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召喚士は魔法使いでない  作者: ただの点
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2 ウクレレ草は食用でない

 青空に浮かぶ雲が、昼の訪れを知らせるために、大小あれど、一斉に輪の形に変わっていく。

 ウクレレ草の奏でる陽気な演奏が、吹き抜ける風と共に広がり音色を豊かにする。

 

 そんな様子を他所に、古ぼけてこじんまりとした家の庭先で、ハンドスコップのようなものを持ち、汗水を垂らしながら懸命に手を動かす、一人の少年グライスが居た。


「あぁくそ...次から次へと...」


 ぶつぶつとそんなことを呟きながら、絶賛『蟻ミミズ』の巣を撤去中である。

 蟻ミミズとは、通常のミミズと違う。

 畑や花壇に植えている野菜や花を食い尽くし、挙句の果てには、巨大化し、住み着いた人間の住居まで食べるときた。農家にとって、最大の天敵にして宿敵である。

 

 巣自体、発見は困難でなく、早期に見つけることが出来れば、それほど苦労はしないのだが──繁殖力が中々のもので、発見が遅れ一週間ほど放置してしまうと...。


「あぁもう!なんだよ!」

「ザクザク掘ってるからゾクゾク出るってか!?やかましいわ!」


 ご覧のとおりである。


 尚も湧いて出る、蟻ミミズうんざりした顔を見せながらも。

 同じく庭先に生えている、ウクレレ草の陽気な音色に、ようやく気がつく。


ーーー


「はぁ~~...ウクレレ先輩の音楽は、荒んだ俺の心を癒やすオアシスだな」

 ハンドスコップを明後日の方向に投げ出し、ぽーんと地べたに大の字で寝転がる。

 真横から湧いて出る蟻ミミズ共が、俺の体を這う。知るか、どーうにでもしてくれ...。



 しかし、何だろうか。

 この音色を聞いていると。

 先程まであんなにも憎らしかった蟻ミミズが、なんとも愛らしく思えてきた。

 今なら分かり合える気がする...一匹と目が合った(ような気がした)

 やはり、争いは何も産まないのだ。共存こそ、我々が進むべき道。


 っは!?まさかウクレレ先輩はこれを伝えたかったのか!

 ...っく、なんて聡明なお方なんだ!


「先輩ぱねぇっす」

 その言葉に返すように、ウクレレ草はポポロンっと音を奏でる。


 ウクレレ草とは、ここ『ハシット平原』に生息する固有の遊戯草の一種である。

 群生で生息していることが多く、草ごとにそれぞれ音色が違っている。

 大きさは、平均して7~8cm。

 名の通りウクレレのようなものを持って特殊な形状の葉で弾く。

 その珍しさと、独特の演奏に惹かれ、一部、人間の間で高値で取引されているとか。

 しかし、珍しいことに、このウクレレ草は一本だけで自生している。

 群生で生息している彼らは、群れの一匹でも失うととたんにその音が著しく劣化してしまうのだ。


 そんなことを知らない少年は以前、このウクレレ草を引き抜こうとした経験がある。

スコップ、枝切り鋏、除草剤といろいろ試したが結果は惨敗。以後この草に敬意を払うと決め「ウクレレ先輩」と呼んでいる。


ーーー


 あぁ、良い青空だ...このまま何もかも忘れて...忘れて?

よく見ると、輪になっていた雲が昼の終わりを告げる立方体の雲に変わろうとしていた。

「やばっ、午後からハシットに行くんだった。」

 即座に起き上がると、放り投げていたスコップを広い、依然として体を這う蟻ミミズ共を払い落とす。


「さて...分かり合えると言ったな諸君」



「あれは嘘だ」



 その後30分でカタを付けた──。







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