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1. お姉様との出会い

 王国貴族の子弟が多く通う王立学園にて、卒業パーティーが行われていた。

 会場にはドレス姿の令嬢や、礼服に身をつつんだ令息たちが楽しげに会話を弾ませていた。

 贅をつくした料理の数々や、王都でも有名な楽団による演奏が流れ、それだけこの式典に力がいれられているということが見て取れるものだった。


 そんな中で一人の声を会場に響いた。それは普段から人前でしゃべることになれた会場中に通るもので、みなが一斉に注目していた。

 会場から集まった視線の先には、王家のみが着用を許された紫紺のネッカチーフを見につけた貴公子が立っていた。

 ウェーブのかかった金色の髪をなでつけ、サファイアのように澄んだ青い瞳をもつその姿は、学園内でも有名な一人ヘンリー・アークライト、王太子であった。


「栄えある卒業式典において、突然の無礼を許してもらいたい。しかし、この場を借りて言わねばならないことがある」


 王太子の視線の先には、公爵令嬢パトリシア・グランシエルがいた。純白のドレスに背中まで流した濡れ羽色の黒髪が良く映えていた。しかし、王太子の鋭い視線をうけて、彼女のアイスブルーの瞳は不安げに揺れていた。


「殿下、いったいどうなさったのでしょうか?」


「パトリシア、そなたには分かっているはずだ。私のいいたいことが」


 王太子の傍らには、怯えたようにうつむく令嬢サクラ・イロイダがいた。淡い桃色の髪と白く透き通るような肌の彼女は、その表情もあいまって儚げな印象を与えていた。


「東方の国より留学してきたサクラ嬢が、何度もいやがらせを受けていたことを聞いていた。忠告を繰り返したにもかかわらず、そなたはやめようとしなかった」


「そんな、私はイロイダ様に対してそのようなことなど……」


「いいのです、殿下。異邦人であるわたしがきっとなにか不快にするようなことをしてしまったのでしょう」


 サクラはふるふるとその長いまつげを震わせながら、王太子にすがりつきながら上目遣いに見つめていた。


「サクラ、いっただろう。私がキミを守ると。臆することはない、正直にありのままに話せばよい」


 王太子に促されるが、サクラはその桃色に色づいた唇を開き、静かな声で語り始めた。

 そして、一連の騒ぎを遠巻きに見守る生徒たちの中に一人、苦しそうにサクラを見つめるものがいた。


 学生寮でサクラの同室である子爵家令嬢アンジェリカ・パルガルであった。

 そして、彼女は群集の中から一歩踏み出し、口を開く。


 言葉を吐き出す彼女の眉根は苦しげに歪められ、痛みを耐えるように胸を抑えていた。

 

 

 *

 

 

 わたしはアンジェリカ・パルガル。子爵家の次女として生をうけ、両親にめぐまれ不自由のない生活を送ってきた。

 とりたてて得意なこともなかったが、ただ一点、一つの物事への集中力がすごいと両親に褒められた。

 気になったものがあると、他のことを忘れ熱中する性質のようで、あるときはアリの行進を炎天下の中ずっとみてて熱さで倒れたことがあった。


 10の歳をすぎたころお兄様が王都にあるという学園を卒業して帰ってきた。

 王都から遠く離れた田舎にあるパルガル領で生活するわたしにとって、都会での生活はあこがれそのものだった。

 ひまを見てはお兄様に王都での話しをせがんだ。だが、ここでもわたしの悪癖がいかんなく発揮され、最初は得意げに語っていたお兄様も、しつこく聞いてくるわたしに辟易した様子だった。


 わたしの中で妄想はふくらみ、王都での生活を夢見るようになった。

 

 そして14の歳にとうとう王都の王立学園への入学を果たすことができた。

 夢にまで見た王都での学園生活であったが、パルガル家はそこまで裕福ではなく王都に別宅はなかったため、学園が用意した学生寮で生活することになった。


 学生寮は基本的に相部屋となっているそうで、一体どんな人が同室になるのか楽しみだった。

 部屋の扉を開けて、初めて彼女に会ったときの衝撃は忘れることはできないだろう。

 春のうららかな日差しが窓から差し込み、彼女の薄桃色の髪がきらめき、すけるような白い肌とあいまって春の妖精かと思ってしまった。


「あなたが同室の方ですか? わたくしはサクラ・イロイダです。東の国から参りまして、こちらのことには疎くご迷惑をかけてしまうかもしれませんが、どうか仲良くしてくださいね」


 言葉は柔らかく、えもいわれぬ親しみがこめられ声を聞いて、ようやく動きだすことができた。

 話を聞くと彼女はわたしより1歳上らしく、自然とお姉様と呼ぶようになった。


 学園生活において、あまり交流のない東の国からの留学生ということでサクラお姉様は、他の生徒たちから注目されていた。

 東の国では女性にとって奥ゆかしさを美徳とされているらしく、サクラお姉様は恥ずかしげにしていた。

 そんなかわいらしいお姿を見て、わたしが守ってあげないといけないという使命感を持つようになっていった。 


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