表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/9

第九章 処刑

 目が覚めた。朝になっている。ベンチの上で眠りこけていた。


 「ジャメル?」


 僕の隣には誰もいなかった。僕は走ってアパートに帰った。家具が消え、じめから誰も住んでいないように思われた。


 立ち尽くしていると、号外を配る少年の声が響いた。


 「バスティーユ牢獄襲撃事件だよ」


 僕達のことだ。慌てて新聞を買った。見出しの文字に言葉を失った。反逆者の公開処刑。それも時間はあと二十分もない。


 僕は広場に全速力で走った。嘘だ。嘘だと、胸のうちで呟いては胸が熱くなる。広場に着いたときには全身汗ばんでいた。処刑台の周りに大衆が集まっていた。僕は少しでも高い場所へと、噴水の銅像によじ登った。


 どうしてジャメルが殺されなければいけないんだ。ジャメルは、貧しい僕を救ってくれた。大金持ちで太ることしか知らない貴族より、必要最低限の生活しかできない僕を、大切に思ってくれた。なのに、どうして!


 処刑台の階段からジャメルが現われた。なんだ、いつも通りの怪しい笑みを浮かべているではないか。このときばかりはジャメルが憎かった。笑っているジャメルのために泣いているのが、馬鹿みたいだった。


 罪状が述べられていく。僕の知らないおぞましい犯罪暦が次々に暴露されていった。ジャメルが僕を見つけてくれた。相変わらず僕の顔を見てにやついている。本当、あいつは悪魔だ。こんな状況で自分だけ楽しんでいるんだから。


 「さっさと殺せ!」

 

 口々に罵る声に混じって、僕もジャメルを罵倒した。


 「許さないからね絶対! 死んでも許さないから!」


 僕の声にジャメルは微笑んだ。次の瞬間には、ジャメルの足場が外され、風でフードがはがれた。首に食い込む縄。のたうつジャメル。僕には滑稽に見えた。ジャメルは苦しみとは無縁のはずだった。喉に食い込む縄も、彼にとっては愛おしい道具なのかもしれない。


 ジャメルは最後まで安らかで、微笑んでいた。最後にわざとらしくあがいてみせて、民衆を満足させた。最期まで、冗談がきついのは変わらなかった。ジャメルの死体が降ろされる。とても、人間とは思えないほどしなやかな身体だった。


 裁判官も、警備も目を見張った。そこにいた民衆もざわついた。ジャメルが子供の姿になったからだ。それを見た人々は口々に悪魔だと罵った。僕もきっとそうだったと思う。ただの魔法使いだなんて僕には思えない。


 「お別れだね、ジャメル」


 僕が小声で呟くと、遠くで轟音が鳴り響いた。間を置いて、もう一度。大砲が建物に直撃したような音だった。しばらくして、広場に一人の兵が駆け込んできた。


 「バスティーユ牢獄が、民衆に襲撃されています!」


 どよめきが広がった。人々は口々に何かを話し出して、バスティーユ牢獄の方へ駆け抜けていった。僕も行かないと。涙を拭う。


 「ジャメル。聞こえる? 革命が始まったよ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  ユーグとジャメルの仲がどうなっていくのか気になって、最後まで一気読みしました。ラストは、ちょっぴり切なかったです(涙)。 [気になる点]  バスティーユ牢獄に魔法のバリアを張ったのは「宰…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