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第八章 歴史の一歩

「入るぞ」


 扉を押し開け建物に入った。通路を通りかかると、衛兵が追いかけてきた。ジャメルが獣を放って足止めする。


 その間に、僕は八つの塔へと向かった。一番目立つ塔が怪しいと睨んだのだ。僕の感は当たった。塔のてっぺんには、暗い闇のような穴が床の石材に埋まっている。これを潰していけばバスティーユ牢獄は簡単に襲撃できるというわけだ。


 僕とジャメルは今やいい相棒だった。僕が塔に登っている間、追っ手を蹴散らすのがジャメルのなりわいだった。これで、残りは一つ。案外楽勝だった。残りの一つも潰し終え、後はここから逃げ出すだけ。


 これが歴史の一歩だと思うと信じ難いけれども頬が緩んだ。

 浅はかな考えはすぐに打ち砕かれた。出入り口はたった二つの跳ね橋だ。出口に何十人もの衛兵がいた。


 「止まれ!」


 囲われた。ジャメルはこの状況で不適に笑っている。


 「なぁユーグ」


 ジャメルの声が虚しく聞こえた。こんなこと初めてだった。ジャメルはいつも自信に満ちていた。


 「ジャメル?」


 肩を突然抱かれて、僕はのけ反りそうになった。


 「お前は、俺が殺してやりたいと思った人間の中で、一番最高だった」


 褒めているのだろうか? ジャメルの表現は狂気としかいいようがないが、今ではすっかり理解できる。けれどこの時ばかりは何を僕に伝えたいのか分からなかった。


 「だから、俺以外の人間には殺させない」


 視界に闇が広がった。ジャメルの身体から黒い渦が巻き起こる。「扉」だ。どこかに通じているんだ。これで僕がジャメルの身体に入ってしまえば脱出できる。でもジャメルは?


 「ねぇ、ジャメル! やめて!」


 ジャメルはそれでもやめない。衛兵が火矢を放った。ジャメルは軽く交わしてみせたが、兵は何十人と剣を携えて迫ってくる。いくらジャメルでも勝ち目はない。


 「僕を一人にしないで! いっしょに死なせてよ」


 広がる闇が僕を包んだ。ジャメルは僕に妖艶な笑みを投げ、衛兵に向っていった。

 扉は否応なく僕を吸い込んだ。


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