1.VanishingDrive
人類が宇宙に出て長いときが経った。
その間も人類は数々の戦争を行いその度に新しい技術を開発してきた。
その技術の中には、旧時代の天才が提唱していたエネルギーも存在していた。
「よく来てくれたね。親友」
そう言って俺を迎える白衣の男、彼の名前はツバサ=ツヘンサーブル天才と言われる技術者だ。
今日、俺は彼に招かれて彼のラボがあるコロニーに来ていた。
「久しぶりだな変人、今回の仕事は新しいエンジンの実験って聞いているけど?」
「ああ、そのとおりだ。新しいエンジン、エーテルエンジンを積んだ機体に乗ってエーテルエンジンのスペックテストを行って欲しい」
そう言って、ツバサは俺に紙の書類を渡す、書類には今日テストするであろうエンジンの概要が書かれている。
エーテルとは、この世界のどこにでも存在するエネルギー、その存在は旧時代にも提唱されていたが近年になってやっと存在が確認されたが大きな問題があった。エーテルを使ったエンジンがいくつか施策されたが、エネルギー効率が凄まじく悪く1立方メートル四方のサイズのエンジンを使っても室内灯を点灯させるのがやっとで乗り物に使うのは現実的ではない。
しかし、新しいエンジンは人形機動兵器の予備エンジンとしてギリギリだが動かす事ができる物だ。
流石に戦闘モードでの動作は無理みたいだが、基地への帰還とそれまでの生命維持に必要なエネルギー程度は確保でき、燃料はどこにでも存在するエーテルを宇宙から吸収する。それによりパイロットの生存率を高めるためのエンジンだ。
テストはテスト宙域まで通常エンジンで移動、その後、通常エンジンを停止してエーテルエンジンを起動、テスト宙域に存在するデブリ代わりのポットを避けながらマニューバ、最後にエーテルエンジンでラボへと帰還する。
エーテルエンジンの出力的に考えて、歩いて障害物競走をしてそのまま帰って来るようなものだから何も難しいことはない。
「資料を見て分かるように今日行ってもらうのは新型エーテルエンジンのテストだ。機体を動かせる出力の新型エンジンはほぼ完成しており、残りは実践テストのみだ。説明は以上だ」
そう言って、彼は歩き出すのでその背について行く
何度も歩いた通路を歩き格納庫に着くとツバサは振り向く
「今回の実験機はこれだ」
そう言った彼の背には1機の機体
MF-19SK アリエティス
細身の騎士を思わせるシルエットをしており見た目通り、軽装甲高機動の機体だ。
固定武装もほぼ無く、腰部から伸びる2本の尻尾の様なテイルアームの先に付いたレーザーガンとレーザーキャノンが1門ずつと腰部にセットされてるレーザートーチのみ。
トーチを除く2門はテイルアームを通じて動力源に直結しているため、出力は高いがこの2門を使っている間はエンジン出力の問題から回避等にエネルギーをほとんど割けなくなる。
この機体の売りは熱センサーやソナーを無効にするダークグレーの装甲、重力下でも飛行可能かつ、単体での大気圏突入もできる耐熱性だ。
活躍の場を選ばない性能の為、少し前の時代の戦争では諜報活動によく使われていたらしい
だが、そんな機体も後継機が出ると共に姿を減らしていった。
「旧式とはいえ、よくこんな機体を手に入れられたな」
「ああ、上に無理を言って手に入れてもらった、脱出装置はしっかりしてる上にいろんな場所で使えるからこいつ1機で環境テストもできるからな装甲は薄いがフレームは丈夫だから多少の無理もできるしな」
胸にあるハッチを開き半円のコックピットに乗り込む
「ハッチ周りは多少変えているが問題ないかな?」
「ああ、基本は変わってないし特に問題はないな」
「コンソールにエンジンの切り替えを追加しているから、テスト宙域に到着したら切り替えてくれ」
「了解」
ツバサを乗せたタラップが機体から離れたことを確認し記録装置を作動させ機体をエアロックに移動させる
「ツバサ、聞こえてるなMF-19SKアリエティス発進する」
「監視システムオールグリーン 発信してくれ」
その声と共に機体を発進させる。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
テスト中域に到着したのでコンソールに増設された監視システムにアクセスするが当然ながらここまで問題ない。
「宇宙時間 14:32テスト宙域 デルタ32到着
これより、新型エーテルエンジンのテストを開始する」
コンソールを操作してエーテルエンジンを起動させる
「エーテルエンジン起動、問題なし、これより動力バイパスをエーテルエンジンに切り替える」
エンジンの問題がないことを確認して動力バイパスを通常のエンジンからエーテルエンジンに切り替えを行う
「バイパス変更完了、これよりマニューバーテストを開始する」
スラスターの出力を少しずつ上げていく
「親友!!今すぐエンジンをとめるんだ!!」
ツバサのその言葉と共にエンジン出力が一気に上る
「くっ!!」
スラスターを一気に絞り、エンジンを強制停止させようとするが間に合わない
宇宙時間14:40新型エーテルエンジンを搭載したアリエティスはエネルギーを拡散させて行方不明
その後、探索が行われたが一切の痕跡も見つからず
パイロットのトーヤ・イシジマも行方不明となった