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第五章 ルイの時代

 シャンゼリゼ通りに着いた。警官たちが、さっきの殺人事件の聞き込みをしている。ここにいて大丈夫なのだろうか?


 ジャメルは堂々と警官たちの前をゆく。すると再びジャメルが大人になった。警官たちは、すぐさまジャメルを取り囲む。


 「貴様、貴族を殺傷した罪で逮捕する」


 ジャメルはとても嬉しそうな顔をしている。手にはあの大きな鎌を持っている。唐突に何もない空間から現われたように見えた。


 「命が惜しければ逃げ出せばいい」


 「何だと!」


 挑発された警官は、顔を真っ赤にして怒った。


「俺はまだ殺し足りない。貴族どもに伝えておけ、お前達の時代は終わったと。そして、ルイに伝えておけ、お前はいつかギロチンにかけられると」


 国王を呼び捨てにしたことと、王の死を予言したことで、警官の怒りはピークに達していた。次々に棍棒を振り上げ、ジャメルに向かっていく。


 ジャメルは大鎌でなぎ払った。哀れな警官たちが散る。一人、また一人、腕、足を斬りおとされ、胸から噴出する鮮血とともに、崩れていく。


「やめてジャメル」


 僕が弱々しく叫んだときには、そこに立っている警官は一人だけになって逃げて行った。警官には、鎌が見えていないのだ。


「みっともない逃げ方だな」


 ジャメルが声を立てて笑っている。腰を抜かしていたのは僕も同じだった。


「何で殺しちゃったの?」


 僕には理解できない。やっぱりジャメルは悪いやつだ。


「革命は行動から始まる。たった一つの波紋が、秩序を乱し、乱れた秩序が、やがて大きな波紋となって国に働きかける。」


「人殺しなんてできないよ」


「お前はいい目をしている。きっと何か俺の役に立てる。まず武器の調達からだ」


「武器なら持ってるんじゃないの?」


「俺のじゃない。民衆に配るためのものだ。反乱は、民が起こすもの。その足がかりを俺が作り、武器のありかを封建制度に反対する人々に教えてやるんだ。すると、必然的に時代は動く」


 ジャメルの話は難しいことばかりだった。とりあえず、僕は武器の準備を手伝えということだろうか?


「武器はどこにあるの?」


 ジャメルは不適に微笑んだ。


「バスティーユ牢獄」


 あそこは有名なこの国の三大刑務所ではないか。そんなところを襲撃しようというのか? 僕にできるわけがない!


「僕、今まで喧嘩で勝ったことすらないんだ」


「襲撃するのはお前じゃない。俺達はそこに張られているバリアを崩す作業をするんだ」


 どういう意味だろう? 僕が聞き返すと、ジャメルは歌うように囁いた。


「さっき言っただろ? 俺達は他者には見えない不思議な力を持っている。そう、俺とお前は仲間なんだ。バスティーユ牢獄に武器を集めたのは王の宰相リシュリュー。あいつも俺達と同じ力を持っている。あいつは三代前の王に仕えていた。死んでもう百四十年になるがバスティーユ、ベルサイユにも一般市民を寄せつけない、見えない壁を作った。そのバリアは百四十年経った今も生きている」


 僕には、力の意味が分からない。リシュリューという人もあまり知らない。


「僕達と、その人が持っている力って何なの?」


 この問いにジャメルはにんまりと微笑むばかりだった。


「不思議な力としか説明しようがないな。魔法と言っても信じないだろう」


「僕は魔法使いなの?」


「そういうことになる。最も、俺の力は悪魔からの授かりものに近いんだがな」


 ジャメルの微笑みは、教会で見る聖母様の眼差しにそっくりだった。僕にも何かできることがあるような気がした。


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