召喚士は魔法使いでないⅦ
「ほら、もう着いたぞ」
「うん、ありがとね」
教会に着くと、俺はユシャを降ろして立ち上がる。
どうも最近は、濃い日々を送ってるような気がするぜ。
「ねぇ、グラ君」
「なんだ、ユシャ?」
「次は、いつ来られるの?」
「またそれか、んーと....多分だけど、能力祭が始まるまでは、来る予定はないと思うよ」
「....そっかぁ」
「一ヶ月しか無いからな、今詰めて鍛えねぇと...じゃあ、俺もそろそろ帰るぜ、今日はありがとな」
「うん、気をつけてね」
俺はそのまま街を出た。草原は、強い風が吹いていて、辺り一面ざわざわと揺れていた。どこか高揚していた気分は、風に吹かれる度に、冷えて冷静になっていく。
本当に、勝つことなど出来るのだろうか、見せつけられた差は、途方もない物に思えてならない。
もし、このまま召喚術を習得できたとして、もし、魔力を使えるようになったとして、この不安は、見えなくなってくれるのだろうか。震えてしまう足は、武者震いに変わるのだろうか。
先が見えない、先に見えない。
先は見たくない、先を見たくない。
でも、後悔はしたくない。後悔なんてまっぴらだ。
俺の中で、そんな気持ちが変に混ざって絡まって、足を引っ張り、立ち止まってしまう。きっと、風に掻き回されたからに違いない。
「......クソ」
俺は走ることにした、この風を突き破るために。
歩いているから、ダメなんだ。だから不安に捕まってしまう。
街道を駆け抜ける、風はまだ俺に纏わり付いている。
足が前より遅くなった気がする。それもそうか、敏捷の能力値はたかだか、四十しかないんだ。コレじゃ振りほどけ無い。
そう考えると、足が重くなっていく、体中が重くなっていく。もう、諦めてしまえばいいのに。
『──敏捷より、能力値が一つ上昇しました。』
頭に直接、抑揚のない無色の声が響いた。
思わず驚いて、転げそうになった。
「走れば良いんだろ! 走れば....!」
誰に向けて怒鳴ったかなんてのは、分からなかったけど、あの重さは嘘のように消えていた。
家に続く小道の前まで走り続け、草むらに大の字になって転がった。息は完全に上がりきっている、息をする度に、喉の奥がきーんとして痛い。
しばらくして立ち上がった。
風はいつの間にか、追ってこなくなっていた。
「.........」
革袋を担ぎ直して、俺は、小道を上っていく。
ーーーーーーーーーーーーー
戻ってきた、家に。ウクレレ先輩に軽く挨拶をして、ドアを開ける。
「ただいま。」
カアさんは、羽ペンを持って、分厚い本に何かを書いていた。俺に気づくと、ペンを置いてこちらを向く。
「おかえり、お腹すいてる?」
「うん、空いてるけど、一先ず買ったものを収めてくる」
食料棚に、あらかた放り込んで、取っ手を『時封』の紐で縛る。こうしておけば、生物でも腐ることはない。
料理は、カアさんが、余り物で作ってくれたものを食べた。さて、何から話そうか...。
「ほっぺた...ちょっと、腫れてる。ケンカでもした?」
向かいに座っていたカアさんが、俺の目を見て、少し心配そうに言った。抜けてるくせに、こういうところは結構敏感だったりする。
「まぁ、似なようなもんかな...ホウジョウって居るじゃん? 転生者の。アイツに思いっきり殴られた。それで、今度の能力祭の時に、アイツと戦うことになった...ケンカ自体は、俺からふっかけたけどね。」
「それで...どうしようと思う?」
「どうって...そりゃあ、やるって言ったからやるけどさ...」
「けど、何?」
カアさんはタバコを咥えると火を付けて、一口だけ吸った。
「能力祭まで、一ヶ月しか無いんだ...だから、俺を鍛えて欲しい」
言った。心臓の脈打つ音が嫌にハッキリ聞こえてくる。
カアさんは、しばらく目をつむって考えた後に、ゆっくりと頷いてくれた。
「ただし、条件が二つ...一つは、花の課題を自力で達成すること。それで、もう一つは...途中で投げ出さない事さね....ちゃんと守れる?」
俺はもちろん頷いた。
「よっしゃ! んじゃあ、今日は疲れたし、もう寝る。お休み~」
「お休み...」
階段を一段とばしで駆け上がり、自分の部屋に入ると、床に転がっている、純白の花があった。
俺はソレを拾い上げて、適当な空き瓶に飾った。
さて、明日から、また頑張ろうか。
服を脱いでそのまま倒れ込むと、瞼が閉じると共に、眠りへと落ちた。
ーーーーーーーーー
純白の純情を染めろ!一日目。
”好きだ!ジュンコさんッ!”
