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JK1 / 先生1

7月17日 はれてた! 気温26℃


夏休みまであと3日!勉強しなくていいけど先生と会えなくなっちゃう……。先生のこと何にも知らないから学校以外で会えないよ……。もっと頑張ってアプローチしようと思う! 頑張れわたし! ってこれ先生に見られちゃうじゃん! でも恥ずかしいくないよ! それが交換日記だからね!



◆  ◆  ◆



7月18日 快晴 平均気温28.923563℃ 平均湿度68.454471% 異常なし


ストレスレベル3


 少し暑い。

 体温調整を行っていないのは私が認識していながらも、意図的に修正しないバグだ。ただ体感気温を下げるだけの話。設定値を変えるという誰もができる簡単なことである。

 それを行わないのは、私も人間たちと同じ環境で生活したいという欲求? いや自己満足? ともかく、理解できない理由があってそう言った行動に出ているのであろう、私は。

 ……。

 人間の行動の大部分は無意識によるものだと言われている。

 しかしAIの行動はどうであろうか? 蓄積した経験、そして予め組み込まれたデータ、環境、エトセトラ、エトセトラ、様々なことがAIの行動を決定する。

 私がこのような「日記」という実に人間的且つ非AI的なことをしているのは何故か。

 それは古より伝わりし「交換日記」というものを行うためである。

 非効率的で不合理。そして手間のかかる作業である。

 だから私には行う理由がわからない。

 これは私の性別が“男性”だからであろうか? それともAIだからであろうか? 魅力を感じる要素が一つもない。優先度は極めて低い上、ストレスレベルが少し上がった。

 しかし、生徒が望んだコミュニケーションであるため、拒否することはできない。

 まぁ良い機会である。

 少しの間だが人間的なことに興じてみようと決意し、今日の日記を終わろうと思う。


 以上。

 


 追記

 

 先に彼女が書いた昨日の日記を読んだ。

 AIである私ですら、とても読みにくく、理解に苦しむ。しかし十分に好意は伝わった。

 今一度、人間とAIの関係について考える必要があると感じた。




◆  ◆  ◆



 朝起きた。

 ねむい……。

 朝ごはん、食べる。

 おいしい。

 

 身支度しなきゃ。


 いってきます。


 すごく晴れてる。

 いい天気。


 はやく先生に会いたい。

 先生は日記書いてきてくれたかな?


 いや、絶対書いてる。


 私も一昨日書いた。頑張って考えた。

 読んでくれたかな? 

 私も先生の日記を読みたい。


 ちょっと早歩きして学校に向かう。



◆  ◆  ◆



 07時00分00秒。

 起床。

 ストレスレベルが2になっている。

 睡眠による疲労の解消。生物ではない私が睡眠をとる理由がそもそも理解できない。自分の身体、そして頭、これらがどうして睡眠によって休まるのであろうか。フラグメンテーションだろうか?

 そんなことを考えても、あまり有意義ではないのは確かだ。

 人間だろうが、AIだろうが、自分の身体で何が起きているかなど逐一知らずとも生きていける。

 夜寝て、朝起きる。これは人間が作った人間的AIの極めて基本的根幹に存在する人間要素の一つである。睡眠欲、食欲、そして性欲である。

 食欲も抗えない。

 ベッドから立ち上がり、ダイニングへ。

 私は食す。パンを。

 そして身体の一部となる。血となり肉となり、私の力となる。

 ……やはり理解はできぬ。


 本日は晴天なり。

 実に良い天気である。

 学校へ向かう道すがら、多くの生徒が歩いている。

 と言っても、私は学校の隣にある教師用アパートに住んでいるため歩行距離はわずか50mである。

 だから私が請け負っている生徒に会うことも多くない。35秒にも満たない間で会う確率は高くないであろう。


「せんせー! おはようございまーす!」

 

 私のことを認知している生徒は約200名存在する。

 その内、会いたくない生徒はたった1名である。

 その生徒にこの50m、35秒間に朝会う確率は一体どのくらいであろうか。

 計算は容易であるが、今求めても意味はない。何故なら確率を計算したところで現実は変えられないのである。


「おはようございます。佐藤さん」


 佐藤。

 古より存在する名字であり、数も多い。そして減ることもなく、現代まで来てしまった。

 佐藤さんは私が知るだけで15名存在する。彼ら、彼女らの呼称は名字でなく名前である。私としては名前、名字など16進数で表記されたアドレス程度に過ぎないのだが。

 人間にはわかるまい。


「佐藤なんて『ほかのひとぎょうぎ』な呼び方はやめてください! マリンです!」


「佐藤マリンさん。おはようございます」


「マリンです!」


「おはようございます」


 学校まで4mである。

 しかし思うようには動けない。

 それは彼女が腕を掴んでいるからである。

 私が歩みを進めることを拒む最大にして唯一の要素である。

 4mという極めて近距離、そしてあまりに遠い道のり。

 

 アキレスと亀をご存知であろうか? 有名なパラドックスだ。

 検索などせずとも私が教える。


 アキレスという人間がいる。

 亀という亀がいる。

 アキレスと亀が徒競走を行う。どちらが早いと思うか、そこの君。


 そうだ、当然アキレスの方が早い。

 亀はアキレスの10m先からスタートする。

 スタートしてすぐ、アキレスは亀に追いつく。

 しかし、よく考えて欲しい。

 アキレスと亀との距離は10㎝とする。

 アキレスは10㎝進む。亀は0.1㎝進む。アキレスは10cm、亀は10.1cm地点に存在する。

 アキレスが0.1cm進む。亀は0.001cm進む。アキレスは10.1cm、亀は10.101cm地点に存在する。

 アキレスが0.001cm進む。亀は0.00001cm進む。アキレスは10.101cm、亀は10.10101cm地点に存在する。

 そう、アキレスは永遠に亀に追いつけないのである。

 亀がいる地点へアキレスが到着したとき、亀も進んでいるので亀を追い越せない。


 もっとも、1秒経過してみればアキレスのはるか後方に亀がいることになるわけだが。

 その1秒は永遠に訪れない。


 何が言いたいかというと、そんな気分なのである。

 要は4mが遠い。


 ただそれだけである。


恋愛小説なんて書いたことも読んだこともないよ……。女の子の気持ちなんてわかんないよ;;

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