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第二章 優しさ

 僕が重い足取りで向きを変えたとき、短い断末魔が複数聞こえた。膝をつく兵たちが目に映った。そして、殺人鬼が、僕の前へと立ちはだかっていた。


 広場にいた大衆はとっくに逃げてしまった。残されたのは僕だけだ。男の巨大な鎌が伸びてくる。僕の細い首など、簡単に斬り落とすことができるだろう。


 「や、めて」


 後ずさるにも、足が怖気づいている。見下ろす男。無表情で、何を考えているのか分からない。


 「飯食ってないだろ?」


 僕の目線に合わせてしゃがみ込んだ男は、頬に優しく手をかけた。背筋がすくむ。男の手は氷だ。


 「泣いているのか?」


 視界がくぐもる。どうかすると、声を上げて泣き出しそうになる。

 男は僕の首に近づけていた鎌を、おもむろに遠ざけた。見上げると、男が静かに声を立てて笑っている。


 「お前も望むか?」


 「望むって?」


 男は天使のように微笑んだ。


 「革命だ」


 フードを下ろした男は、何とみるみる内に身長が縮んで、少年の姿になった。今のは何だ? まるで魔法だ。


 しかし、少年になってからの男は、とても健康そうで、なおかつ体格もよかった。その瞳の奥に光る輝きが増している。残虐性を秘めた笑みで僕を甘く誘う。


 「来るか?」


 有無を言わさず、少年が、僕の骨ばった腕を掴んだ。とても少年とは思えない膂力。二人で通りを抜け、人目を避けながら、ひとまず裏路地で止まった。少年が何をするのかと、怖れていると、返り血のついたローブを眺め小言を呟いた。


 「これじゃあ目立つな」


 ローブを脱ぎ捨てた少年は、とても哀れな身なりをしていた。着ているものといったら、僕とさほど変わらない穴だらけの古着だ。少年が僕のぼさぼさの頭に手を乗せた。


 「名前は何て言うんだ?」


 僕は小声で重い口を開けた。


 「ユーグ」


 気弱な僕の耳元で、猟奇的だが優しい声が響いた。


 「俺はジャメル。俺のために働け。そうすれば旨いものを食わせてやる」


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