”そんな...だめよ、私には樹齢百年の夫と249本の双葉ちゃんたちが...(裏声)”
”それでも好きだ!君を、墨の色に染めたいッッ!!”
”そんなこと言われたら私...受粉しちゃうッッ!!(裏声)”
────さて、真面目にやるか。
とは言っても...さっき起きてから十回ぐらい試したんだけど、全部失敗してるんだよな、ははは。
....しょうがない、一先ず朝飯でも食べて続きをするか。
俺は、手に持ったジュンコさん(花)を空き瓶に戻して、一階へと降りた。
昨日買った肉と、香辛料を使って肉とタマリのスープを作った、カアさんはまだ寝てたから、鍋に『時封』を巻いておく。
部屋に戻ると、花を手にとって、『支配』の特訓を再開した。
やってる内に、気が付いた事がある。一つは、魔力の通り道になってる、右腕があんまり麻痺しなくなってきた。もう一つは、左手からも、魔力を出せることに気づいた事だ。
え? 前者はともかく、後者は当然じゃないかって? うるせぇ! やって初めて分かることもあるんだよ!
っと、集中集中....目を閉じると、もう自然に『灰』が浮かび上がってくる。するとやはり、コレを切り離したい衝動にかられる。今までは、この感覚に従って、灰を切り離していたが、今回は我慢してみようと思う、色々試してみないとな。
変化が起きた。
暗闇の中に浮かぶ『灰』が徐々に大きくなっていく、けっして早くはなく、心身にじわりじわりと広がっていく。感覚の方も変化して、”切り離したい”という感覚から”早くこいつを投げ捨てろ!”という....あぁ、くそ、なんだ、イライラする.....っぐ...ええい!!
我慢の限界だった。
押さえ込んでいたものを、開放してやると、今までとは段違いの勢いで、右腕に魔力が流れていき、花の8割程が、デタラメな鍵に『支配』される。
「よっしゃ!」
喜んだのも束の間、やはり全て染め切らないとダメなのか、色が徐々に抜けていく。
しかし、コツは掴んだ、後は、試行回数で何とかなりそうだな。
ん? そういえば、魔力を多く通した割には、あんまり右腕に麻痺が残る感じはないな...魔力の流れる早さとかで、麻痺の度合いが変わるのか? そこは色々試していこうと思う。
「さて...次は」
さっきは、慣れない感覚故に戸惑ったが、次はそうは行かない、限界ギリギリまで我慢してやるぜ。
再び目を閉じる、感覚が切り替わるまで待つ。『灰』は大きくなっていき、感覚も切り替わる。
この怒りに似た感覚は、『灰』が広がっていけば、広がるほど大きくなる。
おっとアブねぇ! 危うく飛び出るとこだった。無理やり拳を閉じて押し込める。
どうだ! コレならッ....!
視界に灰色が弾け散った。
音が消えた。
世界から色が消えた。
全部がゆっくりになって、遠く視界が反転する────。
”グチェ”
頭の中で、何かが剥がれ落ちるような感覚がした。
直後、脳内に直接、火の付いた油を注いだかの様な鋭痛が、支配する。
「唖々ア亞A々吁aゝ嗚呼アアああ!!??」
床をのたうち回り、頭を打ち付けて魚のように踊る。
徐々に、世界に、色と音が戻っていく、痛みもソレに合わせて、体から絞り出されていく、比喩じゃない、文字通り、体からまるで汗のように『灰色の水』が床に水たまりをつくる。
分かったことがある、コレはもう、二度とするべきではない、俺の生命がそう告げている。
そんでもって、自分が使おうとしているモノの、脅威、恐ろしさを、身をもって知れた。
『──精神より、一つ能力値が上昇しました。』
抑揚のないそれは、俺に言った。
何も感じなかった。
濡れてしまった床を雑巾で拭いてる、その他にも、結構物が散らかってしまったので、ついでに掃除もしようと思う。バケツを持ってきたので、それに絞って水を移す、2、3度繰り返すと大体水気はなくなった。
とりあえず、水は外にでも捨てるか。俺は、一階へ降りて、適当に水を大地へと撒いた。何だか環境破壊をしてる気分になるな。ふと気づいたが、周りはもう暗く、雲は波の変わり時だった、もうじき丸になる。
家に戻って、カアさんを見ると、また本に何やら書いている。俺の視線に気がついたのか、こちらを向いて、お腹でも空いたのかと聞いてきた。生憎そんな気分じゃなかったので、いらないとだけ言った。
「お昼のやつ、美味しかったよ」
「うん...」
自分の部屋に戻ると、そのままベットへで仰向けになった、片付けようと思ったけど、それもめんどくさくなった。
しばらくぼーっと、天井を眺めることにする。
丁度、屋根の辺りに部屋があるから、窓側に近づくとちょっと天井が低くなっていく。
むき出しの木の梁が見える。複雑に組み合わさってる、アレの一本でも外れたら、屋根が落ちてきそうだ...ん? よく見ると迷路みたいだな、よし、あそこをゴールとして、やってみるか。
──あぁやって、こう行って...あぁまた行き止まりか。
”トン....トン....”
