第三章 食い逃げ
ジャメルに連れられて僕は初めて純粋に美味しく、腹の満たされる食べ物にありつけた。パンもここ数日、値上がりが続いており、貴重になっていた。でも、油断はならない。ジャメルは人殺しだ。
それに、さっきまで大人の姿をしていた。いつ大人になって力任せに殺されるか分からないのだ。それに、手には相変わらず鎌を持っている。人々には見えないのだろうか? パン屋に寄ったときも、手に持っていた。質問してみたいが、自分から話しかける勇気がない。
妙な口答えをしたら、一秒足らずで殺されてしまうかもしれない。ジャメルと視線を合わせないようにしながら、パンを食べることだけに専念していると、不思議なことが起こった。パンの味が変なのだ。
いつも腐ったパンを食べているので、美味しいパンの方が不自然なのだが、どうも味が血のようなのだ。それに、パンも赤くなっている。僕は、恐る恐る舌を突き出して、指で触って確認した。僕は血を食べている!
「気に入ったか?」
ジャメルが白い歯を見せながら怪しく笑っている。全部吐き出した。どうなっているのか訳が分からない。ジャメルの仕業なのか? 全身が痙攣するぐらい震えた。早く逃げてしまおう。
「逃げだす気か? 約束だぜ。守らないっていうんなら、お前の心臓、こっちによこしてもらおうか?」
背中から汗が噴出した。にじり寄る殺気に硬直して動けない。ジャメルは相変わらず不適に微笑んでいるだけなのに。
「ご、ごめんなさい」
素直に謝ることにしたけれど、ろれつが回っていなかった。恩を返さなければならないという義務を感じたが、それ以上にジャメルの側にいるだけで漂う殺気と、恐怖で自分から働きますとは言えなかった。
気をよくしたジャメルは、僕には何も告げずに歩き出した。ついて来いということだろう。ついていかなければどうなるか、想像しただけで寒気がする。