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第一章 死神

 ルイ15世広場の片隅で、僕はいつものように誰かが食べ物を恵んでくれるのを待っていた。裸足で、髪はぼさぼさのまま、行き交う人々を眺めていると、そのうち誰かがパンや小銭をくれる。


 でも、今日は馬車に引かせて優雅におしゃべりをしている貴婦人が僕を汚いものと蔑んで、ねめつけてくる。


 年に一度の騎馬祭りなので、誰も僕なんかには目もくれないのだろう。


 広場は段々混雑してきた。広場に歓声が起こる。シャンゼリゼ通りの方から馬の鳴き声が遠くから近づいてくる。ラッパの音が鳴り響き、板金鎧プレートアーマーをまとった騎士たちが広場を駆け巡った。剣を空に突き上げ、片手でこなす馬さばきに、人々が拍手を送った。


 最初の騎手に続いて、第二、第三と、騎馬が駆け抜けていく。パレードだ。


 僕には、ちっとも愉快に思えない騒ぎだった。空腹では娯楽も何も意味を成さない。勇ましい騎士たちをよく見ようとする人々に追いやられ、広場の隅で早く誰かが僕に気づいてくれることを願った。


 ファンファーレが鳴り、騎士たちが広場に集合した。馬を止め、剣をかざしているのは一番派手やかな格好をしたグラ・ノベール侯爵だ。彼は演説をはじめた。戦争でめでたく敵を討ち取った英雄談だ。僕はうんざりしていた。


 演説中、一つの乾いた金属音で騎士の声はかき消された。騎士は落馬した。観衆の悲鳴の中、僕は息をひそめて見守った。


 騎士をなぎ倒した男の手には巨大な鎌が握られている。茶色のフードで顔は見えず、長いローブに身を包んでいる。あれは、神か、悪魔か、はたまた死神か?


 「道を開けたまえ!」


 騒ぎに駆けつけた衛兵に、人々は道を開けた。転落した騎士は、鎧ごと斬り倒され、血だまりを作っていた。馬が興奮して逃げ出す。もう、祭りどころではない。


 フードの男が背筋を張って、立ち上がった。兵たちに向き直ると、男は口の端を吊り上げた。白髪で、痩せこけた頬は不健康そうに見えるが、いたって瞳は若々しく、この国でも珍しい緑の瞳をしていた。


 「何者だ! 第一身分の貴族に貴様は手を出したんだぞ。分かっているのか?」


 貴族と聞こえると、僕は胸が締めつけられる思いがした。こんな事態になっても、あいかわらず僕は片隅で、ひもじい思いをしながら眺めているだけだ。そうだ、逃げてしまおう。誰からもどうせ相手にされないのだ。どうして今まで立ち尽くしていたのか分からなかった。


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