ん? 誰か、外のドアをノックしてる?....いや、こんな郊外で、しかもこんな時間に、訪ねて来るやつなんて居ないだろ。ははぁん、さてはオメー幻聴だな。
さて、続きを──
”トン...トトン”
幻聴にしては、やけに現実的な、ドアのノックの仕方に聞こえる。うーん...まぁ、一応見に行ってみるか。気になるし。
下に降りると、カアさんもドアの方を不思議そうに見ていた。
「あんたも聞こえてるってことは...幻聴じゃないのさね」
どうやら、同じことを考えていたらしい。
「俺も幻聴だと思ってた。とりあえず、開けてみようか」
恐る恐るドアを開けるとそこには...よく知る桃色の────。
”バタン”
”ナンデシメルノ!”
「どうしよカアさん、俺なんか本格的に疲れてるみたいだ。ユシャに似た人の幻覚が見えたよ」
「お互い、今日は早めに寝るさね」
"グラクーンアケテッテバァ!"
「......ほんとにユシャなのか?」
"ソウダヨォ...."
「うーむ...よし、じゃあこうしようぜ、本当にユシャなら、俺の出す質問に答えられるはずだ」
"エェ...ナニソレェ...."
「第一問、でけでん! ユシャは、何歳までおねしょをしていたでしょうか。5秒以内にお答えください」
「5...4...3...2──」
"ロ....ロクサイ...."
「そうだったのか、初めて知ったぜ」
俺はドアを開けて、そう言った。
直後、ユシャの持つ革袋が、俺の顔面をクリーンヒットしたのは言うまでもない。
「お久しぶりです、先生」
ユシャはカアさんに一礼をすると、挨拶をした。
「久しぶりだな、一時期、グライスから病状が悪化したと聞いていたが...その様子だと、大丈夫そうさね」
「はい、おかげさまで」
そうか...カアさんは随分と街に降りてないから、ユシャと会うのは8年か...9年ぶりぐらいか?
因みに、先生って呼ばれてる理由は、薬を病気の人に作ってあげてたら、いつの間にかそう呼ばれていたそうだ。
カアさんとユシャはその他にも、孤児院の事やら、最近森の魔物が落ち着いてきていることやら、色々話していた。
「グラ君、いつまで床で伸びてるつもりなの....」
そう、今、俺は床に伸びている。
何故かって? さっき殴られたからだよ! 結構痛かったぞアレ。
「そのまま起きるのが癪だったから、話しかけられるまで、待ってたんだよ...と言うか話しなげぇよ、おかげて木目の跡がついたぜ」
俺はようやく起き上がりつつ、服についたホコリを払う。
「むぅ、グラ君が変な事するからでしょ!」
「はいはい、ごめんって。でもさ、まさかユシャが来るとは思わないだろ? カアさんだって、初めは幻聴の類だと思ってたし」
俺がそう言うと、嘘でしょ、と視線を向けるが、カアさんは無言で、露骨に視線をそらした。
「そんなぁ...先生までぇ...」
その事実に、軽く肩を落とす。
「まぁ、今度来る時は、前もって言ってくれよな」
「うん...そうする...」
「ところで...何しに来たんだ? ユシャ」
「っえ...その...能力値上げるの...一緒に手伝うって前言ったから...その、えっと....グラ君の....手助けができたら良いなって...思ってぇ...院長先生に聞いたら...いいよって....」
ユシャは、髪の毛の端っこを、指でくるくるといじりながら、とぎれとぎれにそう言った。
「あぁ、そういえば、そんなこと言ってたな...別に良かったのに...けど、ありがとな、助かるぜ」
理由を聞いて、納得した。
一応、カアさんに良いかどうかの許可は、貰わないといけないが....ちらり。
「.....まぁ、構わんさね。ついでだ、ユシャの魔力も特訓しようか」
カアさんが、珍しく、ニヤリとしながら言った。こういう時は、碌なことにならない、俺の経験上それが分かる、一体何が待ち受けているんだ...恐ろしいぜ。
「お...お手柔らかに....」
何かを感じ取ったのか、ユシャの表情が若干引きつる。
「あ、寝るとこ、どうしよ...一ヶ月丸々居るつもりなのか?」
「迷惑じゃなければ、そうしたいけど...」
「グライスの部屋で寝ればいいさね」
「え、カアさんの部屋にベット無かったけ?」
「無い」
あぁ、なるほど...だから下のソファでずっと寝てるのか...。
「あ、あと飯はもう食った?」
「うん、食べてきたよぉ」
「よしよし...んなら、細かい話は明日にするか、ふぁぁ~....」
気が抜けたのか、あくびが出た。そろそろいい時間だしな。
