表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/22

第二話 二人だけのデート

いつからかお互いを幼なじみではなく、

男と女として意識しだした

堀池香津美と渋谷真理奈。



二人は今、

銀座のレストランで食事をしている。

お互いに向かい合って座りとても仲が良さそうだ。

堀池香津美は

“アフリカ”が定休日の日には、

渋谷真理奈の料理の勉強になればと

レストランに連れてゆく。




彼女は一流レストランから下町の味まで

上手いと評判の店には

香津美と一緒に行って食べ歩いた。



真理奈は食べた料理を忘れないように

書き留めている。

写真や絵入でノートに

こと細かく料理のポイントや要点を書いている。



もちろん料理の隠し味や調味料の配分などは、

香津美がその舌で味わって書き足したものだ。

真理奈の書いた料理のノートは

すでに何十冊にもなる。


いつか自分がシェフになった時に

オリジナルの料理を作る時に役立つように。



香津美と真理奈。きっと他人から見れば、

普通の高校生のカップルに見えるだろう。

料理を研究するというより、

二人で食事をして会話を楽しんでいる。

二人にとって、

この食事会はデートだったのかもしれない。



自分が一番好きな彼女のために、

上手い店を見つける。


そしてその場所に彼女を連れて行き

料理を楽しんでもらう。


そうする事の喜び。

それは今の若者たちのデートの仕方と何ら代わらない。

というよりはたからみれば

羨ましがられるかもしれない。



そんな時、

香津美はテーブルに並ぶ料理を

楽しみながら真理奈に言った。


「真理奈。俺さ将来、

俺だけの力でレストランのオーナーになるんだ。」

真理奈はじっくり煮込んだ

牛肉をフォークで刺して口に運ぶ。



その小さな口で良く噛み

胃に流し込んで食べながら言った。


「香津美クンにもそんな夢があるんだ。」


「でも大丈夫?香津美クン

飽きっぽいからレストラン潰れちゃうんじゃない。」


「うるさい!!もう場所も決めてあるんだ。」


「えっ何処?」

真理奈は驚いて食べるのを止める。



「真理奈も知ってるだろ、あの海辺の場所さ。」

香津美は思い出しながら喋る。


その場所とは香津美と真理奈が

まだ小学校にも行ってなかった幼なかった頃の話。



香津美の父親が

香津美と真理奈をよく連れて行った

思い出の場所だ・・・。



香津美も真理奈も

その場所がとても大好きだった。



「いいわね。あそこは海辺の景色もいいし、

あんな場所で食事できたら最高。」


「だろう。」

香津美は自慢げに言った。



「きっといつか

俺はあの場所に自分の店を建てるんだ。」

香津美は夢見るような表情で話す。



「真理奈、おまえのやりたい夢は?」

次々に運ばれる

ディナーコースを味わいながら真理奈は言う。


「まだわかんない。」

香津美はすでに食べるのを止めていた。



香津美は真理奈が食べている小皿を取り上げて言った。


「わからないことないだろう。」

ちょっと、返してよ香津美クン。」

真理奈は奪われた皿を取り戻そうと必死だ。



香津美は真理奈に皿を返した。

「ありがとう。」

そう言って真理奈は

料理をおいしそうに食べる。


「まったく子供なんだからな。」

小さい子供のようにおいしそうに食べる

真理奈を見ていると香津美は顔が笑顔になる。



「だけど、後2年で高校も卒業になる。

自分の進む道ぐらい決めとかなきゃいけないぞ。」


「うん。わかってる、

だけど今はおいしい料理の方が夢中。」

コースを食べ終わり、真理奈は言った。



「そうだ、わたしあるよ夢が!! 」


「シェフになる夢。」

真理奈はテーブルから立って言った。



「いいじゃないか。

お嫁さんになるなんて言ったら平凡すぎて面白くない。」

食後のコーヒーを飲みながら香津美は言う。



「真理奈は料理上手いし、シェフに合ってるよ。」

真理奈は再び席に座った。



「香津美クンわかってないよ。

女の子はやっぱりお嫁さんになるのに憧れる。」



「ふーん。そういうもんかね。」



「そういうもんだよ。」

真理奈は少し怒っているようにも見えた。



「何怒ってるんだよ。」


「シェフの道の方が絶対いいって、

お嫁さんになんかいつだってなれるよ。」

真理奈は香津美の目を見て言った。



「もしも、わたしがシェフになれなかったら、

香津美クンわたしのこと面倒みてね。」

香津美は急にそう言われて

飲んでいたコーヒーを吹き出した。



「もう、汚い。

まったく子供みたいなんだから。」

そう言って真理奈は

テーブルに置いてある紙ナプキンでテーブルの上を拭いた。



「真理奈が変な事言うからだよ!」

香津美もナプキンで自分のズボンを拭いた。



「どうせ最後は俺が面倒みることになるんだから。」

香津美はそう言った。



「えっ何?」

真理奈は聞こえなかったのかもう一度訊いた。



「何でもないよ。

お嫁さんでもなんでも面倒みるよ。

心配するな。」

二人はしばらく沈黙した。



「本気にするよ。」

真理奈は言った。

香津美はその問いに笑顔で答える。



「いいよ。」

「手がコーヒーでベトベトだ。

トイレで洗ってくる。」

そう言って香津美は席を立った。



一人残された真理奈はうれしそうに笑った。

香津美はトイレに向かって

歩いている途中で、

大きな鏡の前を通った。

鏡の中で嬉しそうに微笑んでいる真理奈の姿が見えた。

(真理奈も俺のことが好きなのかな。)



そう思うと香津美は嬉しくなる。



思わず香津美はトイレの中でガッツポーズをした。

席に戻ると香津美は言った。



「そうそう、言い忘れたけど、

とりあえずは俺の店でずっと働くってことだぞ。」



「何よそれ、意地悪!!」

そう言うと二人で顔を見合わせて笑った。



香津美はその時の真理奈が本当に綺麗に見えた。

(やっぱり、いつか少女は女に変わるんだな。)



香津美は心の中でそう思った。


それは真理奈が香津美の父の店

“アフリカ”では見せない顔だった。


(シェフになって喜ぶ真理奈の姿が早く見たい。)

そう思う香津美だった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