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第四章 見える者

 ジャメルは狭いアパートに住んでいた。住んでいると本人は説明したが、それにしては家具もベッドと机ぐらいしかなく、埃もあちこちに溜まっていて本当か疑わしい。


 部屋に入るなりジャメルは僕に命令した。


 「さあユーグ、俺のために何かしてみろ」


 机に座って見下ろすジャメル。僕に何をさせたいのだろう? とりあえず僕は洗濯ものはあるのかと尋ねた。


 「革命にそんなことをやっている余裕はない」


 そんなことを説いてもらっても、僕は学がないから革命が、そもそもどういうものか分からない。


 「何をすればいいの?」


 するとジャメルはこう答えた。


 「ルイ国王の首を取れ。そして俺に差し出せ」


 無茶苦茶な注文に、僕は再び逃げ出したくなった。王様に逆らった人は、死刑にされる。平民の僕達は絞首刑、貴族が犯罪を犯した場合はギロチンだ。


 「無理だよそんなの。僕、できないよ」


 神に逆らうようなものだ。第一、力も何も持っていない僕には殺人自体が不可能だ。


 「いや、お前はやれるさ。自分で気づいていないが、お前は不思議な力を持っている」


 ジャメルの瞳が濃い闇を映した。頬を寄せて、僕の顎を掴む。


 「パンの味はどうだった? 俺だけができる味つけを、お前は理解した。周りの人間はみんなパンが赤く変色したことには気づかない。俺の鎌が見えただろう? 普通の人間には、見えないものだ。ただのかまいたちにしか見えなかっただろう。それに、俺が子供の姿をしていることも、誰も気づかない。お前以外の人間は、俺が大人の姿をしていると思い込んでいる。そう、それが全て偽りであり、幻想であり、真実であるとも気づかずに」


 迷いの森に迷い込んだ気分だ。ジャメルの話す内容は、文字を習っていない僕にも、文学的で神秘的に感じられた。


 「僕にだけ見えるの?」


  「不思議な力を持った者が現われるときがある。それを人は悪魔と呼び、あるいは魔女と呼ぶ」


  緊張で吐き気がしてきた。言われてみれば、ジャメルが悪魔じみていないとは否定できない。


 「ジャメルは人間じゃないの?」


 震える唇を、そっとジャメルが指で押さえた。


 「好きに呼べばいい。でも、これだけは事実だ。いつでも、お前を殺すことができる」


 ジャメルの指が離れるのを待って、僕はぐったりと座り込んだ。まずい人物に救われたものだ。いくら食べ物にありつけても、これでは落ち着いて食事はできないだろう。


 「さあ、仕事を始めるか。お前も着いて来い。念じ方を教えてやるよ」


 「何それ」


 僕の声は不安で枯れていた。


 「力は念じて唱えるものだ」


 ジャメルが外に飛び出る。僕はついていかなければ酷い目に合わされかねないと思って、慌てて駆け出した。


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