カアさんにおやすみと言って、ユシャと二階へ上がる。
しかし、俺は、重要なことをすっかり忘れていた。
「うわぁ...グラ君どうしたのコレ...」
「そういや、忘れてたな...」
ドアを開けるなり目に映ったのは、盗みに入られた直後のような、荒れた部屋だった。
言い訳じゃあ無いが、一応経緯は話しておいた、若干呆れ顔だったのは、この際見なかったことにする。
その後、ユシャにも手伝ってもらって、二人で部屋を片付けた。
窓から入る月明かりが、少し眩しい。
この部屋に灯りの類はなく、代りにこの月明かりで薄く暗く照らされている。
少年とユシャは寝間着へ着替え、床に就こうとしていた。
部屋にあるベットは、一人で使うと少し大きく、二人で使うと少し狭いと感じるくらいのものだ。
ユシャは、ベットに腰を掛けつつ、自身の特徴とも言える、その三つ編みを解いていた。髪はざっと腰のあたりまで長く、手を伸ばして髪を持ち上げれば、はらりと指の隙間から流れ落ち、切れた蜘蛛の糸のように、柔らかく揺らめく。
「髪を下ろしてるの、俺、初めて見たな」
「そ~お? 私寝る時は、いつも髪はこんなだよぉ」
「へぇ~」
少年の興味は尚も髪にあった、ユシャが、向こう側を向いているのを良しとして、手にとって、回したり、波打つようにうねらせたり、挙げ句の果てにはその匂いを....
「........」
「........」
目と目が会った。
「すぅ....はぁ....」
落ち着いて、冷静に少年は匂いを確かめる。人間というのは、五感的好奇心の塊だ、ソレに伴い、ハッキリと二つの人種に別れる。理性的であるか、理性的でないか。残念ながら、少年は後者であった。
それを見たユシャは、月の青い光の中でも分かるほど、静かに頬を赤く染め、怒りか、それとも恥ずかしさのあまりか、ぷるぷると体を震わせながら、体を少年の方に向け、持参した枕で自身の顔を隠した。
「なんだよ、怒ってんのか? いいじゃねぇか、髪の一本や二本」
「そういう問題じゃないのぉ!!」
枕を隔てて、聞こえる籠もった声に、少年は、困惑した。
「な、なんだよ...ちょっと気になっただけだろ...」
その返答に、ユシャはビクッと背筋が伸び、顔を隠していた枕から半分ほど覗かせる。
「ど...どんな...香りでしたか?」
「え、別に臭くはなかったけど....まぁ、強いて言うならユシャの香り?」
ポトリっと、枕が膝下に落ちる。
目線が彷徨っており、時折少年と目を合わせるが、すぐ逸らす。額に汗をかいているようで、髪の毛がぺっとり額や頬に張り付く。息も少し荒く、室内の温度が少し低いせいか、白い吐息が薄っすらと見える。
「ユシャ...大丈夫か?」
少年が、頬にピタリと手を当てると、血液が沸騰しているのではないか、と思うほどの熱を感じた。
「.......っ!?」
ボンっと煙が出そうな程顔を赤く染め上げ、そのままユシャは横に倒れ気絶してしまった。
いくら揺さぶっても起きず、完全に意識が飛んでいた。
「衛兵ッ―!!衛ー兵ー!!」
コレは一大事に違いない、そう思い、カアの元へ転がり落ちるように、走った。
肝心のカアはと言うと、夜食のスープを一人黙々と飲んでいた。
「カアさん!ユシャが!ユシャが....!」
「落ち着くさね....何があった」
少年は話した、事細かに、ユシャの髪の毛の匂いを嗅いだこと、枕で顔を隠したこと、香りがどうか聞いてきたこと、息を荒げる姿にちょっとエロいなって思ってしまったこと、頬に触れるとシャボン玉が弾けるように、気絶してしまったこと。
少年は、事情を改めて説明した上で確信した、コレは新種の病気に違いないと、ソレも加えて力説した。
スープを飲みながら聞いていたカアは、口早に全てを説明された後、耐えきれず口に含んでいたスープを少年に、吹き出す。
咽ながら、大笑いした後、唖然とする少年にこう言った。
「くくっ.....あんたそりゃ、男が女を誘うときの"アレ"さね」
と言っても、ユシャが属する宗派の作法だ、と付け加えたが、少年の耳に届いてはいなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
純白の純情を染めろ!2日目!
"私達...終わりにしましょう"
"そんな...どうしてッ!ジュンコさん!僕はこんなにあなたを愛しているのにッ!"
"嘘よ!...あなたはただ私と種ッ種したいだけッ!"
"そ....そんなことは...."
"..........さようならッ!"
"ジュンコサーーーーーン!!!!"
