幸せなくちづけ。
それは紅くて柔らかそうだったのだ。
「というわけで、ちゅう、させてくださいな」
「ああ、どうぞ」
唐突な願いはあっさりと許可された。近づいて背を伸ばす。しかし後一歩、頭ひとつ分というところで脇腹に痛みを感じた。
「んまぁああ!! あなた方は何をなさっていらっしゃるの!!」
どうやら力いっぱい遠慮なく拳をお見舞いされたらしい。
「えーと、ちゅうでしょうか?」
「だな?」
「違います、違いますわ……! わたくしはそんなことが申し上げたいのではないのです。あなた方がやろうとしてることなんて一切知りたくもないですけど、一目瞭然ですわっ!!」
「ではなぜ、ご質問するのです?」
「なぜって……決まっていますわ!!」
拳をお見舞いしてくれた彼女はそこで一呼吸を入れ、めいいっぱい叫んだ。
「どーーーえてみましてもっっ! 今!!!! この場所で!!! 行うことではありませんでしょう!?」
一面に広がる草原に落ちるゴブリンのできたてホヤホヤの死体。
仲間たちの奇行に怒る娘に輝くクロス。
「神に使えるものとして、断じて、断じてっ! 不純異性交遊など許しませんっっ」
「落ち着いてください、シスター」
「そうだ」
「「不純異性交遊じゃなくて不純同性交遊ですから」」
口をパクパクさせながら清らかな聖職者はお倒れになるのであった。
2013/02 お題:素人のキス