってしまった

あまりの絶望感にメイドは半狂乱に陥った


メイドはまだ暗い森の中を、脇目も振らず走り回った

もう何もかもが嫌になってくる


故郷、職、家族まで失った…………

神様は私に何を求めているのだろう


暗すぎて足元が良く見えておらず、メイドは木の根に引っかかって転んでしまった

そして、そのまま頭を強打し、気を失った


気を失って倒れているメイドの前に一人の老人が立っていた

その老人は、メイドが初めて会ったあの老人だった


その老人は、メイドの姿を見て悲しそうな顔をした

そして、両手を静かに合わせてこう続けた


「可哀想な人の子よ どうか安らかに」



*メイドの故郷 ○○は本当に無くなっていた

何十年も前の大災害で、地中深くに埋まってしまったと言われている


集落全体を襲った謎の病と言うのが、集落で使われている川の水に病原菌が混じっており、それが集落で使われ病気が広まった

メイドの家はそんなに裕福ではなく、水もあまり使わず、早くにメイドという職についたおかげで被害が最小限に抑えられていた


だが、その病原体は進化する

少しづつだが時間をかけて、メイドの体を蝕んでいく

そして、今回の定期健診でその病原体が見つかってしまった


余命三か月と言われていたものの、病原体の侵食スピードがあまりにも早く予想よりも大幅に寿命が縮んだ

メイドは、目的であった自分の故郷にたどり着くことができた

それが唯一の救いともいえるのではないだろうか










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