「グラ君....何してるの?」
「特訓を始める前の儀式、コレやんなきゃ始められないからな」
「えぇ...!? そ、そうなの?」
「まぁ、嘘だけどな」
「もぅ! 一瞬、信じちゃったよ!」
朝である。
二人共、既に朝食を済ませ、ユシャは、カアの元で魔力の習得、少年は『支配』の特訓、それが本日のメニューになっている。
さて、気になる昨晩のことだが....苦心の末、少年は、アレは全て夢だったとユシャに吹き込むことにした。案外すんなりと事は運ばれたが、カアと目が合うと、クスリと笑われるのが、少年の唯一の不満であり杞憂だった。
「そんなことよりユシャ、カアさんが下で待ってるんだろ? 行かなくて大丈夫なのか?」
「むぅ...言われなくても降りるよぉ」
ユシャは下へ通りていき、少年は訓練を再開した。
しかし、その表情は固く、どこか暗い。
「行けるはずだ....落ち着け俺」
言葉とは反対に、心臓が強張る。再び、あの何もない世界に、自分は行ってしまうのではないだろうか、そんな当たり前の不安がやはり過る。
しかし、これを成功させなければ、先へ進むことは叶わない。額に流れる汗が輪郭を伝い、右の膝に落ちた。
少年は目を閉じる、そして、闇の中に再び『灰』を灯す──。
──一方ユシャは、例によって、タマリの葉が生い茂る畑で、魔力に関する説明を受けていた。
「──とまぁ、だいたいこんな感じさね」
「な、なるほどぉ....」
明らかに、よく分からないという表情を、隠しきれていないユシャだが、カアは構うこと無く、話を進めていく。
「さて、次はあんたの魔力の『型』を見る」
タマリを一つもぎ取ると、ユシャの手のひらに載せる。
コレも少年が行ったときと同じように、半分ほど握り潰させる。サラサラとしたタマリの果汁が、ユシャの手のひらを伝い、その下の陣に垂れて広がり、形を成していく。
出来上がったそれは、薄くはあるが美しい桃色を下地に、小さく白い緩やかな波紋が、右端の方にちょこんと置いてあった。
しばらく、カアはじっとソレを見て、ユシャの方へ目線を戻す。
「──『連鎖』波紋の色によって、連鎖の特性を持つ色性決められるんだが....白か...」
そう言ってまた、黙り込んでしまう。
ユシャの心臓はドキドキであった。もし、魔力の才能が無いと言われたら、どうしよう、特訓を手伝ってあげられない、そしたら、ここを追い出されて、一ヶ月間も少年と会えないのか....いや、違う違う、そういう意味ではない、単純に友達としての話だ。と、独りでに首を激しく横に振りつつ、他にも色々と思考する中、カアが再び口を開いた。
「ユシャ....あんたの能力値の中で、"100を超えている"ものが無かったか?」
「ひゃ、ひゃい!?....あ! え~っとぉ、知力と...精神です」
急に話しかけられ、戸惑ったユシャは恐る恐るそう答えた。
「なるほどな...あんたの宗派では『白』は何者にでもなる...だったね」
「は、はい...そうです」
「つまりだ、『連鎖』の特性が5つの色性に自動的に付加される。若干効果は落ちるだろうがね」
最後に小声で、面白い...っと呟く。
「あの先生....」
「何さね?」
「コレはどうしたら...?」
そう言って、手のひらにある、桃色に染まったタマリ指す。
「あぁ、ソレは今からあんたが食べるさね」
「うぇ!? 食べられるんですかぁ!? ....あのぉ、実は、ちょっと美味しそうだなぁ....って思ってたので、食べます!」
爛々と目を輝かせるユシャは、少し躊躇しながらではあったが、タマリを口元へ近づけると、房を残しそのまま"ちゅるん"と口に頬張った。
食感。みずみずしく感じた果肉には似合わず、弾力がありもちもちとしていた、甘みがあり、噛めば噛むほどに、甘みが増していくので、ユシャは夢中になって、もちゃもちゃと口を動かしている。
「うぇへへ....あまうまぁ~」
ついつい顔が綻び、名残惜しそうに頬を擦る。
「コレを、そんなにうまそうに食べるとは...中々愉快な子さね」
呆れた笑みを浮かべるが、カアはどことなく楽しそうだ。
「その...甘いものは昔から好きなので...」
自身の反応を見られて少し照れるユシャ。根っからの甘党なのである。
「そうか....さて、次の段階に進もうか──」
何故、タマリを食べる必要があったのかを、少年の時のように説明し、早速、魔力を出力してみるように促す。
