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ご利益

作者: 泉田清

 コインランドリーの両替機から新しい500円硬貨が出てきた。キラリと光る表面に、令和3年が刻まれている。初めて手にした硬貨、何だか嬉しくなった。機会があれば誰かに自慢しようとハンドル近くの小物入れに置いた。

 その後いつものドライブへ出かけた。山道を走っていると、見慣れた景色の中に鳥居をみつけた。こんなものがあったか?何故か、お参りでもして帰ろう、という気になった。


 鳥居の前の路肩に車を停める。崖上へと階段は伸びていた。賽銭でも持っていこうと財布に手を伸ばすと、小物入れの500円硬貨が目に入った。令和3年の硬貨!崖上にある神社は平安の世からあったと看板にある。まさか当時の人々も令和の硬貨が投げ入れられるとは思うまい。何だか壮大な話になってきた。賽銭箱に硬貨を投げ入れ、小さく鈴を鳴らす。手も合わせた。が、何の願望も悩みも無い。ただ無心で手を合わせた。挨拶ぐらいはすればよかったかもしれない。


 昼過ぎには地元へ帰って来た。部屋でノンビリするか、などと思いながら踏切を渡ったところで、パトカーが後ろからやってきた。「しまった!一時不停止だったか」思わず叫んだ。事実そうで、あえなく御用となったのである。

 車を停めると警官が一人やってきて窓を開けろとジェスチャーした。「あの踏切で事故があったばかりなんだよね」諭すようにいった。罰金や減点の数が頭に浮かぶ。と、パトカーにいたもう一人の警官がやってきて「要請入りました!」叫んだ。近くで事件か事故があったらしい。先にいた警官が「次からは気をつけてよ!」吐き捨てるようにいうと、パトカーはけたたましいサイレンを鳴らし、自分を置き去りにして去っていった。呆気にとられた自分は「こんなことがあるのか」思わず呟いた。


 アパートに向かって車を走らせ、今見逃してもらったのは新500円のおかげに違いない、と思った。同時にこんなことでご利益を使ってしまったのがもったいない、とも思った。とはいえこれが運命の導き。パトカーに捕まると分かっていたから前払いさせたのか、何の願望もない賽銭を使い切るためのイベントだったのか、神のみぞ知る、だ。

 次のドライブも、またあの神社へお参りに行こう。それまで新500円硬貨を手に入れられるかどうかは分からないけれども。



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