たべる -だしまきたまご-
白い皿がコトリと目の前に置かれる。
そいつの中心に図太く座っているのは黄色いだし巻き卵だ。
俺はいただきますと小声で呟き、箸を手に取った。
だし巻き卵に限らず卵料理ってのはまず色がいい。
唯一無二の黄色は料理界においてはただ、卵のものである。
くん、と匂いを嗅いでみると、だしの香りがきちんと鼻の奥をくすぐった。
早速箸を沈める、どんな工夫を施したのかは分からないが、卵は柔らかく、力を入れずともその身を切ることができた。
しかし人間だって理屈はわからんが器用である、食べやすい大きさになったものを、今度は崩さずに口へと運んでいける。
ん、うまい。
だしに醤油が多めに入ってるらしい、僅かながらに、だがしっかりと醤油の味がする。
あっためた醤油ってうまいよなぁ、醤油ラーメンとか、あとは何だろう。
そんなことが頭に浮かんだが、今はとりあえずこいつを食うことに専念しようと思った。
あと四口くらいの量が奴にはある。
二口目を口に入れる、あー、うまいな。
なんかこう、舌全部がだしに反応してる。
そのだしを巻き込んだ卵がうまいことうまいこと。
気が付いたら飲み込んでしまった。
三口目は、四口目と一緒に放り込んでしまうことにした。
あちち、うまい、あち、うまい。
うぐ、口の中がいっぱいになってしまって熱の逃げ場がない。
完全に舌を火傷してしまったなこりゃ。
したをやけどした…いや、なんでもない。
口の中がカラになる頃には、すっかりジンジンと痛む舌と、だしの味が口の中がいっぱいに広がったことによる幸福感が残った。
あー、口ん中全部がだし巻き卵だ。
最後の一切れに箸を伸ばす。
こいつで終わりか、とその一切れをまじまじと見たあと、手早くそいつを口の中に放り込んだ。
最後の一切れだ、せっかくだからよぉく味わって食べよう。
んむ、んむ、んむ。
味わうには噛むのが一番だ。
ん、ん?
噛んでたら、もう無くなってしまった。
最後の一切れにサヨナラを言う前に逃げられてしまった。
それなら俺も後ろ髪をひかれないように、とカップを持ち上げ、中の水を一息に飲み干した。
氷だけがカップに残り、テーブルに置いた時にカランと音を立てた。
もう皿の上にも、口の中にもどこにもだし巻き卵は無くなっていた。
名残はおしいが、当たり前のことだった。
俺は手を合わせ、席を立った。