「目を閉じて、色を思い浮かべるんだ」
「は、はい...色ですね、やってみますよぉ...」
目を閉じると、しばらく闇が続いた。
いつまでたっても、色が現れないので不思議に思い、ユシャは闇に語りかけると、返事をするように明るい桃色が跳ね、同じ色の波紋が広がって、こだまして、闇の中に光と色が溢れ出た。
眩しさの余り目を開けると、自身の左の手のひらに、線を少し太くしたような、白色の『輪』がふよふよと、少し不安定に浮いていた。
そして、さらに気が付く、自身の左手から左腕、同じく右手から右腕、兼ねては全身から、薄く明るい桃色が出力されていた。その桃色は、よく見ると薄っすらとした波紋を纏っており、時折色が大きく揺らめくのは、この波紋による物なのだろう。
「んふふ...あはは♪」
心地が良かった。全身から溢れるこの色は、己を、証明出来るという喜びを感じるのはもちろん、胸の底から、暖かさと懐かしさが湧き出てくる。
そうだ、ほんのちょっぴりの、憧れもあることを忘れてはいけない。
あぁ、本当に心地が良い──。
「──シャ....ユシャ、聞こえてるか?」
「っは!? すみません、今、聞こえましたぁ....」
いつから話しかけられていたのかは分からないが、感覚に酔ってしまって、先生の声に意識が行かなかった。
一先ず、心を落ち着かせ、先生の言葉に耳を傾ける。
「出しすぎだ、左手だけでいい....調節できるか?」
「あ、はい、やってみます」
体全体に感じる波紋の揺らぎを、左手に集中させようと試みる、結果として、全体的にまばらだった波紋が、一点に集中したことにより、波紋による揺らぎは、先程よりも大きくなっている。左手には依然輪っかが浮かんでいる。
「輪っかか...あんたらしいと言えば、あんたらしいね」
「そ、そうですかぁ?」
色の出力を止めながら、私のどのへんが、輪っかぽいのだろうかと忙しく思考を走らせる。
ふと気がつくと、目の前に白い花があった。ついでにその後方には若干ピントのぼやけた先生の姿が見える。つまるところ、考えにふけってしまい、またもや話を聞いていなかったのだ。
さすがの彼女も呆れ顔だ。
「ん? ようやく戻ってきたみたいさね」
「あ、その...すみません先生...ちょっと私、浮かれてるみたいで...」
「ま、そういうもんだ....ところで、この花、この純白の花を、試しに染めてみるさね」
「これってぇ、グラ君が持ってたのと、おんなじヤツですか?」
花を手に取りつつ、質問をすると、彼女は静かに頷く。
果たして、グラ君に出来なかったものが、私に出来るのだろうか....若干尻込みしながらも、再び目を閉じ、闇に語りかける。
意識すると溢れ出た色が、左手から花に流れていくのを感じる。いや、これは流れるというよりは、お互いが、呼応し合っている感覚に近い。発した色の波紋を、花は反響するように、白い波紋をこちらに送ってくる、これの繰り返しが、私の中で行われて、段々と花は染まっていく。
いつしか波紋は消え、代わりに私の背が、ちょっぴり高くなった様な気がした。
閉じていた目を開くと、純白の花はそこになく、薄く可憐な桃色の花が、掌の上で咲いていた。
「でき...た....?」
「『支配』の速度は5秒弱か....問題ないさね」
私には、10分ほどに感じられたが、実際には一瞬だったらしい。
実感はあまりないが、コレが染めること、『支配』するということらしい。
花をまじまじと観察していると、先生がまた口を開く。
「さて、『支配』は済んだ、次は『作用』させてみるか」
「『作用』....これも、燃えたりするのかなぁ...?」
「いや、『連鎖』の特徴は....いや、説明するよりやってみたほうが速いな、ユシャ、この花を私が空中で回すから、何でもいい、分かりやすい"合図"を決めて、『作用』させてみるさね」
「"合図"...ですかぁ?」
「そう、頭のなかで”動け”と念じるもよし、直接言葉にするもよし、体をつかったものでも...何でもさね、じゃあ、投げるぞ」
「えぇ!? ああ!? なぁ!!」
不意に、空中へ投げられた花に戸惑いながら、ヤケクソ気味に、私は人差し指を上に振った。
丁度、私の胸の辺りの高さまで落ちていた花は、"その場で右回りに回り続けていた"
一体この花の物理的法則は、どこに行ってしまったのか...この光景に唖然とする他無かった。
「コレが、『連鎖』における『作用』さね」
「こ、これ、ずっと回るんですかぁ?」
「そうさね、あんたが止めるまで回り続ける」
「なるほど....物を回し続ける特性ですね」
「いいや、ちがう、『作用』させる直前の運動エネルギーや、位置の情報を保存し続けたり、エネルギーをそのままに、他の物にぶつけたり出来る力さね....」
「おぉ....凄そうですねぇ」
「......まぁ、使ってる内に覚えるさね....ただ、信用できる人物以外の前では、使わないほうがいい....」
諦めた顔をしつつ、タバコに火をつける。
「うーん?....どうしてですか?」
「ふぅ....じゃないと黒焦げになって死ぬさね」
「えぇ~!? し、死んじゃうのぉ...?」
先生の言葉に肩が強張り、思わずたじろいでしまう。
「大丈夫さ、ユシャ。あんた基本グライスと一緒だし、そうそう黒焦げには為らんさね」
「ま、まぁ....そうですけどぉ....」
ちょっと嬉しかった。
「さて、ついでだ....今日はもう一つ先へ───」
「..........あの」
先生の言葉を遮る。
「どうした?」
「あの、グラ君が────グラ君と一緒に次へ行きたい、です」
その言葉を聞いた先生は、少し考えた後に口を開き、"あんたがいいならソレでいい"と言って、私の頭をすれ違いざまに雑に撫でた。
──集中しろ....集中だ....。
大きく深呼吸をして、また目を閉じる。闇の中に強く灰を想像する。
しばらくすると、闇の中に灯った灰が見える。
しかし、遠い、遠いのだ、どんなに闇の中を深く潜ろうとも、あの色にたどり着ける気がしない。手を無理に伸ばし引き寄せようとはするが、空を切るばかりだ。
次第に、色は更に遠く、小さくなっていく、決して向こうが、遠ざかっているのではない、こちらが闇に流され、消えて行くのだ。
「.......クソが」
部屋が暑いわけでもないのに、全身から汗が吹き出て止まらない。額の汗が、目の中に入り染みる、思わず目を擦るが、何度も擦って赤く腫れたまぶたが、余計痛むだけだった。
失敗したのはコレで、三百四十二回目....これは決して、花を染めようとした回数じゃない。
花は朝からずっと、時が止まったかのように、瓶に飾られたままだ。
──俺は、魔力を出せなくなっていた。
────何がイケないんだ、何がダメなんだ、何でうまく出来ないんだ、前はちゃんと....出来てたはずなのに....何が変わったんだ。
失敗する度、あったはずの感覚が水で薄まってくみたいに、思い出せなくなってきてるんだ。
怖い。
いい加減、かいた汗を適当な布で拭いていると、トタトタと階段を登る足音が聞こえる。
遠慮がちに部屋のドアが開けられたと思うと、やっぱりユシャだった。
「よ、お疲れさん」
「グラ君も、お疲れ様」
ユシャは微笑みながらそう言ったが、背中の後ろに何かを隠しているように見えた。
「何持ってんの?」
「んふふ....じゃーん!」
満面の笑みで、俺の前に差し出したのは、薄く明るい、ユシャによく似た色の一本の花だった。
「.....」
「....グラ君?」
「....すげぇな、もう、出来るように成ったんだな」
声が少し震えてしまい、自分の心臓の鼓動が、まるで聞こえなくなった。
「うん、これってコツがあってねぇ、グラ君は──」
話している途中なのに、思わず目を反らして、腰を掛けていたベットから立ち上がる。
嫌な予感と言うか、声というか...そんなものが、心音の代わりに大きくなっていく。
「........」
突然立ち上がった俺を、ユシャは不安そうに眉をひそめて見上げる。
その視線に耐えられそうにない。とりあえず、外の空気を吸いに行こうか...。
俺がドアの取手に手を掛けると、ユシャが慌てたように口を開く。
「だからね! グ、グラ君に、えっと...コツを──」
「いらねぇよッ!!!」
心音が大きくなった。
俺はそのまま、部屋を出た、ユシャを残して。
階段を意味も無く、ゆっくりと降りながら、頭を抱える。
ちがう、チガウ....今のは...違う。そんなこと、言うつもりじゃなかった、「外の空気を吸ってくる」って伝えたかったのに....口を開いた途端、押し込めていた感情が、俺の口を、声を、勝手に使った。
──だまれ、嫉妬なんかじゃない!俺はそんな小さいやつじゃない!違うんだよぉ.....
本格的に頭が痛くなって、俺は右手でこめかみを押さえながら、外へと出た。
とっくに外は夕暮れで、吹いてる風は、生ぬるく感じた。どこに行こうと言う訳でもないので、とりあえず、地べたに座っていると、ウクレレ先輩の音色が聞こえてきたので、そちらに移動することにした。
気を利かしてくれているのか、いつもの陽気な音楽とは違い、ゆったりとした低音の音色が響く。膝を抱え聞いている内に、気分が落ち込んでくる。
あまりにも、落ち込んできたので、顔をあげると、夕日がまぶしかった。
唐突だが、夕日に向って走ったことはあるだろうか? 俺はある。
今考えれば、アレほど虚しいことも無かった様な気がする。
どんなに走って、たとえあの草原を越えようとも、たどり着けない。
自分では進んだように見えても、それは進んでないんだ。
だってそうだろ、結局逃げてるだけなんだからさ。
届かないことを知って、走り続けるんだからさ。
「────才能ねぇのかな」
ポツリと呟くと "えいっ" という抜けた声とともに、首筋の両側を挟むようにべちりと衝撃が走る。
「いってぇ!?」
思わず後ろに倒れたが、地面に頭を打ち付けることはなく、代わりにぷよぷよした感触を、後頭部に感じた。
「んふふ....」
「なんだ、ユシャか....」
したり顔で、ユシャが俺を覗き込んでいた。
ぷよぷよとした感触の正体は、ユシャの膝であり、太ももだった。
「ここで何してたのぉ?」
「外の空気を吸いたかったんだ....ついでに、夕日を見てた」
「そっかぁ....」
「.....」
「グラ君、今日は特訓どうだった?」
「.....どうもこうも、魔力を出せなくなっちまった」
「それって...昨日言ってた"失敗"のせい?」
「いや──」
「はぁーい、グラ君は今、正直者の仮面を付けたのでぇ、正直な気持ちしか話せません!」
我が友ながら鋭い。
テキトーに否定しようとしたら、言葉を遮られ、ユシャの両手が俺の両目を覆った。
そして、デコに丁度ユシャの三つ編みがちょこんと乗っかる....くすぐったい。
「.....分かった分かった、今から俺は、聖人もドン引きな正直者だ」
「じゃあ、もう一回聞くね....魔力を出せなくなったのは"失敗"が怖いから?」
「.....................そう、だと思う。ずっと、頭の中にその時の感覚がチラつてるのはあった。ムキになってさ、そんなことはないって、自分に言い聞かせて、何回も繰り返してる内に、よく分からなくなった。」
自分でも驚くぐらいに、"正直者の仮面"を着けた俺はスラスラと胸の内を語る。
「そっかぁ....よく分からなくなったていうのは、どういうことぉ?」
「.....自分の色を思い浮かべる内にさ、どんどん感覚が遠のいていくっていうか、俺のものじゃなくなっていく感じ、結構焦ったぜ....はは」
「グラ君はさ、自分の『色』のこと、どう思ってるの?」
自傷気味笑う俺に対して、ユシャは静かに問いかける。
「どうって...例えば?」
「....好きとか嫌いとか、違うとか、見たくないとか、そんなの」
「どうだろうな.....あんまり考えたことねぇや。」
「好き?」
「.....好きではないな、少なくとも」
「じゃあ、嫌い?」
「嫌いでもない....というか、俺って感じがしないんだ、他人って感じ....つまんねぇんだよ、ぱっとしなくてさぁ...」
「でも私、グラ君の色好きだよ、"グラ君"って感じがするし」
「物好きだよなユシャも、と言うかそれ、前も言ってたよな」
「うん、だってねぇ...色は自分のえーっと、何だったかなぁ...あ!そう鏡だから。だから──」
「だから、俺が鏡に写ってる自分に向かって、"ぱっとしない" って言ってるのと同じって言いたいのか?」
「うん、それもあるけど、向こうもグラ君の事を見てる、って事を知って欲しいなぁ」
「でもさ──」
「違うよ。自分が先か色が先なのかは、関係ないよ」
「よく分かったな...俺が言おうとしてること」
「私も、昔同じこと考えたからね...」
「.......」
「だからね、グラ君。ちゃんとお話するの『自分』と....そしたらちゃんと答えてくれるから」
「それが....さっき言ってた"コツ"ってやつか」
「実はね....あそこで私が花を見せたら、グラ君が....その、よく思わないだろうなぁ、っていうのは分かってたの、でも....黙っているのは、違うって思ったから。」
「..........」
「それとね、コレは私のワガママなんだけど、グラ君とおんなじぐらいに進みたかったの....」
俺を覆うユシャの手が、少しだけキュッと力が入るのが分かった。
「なんだよ...俺だけ格好悪いぜ」
俺はいい加減、正直者の仮面を脱いだ。
この力を借りずに言わないといけない言葉がある。
「ユシャ、さっきは...怒鳴って悪かったな」
「....赦します、その代わり一緒に頑張ろうね」
「当たり前だろ、早速"コツ"ってやつを試してみるか」
「ダメだよぉ、今日はちゃんと休んで明日から」
「分かってるって.....それと、やっぱりお前ちょっと太ったよな、前よりぷにょぷにょするし」
俺は立ち上がって振り返りながら、見上げるユシャにそう言ってやった。
「むぅ...! なんでそういうこと言うのぉ!」
「くっ....どうやら、正直者の仮面を着けすぎたようだ、俺の体の中に正直者の魔力が──」
片目を押さえ大げさなリアクションを取る。
「もぅ、そんなわけないよぉ! グラ君の嘘つきぃ!」
分かりやすく怒ったユシャの機嫌を、元に戻すのに苦労したのは、また別の話だ。